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9.違和感②
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「あら、あれはどこに飾っているの?」
私はスズに贈り物の場所を訊ねてみる。
「マリアンヌ様、先ほどの贈り物は送り主が手違いで送ってきたようです。ですから送り主にお返しするように手配しております」
私が気に入っていた贈り物が無くなっているのを伝えるからだろう、スズは気まずそうな顔をして答えている。
あんな素晴らしい品が手元からなくなるのは残念だけれども、手違いならば仕方がない。私は心に穴が開いたような淋しさを感じたが我慢することにした。
「ところで送り主は誰だったの?」
私は深い意味はなくちょっとした興味で訊ねてみたが、スズは『お名前は忘れてしまいました』と言って答えなかった。優秀なスズが忘れるなんて有り得ない、これで送り主が王太子の癒しの誰かだと分かってしまった。
---もう私は王太子のことをなんとも想っていないのだから、気を遣うことないのに。
スズをはじめお付きの侍女達は本当に優しい。特に癒し関係だと私を心配し必要以上に気を遣ってくれる。
「まあ手違いなのだから知らなくても大丈夫よね。贈り物は残念だけど諦めましょう」
私がにこやかに言うと、スズをはじめ他の侍女達もホッとしたような表情をしている。
最近はこんな事がたまにある気がする…?
なんだろう、特に問題はないのだが、私と侍女達のやり取りに微妙な違和感を感じることがあるのだ。
「ねぇスズ。私、最近なんか変な違和感?を感じる時があるのだけれど…。なんていうか頭に靄が掛かっている時にちゃんと出来ていないというか、…上手く表現できないわ。
あなたも感じることはあるかしら?遠慮しないで正直に言ってちょうだい」
「いいえ、何もございません。ただマリアンヌ様が頑張り過ぎていて、少々お疲れ気味なのが心配なだけです」
「ふふふ、それなら大丈夫よ。私は癒しの方達に公務を負担してもらっているし、そのうえ素晴らしい贈り物が送られる時まであるのだから幸せだわ。ねえ、そうでしょう?」
「……はい、そうでございますね」
いつも元気なスズが静かに返事をする。
私は王太子妃として何もかも順調だ。
ただちょっと違和感を感じることはあるがそれさえ気にしなければ問題ない。
私は侍女達と楽しくお喋りをしながら、他の贈り物に対する礼状などを作成していく。この大変な作業に没頭していると、この部屋からあの素敵な贈り物がなくなった淋しさも私の中からいつの間にか消えていく。
暫くすると私の頭の中にあった靄が消え去り、立派な王太子妃としてやるべき事がはっきりと分かるようになってくる。そして私はいつものようにテキパキと今回の件の指示を出す。
「スズ、今日の事も内密に処理をお願いね」
「ですがマリアンヌ様、流石に今回は酷いです!報告をして対処していただきましょう」
「駄目よ。癒しの存在は表向き認められていないの、私は何も知らないはずなのに対処などしたら辻褄が合わなくなってしまうわ。周りはそんなことを求めていないわ。何も知らない王太子妃でいて欲しいのよ」
「マリアンヌ様に非がないのに我慢するなど悔しくてなりません」
「私は平気よ、こんな些細なことは気にもならないわ。だからみんなも今まで通り『何も見ていない知らない』を貫きなさい。これは命令よ」
私がそう言って微笑むと、侍女達は『はい、王太子妃様』と深々と頭を下げて従ってくれる。
違和感はもうない、すべて問題なく出来ているはずだ。
王太子妃付きの侍女達は『命令』と言われてしまえば黙って従うしかない。その命令の内容に疑問を持っていたとしても忠実に従うのが仕事であり、たとえ主人である妃の違和感に気づいてもそれを指摘する立場ではないのだ。だから少しづつ壊れていく王太子妃に黙って寄り添うしかなかった。
私はスズに贈り物の場所を訊ねてみる。
「マリアンヌ様、先ほどの贈り物は送り主が手違いで送ってきたようです。ですから送り主にお返しするように手配しております」
私が気に入っていた贈り物が無くなっているのを伝えるからだろう、スズは気まずそうな顔をして答えている。
あんな素晴らしい品が手元からなくなるのは残念だけれども、手違いならば仕方がない。私は心に穴が開いたような淋しさを感じたが我慢することにした。
「ところで送り主は誰だったの?」
私は深い意味はなくちょっとした興味で訊ねてみたが、スズは『お名前は忘れてしまいました』と言って答えなかった。優秀なスズが忘れるなんて有り得ない、これで送り主が王太子の癒しの誰かだと分かってしまった。
---もう私は王太子のことをなんとも想っていないのだから、気を遣うことないのに。
スズをはじめお付きの侍女達は本当に優しい。特に癒し関係だと私を心配し必要以上に気を遣ってくれる。
「まあ手違いなのだから知らなくても大丈夫よね。贈り物は残念だけど諦めましょう」
私がにこやかに言うと、スズをはじめ他の侍女達もホッとしたような表情をしている。
最近はこんな事がたまにある気がする…?
なんだろう、特に問題はないのだが、私と侍女達のやり取りに微妙な違和感を感じることがあるのだ。
「ねぇスズ。私、最近なんか変な違和感?を感じる時があるのだけれど…。なんていうか頭に靄が掛かっている時にちゃんと出来ていないというか、…上手く表現できないわ。
あなたも感じることはあるかしら?遠慮しないで正直に言ってちょうだい」
「いいえ、何もございません。ただマリアンヌ様が頑張り過ぎていて、少々お疲れ気味なのが心配なだけです」
「ふふふ、それなら大丈夫よ。私は癒しの方達に公務を負担してもらっているし、そのうえ素晴らしい贈り物が送られる時まであるのだから幸せだわ。ねえ、そうでしょう?」
「……はい、そうでございますね」
いつも元気なスズが静かに返事をする。
私は王太子妃として何もかも順調だ。
ただちょっと違和感を感じることはあるがそれさえ気にしなければ問題ない。
私は侍女達と楽しくお喋りをしながら、他の贈り物に対する礼状などを作成していく。この大変な作業に没頭していると、この部屋からあの素敵な贈り物がなくなった淋しさも私の中からいつの間にか消えていく。
暫くすると私の頭の中にあった靄が消え去り、立派な王太子妃としてやるべき事がはっきりと分かるようになってくる。そして私はいつものようにテキパキと今回の件の指示を出す。
「スズ、今日の事も内密に処理をお願いね」
「ですがマリアンヌ様、流石に今回は酷いです!報告をして対処していただきましょう」
「駄目よ。癒しの存在は表向き認められていないの、私は何も知らないはずなのに対処などしたら辻褄が合わなくなってしまうわ。周りはそんなことを求めていないわ。何も知らない王太子妃でいて欲しいのよ」
「マリアンヌ様に非がないのに我慢するなど悔しくてなりません」
「私は平気よ、こんな些細なことは気にもならないわ。だからみんなも今まで通り『何も見ていない知らない』を貫きなさい。これは命令よ」
私がそう言って微笑むと、侍女達は『はい、王太子妃様』と深々と頭を下げて従ってくれる。
違和感はもうない、すべて問題なく出来ているはずだ。
王太子妃付きの侍女達は『命令』と言われてしまえば黙って従うしかない。その命令の内容に疑問を持っていたとしても忠実に従うのが仕事であり、たとえ主人である妃の違和感に気づいてもそれを指摘する立場ではないのだ。だから少しづつ壊れていく王太子妃に黙って寄り添うしかなかった。
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