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4.王妃からの説得
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宰相からの言葉は私に新たな苦痛を与えていたが、私にはまだ頼るべき人が残っていた。
それは国王の妻である王妃様だ。
私を幼少の頃から将来の王妃として教育してくださり、挫けそうになる弱い私を支えてくれた人。他のどの人の慰めの言葉より同じ経験をした王妃様の言葉はいつだって私の心に沁み、助けてくれた。私を実の娘のように可愛がり、私も『義母上様』と呼びお慕いしている。
私は侍女を通し急ぎ王妃様への面会を申し込んだ。この不安な気持ちをすべて聞いてもらいたかった。暗闇を彷徨っている私を王妃様なら救ってくれると信じていたからだ。
王妃様と面会できた私は正直にすべてを打ち明けた。王太子妃としては感情を露わにしてはいけないと分かっていたが、この時ばかりは私のなかで渦巻いている真っ黒な感情を抑える事なんて出来ず、涙が流し嗚咽しながらなんとか話しきることが出来た。
王太子の不貞を聞いた王妃様は顔を青ざめ、暫く頭を下げて何も言わなかった。
---やはり母である王妃様も驚いて言葉が出ないのだわ。そうよね、我が子がこんな酷い行為をしているのを知ったら辛く思われるわよね…。
気づくと王妃様は辛そうな表情で私を見つめて下さっていた。
「マリアンヌ、さぞかし辛い思いをしましたね。貴女の傷ついた心を思うと私も心が苦しくなります。本当に王太子が申し訳ない事をしました」
---王妃様にはやはり理解していただけた。すべてを話して良かった。
私の心に寄り添った温かい言葉を与えてくれたことで、私は少し救われた想いを感じた。
「義母上様、お心遣い有り難うございます。私は未だに信じられない思いですが、この目でその現場を目撃いたしましたので事実でございます。
正直に申しますと裏切りを許せるか分かりませんが、ロイド様を愛する気持ちに変わりはありません。ですから今回の不貞から目を背けず夫婦で話し合い最善の道を見つけたいと考えております。
その為には私はどうロイド様と対峙すれば良いでしょうか?」
私は夫と話し合うと決めていたが、こういう場合どのような態度で話し合いに臨むのが正解か知りたかった。『冷静』か『怒り』かはたまた『縋る』のか、より良い結果に導く態度を教えてもらいたかった。
それなのに…。
王妃様の助言は私を救ってはくれなかった。
「その必要はありません。王太子の愚かな振る舞いのことなど忘れなさい」
「わ・す・れ・る…ですか…」
「そうです。それが王太子妃としての正しい対応です。王太子は常に緊張を強いられる地位です。安らげる時と場所は多いほど良いと思いませんか?」
「ですが、妻である私の存在こそが安らげる場所であるべきですわ。あれはただの不貞で、」
「貴女は立派な王太子妃ですが、残念なことに王太子には他の癒しも必要なようですね。
マリアンヌ、誤解しないで責めているのではありませんよ。貴女が頑張ってくれているのは私が一番よく理解しています。
だからこそ、これ以上の負担を貴女に掛けようとは思いません。『自分が出来ない事を他の者に割り振る』王妃教育でも伝えたでしょう?
なんでも自分で抱え込む必要はないのです。『王太子の安らげる場所になる』という仕事を他の人に割り振ると考えなさい。……周囲の者達もそれを望んでいるのです。
分かりますね?マリアンヌ」
---何を分かれというの…。王太子の不貞を正当化しているだけじゃないの、こんなの間違っているわ。
本来なら王太子妃が王妃に反論するなど許されない行為だが、私は納得などできず王妃様にきつい眼差しを向けてしまった。
𠮟責を覚悟の上だったが、王妃様はただ黙って私を真っ直ぐ見つめ返している。そこに浮かんでいる王妃の表情は反論を許さないという厳しいものではなく、同じ女性として苦しんでいる表情だった。
---えっ!まさか王妃様も同じなの‥‥?
