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14.療養という名の幽閉
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国王と重鎮達の話し合いの末、王太子妃は離宮にて療養することになった。だがそれは体のいい幽閉に他ならなかった。
もちろん妻を愛する王太子は最後まで反対をした。
「マリーは絶対に良くなります。王宮でしっかりと治療を受けさせるべきです、あんな離宮に追いやったら返って元に戻りません」
王太子の必死の訴えに頷く者は誰一人いなかった。王太子妃の狂気を目の当りにしたし、子を望めない妃など見放すことにしたのだ。
それにこの場にいるただ一人の女性である王妃も王太子妃を離宮に送ることに反対していない。それどころか最初に『療養』を言い出したのは彼女でもあった。
「母上はマリーを可愛がっていたのに、どうして遠い離宮での療養に賛成なさるのですか。酷いではありませんか!」
「最初に酷い事をしたのは私ではなく夫である貴方です。今頃になって周りを責めるなど虫がいい話ですね、恥を知りなさい!
そして王太子妃はいつでも立派な姿を見せることが望まれています。『癒し』で壊れてしまうあれでは駄目なのです。そうですよね?国王様」
王妃の厳しい言葉に王太子は言い返せず、また国王も昔から『癒し』の存在を都合よく使っていたので何も言えない。それは周りにいる重鎮達も同じだった。
男の身勝手に耐えることが出来ない妃を認めたら、自分達の首を絞めることにもなるのだから‥‥。
王族だけでなく貴族の男性は、女性には貞淑を求めるくせに自分に寛容なものが多いのだ。
こうなっても心から王太子妃の事を考える者は誰もいない。一見王太子は妻を気遣っているように思えるが、愛するマリーを自分の近くに置きたいという自分の要求を通したいだけだ。
この国はどこまでも妃という存在を軽んじている。
『王太子妃マリアンヌの病気療養』は正式に決定し、その場所は王宮から遠く離れた森の中にある離宮に決定された。それは狂った王太子妃を世間から隠すための幽閉であった。
*****************************
~マリアンヌ視点~
私が倒れてから数日後、王太子から直接療養の件は告げられた。
「マリー、君は疲れているようだから空気の澄んだ離宮でゆっくりすることになったよ」
「あら有り難うございます。でも王太子妃の公務を休んでもよろしいのですか?立派な王太子妃でなくなってしまうわ」
「もういいんだよ。本当に済まない、君がこんなになるまで気づかずに…。私は自分の事しか考えていなかった」
王太子は涙を流し王太子妃である私にひたすら謝罪を繰り返している。王太子は簡単に首を下げてはいけない存在だ、私は慌てて彼を止める。
「王太子様、私になど頭を下げてはいけませんわ。それに謝ることは何もありませんから謝らないでくださいませ」
「…もうロイと呼んでくれないのか。頼むまた前のように『ロイ』と呼んでくれ、マリー」
王太子は懇願するが、私の口から『ロイ』という言葉が出てくることはない。その言葉は一年前に私の中から消えているから。
「それは命令でございますか?」
私は王太子妃として微笑みながら聞いてみる、きっと彼がこの場で『そうだ』と言えば立派な王太子妃として『ロイ』と応えるだろう。でもそれでは王太子にとって意味がなかったようだ。
「済まない、無理を言って」
そう言って彼は優しく私を抱き締め泣き続け、何度も『マリー愛している、すまない』と繰り返している。
私も同じ様に抱き返したが涙が出てくることはなく、笑いながら『さようなら王太子様』と耳元で囁いてあげた。
もちろん妻を愛する王太子は最後まで反対をした。
「マリーは絶対に良くなります。王宮でしっかりと治療を受けさせるべきです、あんな離宮に追いやったら返って元に戻りません」
王太子の必死の訴えに頷く者は誰一人いなかった。王太子妃の狂気を目の当りにしたし、子を望めない妃など見放すことにしたのだ。
それにこの場にいるただ一人の女性である王妃も王太子妃を離宮に送ることに反対していない。それどころか最初に『療養』を言い出したのは彼女でもあった。
「母上はマリーを可愛がっていたのに、どうして遠い離宮での療養に賛成なさるのですか。酷いではありませんか!」
「最初に酷い事をしたのは私ではなく夫である貴方です。今頃になって周りを責めるなど虫がいい話ですね、恥を知りなさい!
そして王太子妃はいつでも立派な姿を見せることが望まれています。『癒し』で壊れてしまうあれでは駄目なのです。そうですよね?国王様」
王妃の厳しい言葉に王太子は言い返せず、また国王も昔から『癒し』の存在を都合よく使っていたので何も言えない。それは周りにいる重鎮達も同じだった。
男の身勝手に耐えることが出来ない妃を認めたら、自分達の首を絞めることにもなるのだから‥‥。
王族だけでなく貴族の男性は、女性には貞淑を求めるくせに自分に寛容なものが多いのだ。
こうなっても心から王太子妃の事を考える者は誰もいない。一見王太子は妻を気遣っているように思えるが、愛するマリーを自分の近くに置きたいという自分の要求を通したいだけだ。
この国はどこまでも妃という存在を軽んじている。
『王太子妃マリアンヌの病気療養』は正式に決定し、その場所は王宮から遠く離れた森の中にある離宮に決定された。それは狂った王太子妃を世間から隠すための幽閉であった。
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「マリー、君は疲れているようだから空気の澄んだ離宮でゆっくりすることになったよ」
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「もういいんだよ。本当に済まない、君がこんなになるまで気づかずに…。私は自分の事しか考えていなかった」
王太子は涙を流し王太子妃である私にひたすら謝罪を繰り返している。王太子は簡単に首を下げてはいけない存在だ、私は慌てて彼を止める。
「王太子様、私になど頭を下げてはいけませんわ。それに謝ることは何もありませんから謝らないでくださいませ」
「…もうロイと呼んでくれないのか。頼むまた前のように『ロイ』と呼んでくれ、マリー」
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「済まない、無理を言って」
そう言って彼は優しく私を抱き締め泣き続け、何度も『マリー愛している、すまない』と繰り返している。
私も同じ様に抱き返したが涙が出てくることはなく、笑いながら『さようなら王太子様』と耳元で囁いてあげた。
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