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18.妃の幸せは…③
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「いいえ、そうではないわ。元婚約者も直系の王族だから正当な血筋は途絶えてはいない。それに王太子と元婚約者は容姿が似ていたから生まれた子も怪しまれなかった。だから表向きは何も起きていないわ」
「………」
私は王妃教育を受けている時に王族の歴史をすべて学んだので知っている。『若くして亡くなった直系の王族』『婚約者を王太子に譲ったとされる王族』『その王太子に似ている容姿』その3つの条件に当てはまる人物は1人だけだ。
それは王宮の壁に飾られている肖像画の人物で王太子ロイドに髪の色と目の色を除けばよく似ている…。
---ああ、そんなことが。まさかこの物語の主人公が…。
私が真実に辿り着き啞然としていると、王妃様は悪戯が見つかった子供のような顔をして微笑んでいる。
「ふふふ、この王太子妃が選んだ幸せは『愛する人の子供を産んだこと』、そして国王が亡くなる時耳元で真実を教え『絶望』を与えることのようよ」
王妃様が聞かせてくれた妃の話は最後は未来形で終わっている…。王妃様は口元でそっと人差し指を立てて『内緒よ』と釘を刺す。
もちろん私は誰にも言わない。
きっと代々の妃達は人に明かせない方法で自分の幸せを掴んだ者もたくさんいるのだろう。そしてその妃達の裏を秘密裏に語り継ぎ、孤独な妃達はお互いを心の拠り所にしその立場に耐えてきたのかもしれない。
それを知って私は自分一人が王宮から逃げ出すことが後ろめたく思えてきた。きっと他の妃達も苦しかったのに『妃という立場』を投げ出さない方法で幸せを掴んできたのに。
---自分は本当にこれでいいのだろうか?
此処迄きておきながら自分の決心が揺らぎ始めていると、いきなり背中をドンっと手の平で叩かれた。
「考えるのはお止めさい。貴女も私もそして他の妃達もやってきたことが正しいかなんて分からない。でもね……間違いなく必要な事だったのよ。妃の幸せを誰も考えてくれないなかで生き抜くためには!
だから胸を張りなさい、そして前だけ見なさい!」
「分かっております。…今更ですが王太子妃の私が責任を放棄し逃げていいのでしょうか…。そんなことが許されるのでしょうか…」
「後悔なんて許さないし許されないわ。私達が選んだ幸せは誰かや何かを犠牲にして成り立っている、けれども後戻りはできないのよ。
それをしたら私達妃を陰ながら支えてくれた者まで危険に晒すことになる。王宮で貴女が狂人を演じていたとき勘の鋭い侍女は薄々気づいていた者もいたでしょう、でも黙っていた。その意味を考えなさい」
---そうだ、きっと王妃様の他にも影の協力者はいたのかもしれない。いいえ、きっといたはずだ。
王妃様の言葉で私の迷いは消え去った。
私が死を偽装することによって裏切った王太子や父であった宰相が苦しむのは自業自得だと割り切れる。
しかし私の行為がバレたら陰で助けてくれた者達まで処罰される恐れがある、そんなことは絶対に駄目だ。
だから私はもう迷わない、迷うことは許されないのだから。私は顔を上げてきっぱりと言い切った。
「王妃様、有り難うございます。今晩、王太子妃マリアンヌは予定通り死にます。ご迷惑をお掛けしますが後のことよろしくお願いします」
「ええ任せなさい。自由を手に入れた後は貴女次第です、頑張りなさい。さよならマリアンヌ」
そういうと王妃様は最後の抱擁をしようとする私を避け部屋から出ていってしまった。けれども横を通り過ぎる時に見たその美しい横顔には一筋の涙が流れていた。
---義母上様、本当にお世話になりました。
そして…最後の願いが叶った時に心穏やかでいられますように願っております。
国王や王太子や重鎮達は私の死によって何か変わるだろうか…?いいえ、きっと何も変わらないだろう。彼らはまた新たな妃を迎え傷つけていくのだろう。そして妃達の裏を知らずに何もかも順調だと信じて生きていくのだ。
きっと真に不幸なのは見限られた男達なのかもしれない。だが自分達に都合の良い現実しか見ない彼らはそれすら気づかない。…本当に愚かだ。
狂気の王太子妃マリアンヌは今夜不幸にも炎に焼かれて死ぬことになる。
そして私は別人となって隣国で新しい人生を送る予定だ。だが期待以上に不安がある、海を越えて行く隣国は遥か遠くにあり道中も危険が多く無事に着ける保証はない。それに何不自由ない生活しか経験したことが無い私が新たな生活に馴染めるとは限らない。
でも他の妃と同様、自分で選んだ道を進むだけだ。私の後ろには道はない。
この先に何が待ち受けようとも、私の幸せは私が決める。