これで私は悟った、王族は『癒しという名の不貞』を昔から暗黙の了解としていることを。
代々の王族の伴侶は私と同じ様に嘆き苦しみ、そして諦めてきたのだろう。
---昔から続く男の身勝手な悪習を、一人の王太子妃ごときが覆すことなど出来ないのね。
それを知った私の口から出るべき言葉は一つしかなかった。
「…王妃様、承知致しました」
それは国王の妻である王妃様だ。
私を幼少の頃から将来の王妃として教育してくださり、挫けそうになる弱い私を支えてくれた人。他のどの人の慰めの言葉より同じ経験をした王妃様の言葉はいつだって私の心に沁み、助けてくれた。私を実の娘のように可愛がり、私も『義母上様』と呼びお慕いしている。
私は侍女を通し急ぎ王妃様への面会を申し込んだ。この不安な気持ちをすべて聞いてもらいたかった。暗闇を彷徨っている私を王妃様なら救ってくれると信じていたからだ。
王妃様と面会できた私は正直にすべてを打ち明けた。王太子妃としては感情を露わにしてはいけないと分かっていたが、この時ばかりは私のなかで渦巻いている真っ黒な感情を抑える事なんて出来ず、涙が流し嗚咽しながらなんとか話しきることが出来た。
王太子の不貞を聞いた王妃様は顔を青ざめ、暫く頭を下げて何も言わなかった。
---やはり母である王妃様も驚いて言葉が出ないのだわ。そうよね、我が子がこんな酷い行為をしているのを知ったら辛く思われるわよね…。
気づくと王妃様は辛そうな表情で私を見つめて下さっていた。
「マリアンヌ、さぞかし辛い思いをしましたね。貴女の傷ついた心を思うと私も心が苦しくなります。本当に王太子が申し訳ない事をしました」
---王妃様にはやはり理解していただけた。すべてを話して良かった。
私の心に寄り添った温かい言葉を与えてくれたことで、私は少し救われた想いを感じた。
「義母上様、お心遣い有り難うございます。私は未だに信じられない思いですが、この目でその現場を目撃いたしましたので事実でございます。
正直に申しますと裏切りを許せるか分かりませんが、ロイド様を愛する気持ちに変わりはありません。ですから今回の不貞から目を背けず夫婦で話し合い最善の道を見つけたいと考えております。
その為には私はどうロイド様と対峙すれば良いでしょうか?」
私は夫と話し合うと決めていたが、こういう場合どのような態度で話し合いに臨むのが正解か知りたかった。『冷静』か『怒り』かはたまた『縋る』のか、より良い結果に導く態度を教えてもらいたかった。
それなのに…。
王妃様の助言は私を救ってはくれなかった。
「その必要はありません。王太子の愚かな振る舞いのことなど忘れなさい」
「わ・す・れ・る…ですか…」
「そうです。それが王太子妃としての正しい対応です。王太子は常に緊張を強いられる地位です。安らげる時と場所は多いほど良いと思いませんか?」
「ですが、妻である私の存在こそが安らげる場所であるべきですわ。あれはただの不貞で、」
「貴女は立派な王太子妃ですが、残念なことに王太子には他の癒しも必要なようですね。
マリアンヌ、誤解しないで責めているのではありませんよ。貴女が頑張ってくれているのは私が一番よく理解しています。
だからこそ、これ以上の負担を貴女に掛けようとは思いません。『自分が出来ない事を他の者に割り振る』王妃教育でも伝えたでしょう?
なんでも自分で抱え込む必要はないのです。『王太子の安らげる場所になる』という仕事を他の人に割り振ると考えなさい。……周囲の者達もそれを望んでいるのです。
分かりますね?マリアンヌ」
---何を分かれというの…。王太子の不貞を正当化しているだけじゃないの、こんなの間違っているわ。
本来なら王太子妃が王妃に反論するなど許されない行為だが、私は納得などできず王妃様にきつい眼差しを向けてしまった。
𠮟責を覚悟の上だったが、王妃様はただ黙って私を真っ直ぐ見つめ返している。そこに浮かんでいる王妃の表情は反論を許さないという厳しいものではなく、同じ女性として苦しんでいる表情だった。
---えっ!まさか王妃様も同じなの‥‥?
これで私は悟った、王族は『癒しという名の不貞』を昔から暗黙の了解としていることを。
代々の王族の伴侶は私と同じ様に嘆き苦しみ、そして諦めてきたのだろう。
---昔から続く男の身勝手な悪習を、一人の王太子妃ごときが覆すことなど出来ないのね。
それを知った私の口から出るべき言葉は一つしかなかった。
「…王妃様、承知致しました」
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