立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと

文字の大きさ
上 下
8 / 18

8.違和感①

しおりを挟む
「悠斗くん、体調はどう?」

 悠斗くんが熱を出して一晩が経った。
 昨日よりかは顔色も良くなっている気がする。

「昨日よりかはだいぶ良くなったよ。小春のおかげだ」
「それなら良かった。一応体温計ってね」

 私は手に持っている体温計を悠斗くんに渡す。
 三十八度を下回っていれば嬉しいんだけど……
 待つ事数秒、体温を計り終えた悠斗くんは私に体温計を渡してきた。

「うん。結構下がったね」

 体温計には三十八度丁度と表示されている。
 
「でもまだ治っては無いから安静にしなきゃダメだからね!」
「うん。分かってる」

 私は悠斗くんに毛布をかけながら言う。

「食欲はある? あるなら今日はお粥じゃなくて違うの作るよ?」
「食欲は昨日よりもあるかな。小春に任せるよ。簡単なもので良いからね」
「じゃあ今日は饂飩《うどん》にしようか。今から作って来るね」

 私はキッチンへと向かい、冷凍の饂飩を取り出し料理した。
 毎日お粥だったら飽きちゃうもんね。早く治ってほしいけど、いつ治るか分からないし、もしかしたらまた上がってきちゃうかもしれないもん。
 冷凍の饂飩は直ぐに作れる、だから直ぐに持っていける。

「悠斗くん、できたよ。冷凍の饂飩だけど、ごめんね」
「ありがとう。そんな、謝らなくても良いよ簡単なもので良いって言ったのは俺だし。それに俺は作ってもらってる側なんだから」

 私は悠斗くんのベッドの横にミニテーブルを設置して、そこに饂飩を置いた。

「ちょっと待ってね。ふー、ふー。はい、あーん」
「じ、自分で食べれるよ」

 せっかくあーんしてあげようと思ったのに、悠斗くんに断られちゃった。
 結構勇気出したのに……

「え⁉」

 私が落ち込んでいることに気づいたのか、悠斗くんは私が差し出している饂飩を食べてくれた。
 やっぱり悠斗くんは優しい。

「うん。美味しい。ありがとね、小春」

 悠斗くんは笑顔でお礼を言ってくれた。
 
「れ、冷凍の饂飩なんだから誰でも美味しくできるよ」

 私は嬉しさを抑えて笑いながらそう言う。
 
「小春が作ってくれたから美味しいんだよ。好きな人が作ってくれたものはなんでも美味しいんだよ」

 急にそんなこと言われて照れないでいるなんて私には無理だった。
 私も熱が出たのではないかというほど顔が赤くなって熱くなる。

「ん? どうかしたの? 顔赤いけど」
「な、なんでもないよ」
「まさか小春も体調悪くなったの⁉ もしかして俺が移しちゃった⁉」

 顔が赤くなったのは悠斗くんのせいだけど……でも熱も多分ないと思う。体も重くないし頭痛も無いから。

「だ、大丈夫だよ。本当に熱ないから」

 私は両手を振りながら否定する。

「本当に? でも本当に移しちゃったらダメだから後は自分で食べるよ。ありがとう」
「う、うん。じゃあ私リビングに居るから、何かあったら読んでね。早く治してね」

 そう言って私はリビングに向かった。
 
「私も熱だして悠斗くんに看病してほしいな……」

 悠斗くんが熱を出して苦しんでいるのにそんな事言っちゃダメなのは分かってる。分かってるはずなのに言ってしまった。
 熱を出して弱ってる私のためにお粥作って私に食べさせてほしいもん……
 でも、悠斗くんの熱が治っていつも通りこのリビングで、このソファーで二人で並んで座って、笑い合って話したい。
 それが今の私の一番の理想。

「明日には治っててほしいな……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

元婚約者が愛おしい

碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。 留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。 フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。 リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。 フラン王子目線の物語です。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...