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1.王太子の不貞

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---ああ…、また新しい子なのね。

私の夫である王太子は庭園の木陰で新たな恋人との逢瀬を密かに楽しんでいる。たまたま庭を散策していた私とお付きの者達はそれに気づいたが、みな私がどう対応するか分かっているので見ないふりをする。

私はいつものように不自然に行き先を変え、夫が逢瀬を楽しむ場所からそっと離れていく。侍女は『あちらの方が花も多く咲いておりますね』と言いながら私に少しでも不快な現場を見せない様に気を遣ってくれる。
とんだ茶番だが、これは最早私と侍女達の暗黙の了解になっていた。




私と王太子は幼い頃より婚約を結び、『マリー』『ロイ』と互いにで呼び合い相思相愛の仲だった。婚姻を結ぶ時は生涯私だけを愛すると誓ってくれて、いつも私にだけ愛を囁いていてくれたロイ。私もロイを心から愛していたし尊敬もしていたので、彼の心を疑うことなく婚姻を結び、王太子妃となった。

王太子妃の公務は重圧もあり大変だったが、愛する人と共に歩む生活は大変さよりも幸せが上回っていた。
私は幸せな毎日を送っているつもりだったのだ、彼の不貞に気付くあの日まで…。


今となっては幻のように思えてしまうがあの時までの私は確かに幸せだった…。



ある日私が王太子妃としての公務を予定より早く終わらせ王太子の執務室に向かうと、扉の前で警護をしている騎士達が私を見て気まずそうな顔をした。王太子の護衛騎士に選ばれる優秀な彼らは一度だって王太子妃である私にそんな表情を見せることなどなかった。

嫌な予感がした…。

「ロイはなかにいるのでしょう。ちょっと時間が空いたから顔を見に来たの通してちょうだい」

「いえ、王太子様はただいま公務中でお忙しく…」

「大丈夫よ、邪魔なんてしないわ。手伝えることがあればと思ってきたのだから」

護衛騎士達は歯切れの悪い物言いで私を執務室から遠ざけようとするが私は彼らを強引に下がらせた。
そして私はお付きの侍女と共となかへと入っていった、それも公務の邪魔をしないようにそっと…。
広い執務室には王太子の姿はなく、その奥にある休憩室の僅かに開いた扉から微かに声が漏れ聞こえてきた。それは男女の甘ったるい声だった。

「ロイド様、愛しております。私だけのものになってくださればいいのに。隣に堂々と立てる王太子妃様が羨ましくてなりませんわ」

「今この瞬間、私は君だけのものだ。それで許しておくれ」

「狡い人ね。でも愛しているから許しますわ」

「そんな君が可愛くて仕方がないんだ」

愛を囁くその声は夫であるロイのものだった。何度も耳元で聞いている夫の声を私が聞き間違えるはずはない。信じたくなかったが、隣にいる侍女の表情もそれを肯定している。

その後すぐに会話はなくなり女性の喘ぎ声だけが漏れ始めてきた。

---えっ、こんなところで…。

何をしているか分かり切っている事だった、愛するロイは私に隠れて不貞をしていたのだ。
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