(完)
****************************
これにて完結です。
最後まで読んでいただき有り難うございました。
「………」
私は王妃教育を受けている時に王族の歴史をすべて学んだので知っている。『若くして亡くなった直系の王族』『婚約者を王太子に譲ったとされる王族』『その王太子に似ている容姿』その3つの条件に当てはまる人物は1人だけだ。
それは王宮の壁に飾られている肖像画の人物で王太子ロイドに髪の色と目の色を除けばよく似ている…。
---ああ、そんなことが。まさかこの物語の主人公が…。
私が真実に辿り着き啞然としていると、王妃様は悪戯が見つかった子供のような顔をして微笑んでいる。
「ふふふ、この王太子妃が選んだ幸せは『愛する人の子供を産んだこと』、そして国王が亡くなる時耳元で真実を教え『絶望』を与えることのようよ」
王妃様が聞かせてくれた妃の話は最後は未来形で終わっている…。王妃様は口元でそっと人差し指を立てて『内緒よ』と釘を刺す。
もちろん私は誰にも言わない。
きっと代々の妃達は人に明かせない方法で自分の幸せを掴んだ者もたくさんいるのだろう。そしてその妃達の裏を秘密裏に語り継ぎ、孤独な妃達はお互いを心の拠り所にしその立場に耐えてきたのかもしれない。
それを知って私は自分一人が王宮から逃げ出すことが後ろめたく思えてきた。きっと他の妃達も苦しかったのに『妃という立場』を投げ出さない方法で幸せを掴んできたのに。
---自分は本当にこれでいいのだろうか?
此処迄きておきながら自分の決心が揺らぎ始めていると、いきなり背中をドンっと手の平で叩かれた。
「考えるのはお止めさい。貴女も私もそして他の妃達もやってきたことが正しいかなんて分からない。でもね……間違いなく必要な事だったのよ。妃の幸せを誰も考えてくれないなかで生き抜くためには!
だから胸を張りなさい、そして前だけ見なさい!」
「分かっております。…今更ですが王太子妃の私が責任を放棄し逃げていいのでしょうか…。そんなことが許されるのでしょうか…」
「後悔なんて許さないし許されないわ。私達が選んだ幸せは誰かや何かを犠牲にして成り立っている、けれども後戻りはできないのよ。
それをしたら私達妃を陰ながら支えてくれた者まで危険に晒すことになる。王宮で貴女が狂人を演じていたとき勘の鋭い侍女は薄々気づいていた者もいたでしょう、でも黙っていた。その意味を考えなさい」
---そうだ、きっと王妃様の他にも影の協力者はいたのかもしれない。いいえ、きっといたはずだ。
王妃様の言葉で私の迷いは消え去った。
私が死を偽装することによって裏切った王太子や父であった宰相が苦しむのは自業自得だと割り切れる。
しかし私の行為がバレたら陰で助けてくれた者達まで処罰される恐れがある、そんなことは絶対に駄目だ。
だから私はもう迷わない、迷うことは許されないのだから。私は顔を上げてきっぱりと言い切った。
「王妃様、有り難うございます。今晩、王太子妃マリアンヌは予定通り死にます。ご迷惑をお掛けしますが後のことよろしくお願いします」
「ええ任せなさい。自由を手に入れた後は貴女次第です、頑張りなさい。さよならマリアンヌ」
そういうと王妃様は最後の抱擁をしようとする私を避け部屋から出ていってしまった。けれども横を通り過ぎる時に見たその美しい横顔には一筋の涙が流れていた。
---義母上様、本当にお世話になりました。
そして…最後の願いが叶った時に心穏やかでいられますように願っております。
国王や王太子や重鎮達は私の死によって何か変わるだろうか…?いいえ、きっと何も変わらないだろう。彼らはまた新たな妃を迎え傷つけていくのだろう。そして妃達の裏を知らずに何もかも順調だと信じて生きていくのだ。
きっと真に不幸なのは見限られた男達なのかもしれない。だが自分達に都合の良い現実しか見ない彼らはそれすら気づかない。…本当に愚かだ。
狂気の王太子妃マリアンヌは今夜不幸にも炎に焼かれて死ぬことになる。
そして私は別人となって隣国で新しい人生を送る予定だ。だが期待以上に不安がある、海を越えて行く隣国は遥か遠くにあり道中も危険が多く無事に着ける保証はない。それに何不自由ない生活しか経験したことが無い私が新たな生活に馴染めるとは限らない。
でも他の妃と同様、自分で選んだ道を進むだけだ。私の後ろには道はない。
この先に何が待ち受けようとも、私の幸せは私が決める。
(完)
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これにて完結です。
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