1 / 18
1.王太子の不貞
しおりを挟む
---ああ…、また新しい子なのね。
私の夫である王太子は庭園の木陰で新たな恋人との逢瀬を密かに楽しんでいる。たまたま庭を散策していた私とお付きの者達はそれに気づいたが、みな私がどう対応するか分かっているので見ないふりをする。
私はいつものように不自然に行き先を変え、夫が逢瀬を楽しむ場所からそっと離れていく。侍女は『あちらの方が花も多く咲いておりますね』と言いながら私に少しでも不快な現場を見せない様に気を遣ってくれる。
とんだ茶番だが、これは最早私と侍女達の暗黙の了解になっていた。
私と王太子は幼い頃より婚約を結び、『マリー』『ロイ』と互いに愛称で呼び合い相思相愛の仲だった。婚姻を結ぶ時は生涯私だけを愛すると誓ってくれて、いつも私にだけ愛を囁いていてくれたロイ。私もロイを心から愛していたし尊敬もしていたので、彼の心を疑うことなく婚姻を結び、王太子妃となった。
王太子妃の公務は重圧もあり大変だったが、愛する人と共に歩む生活は大変さよりも幸せが上回っていた。
私は幸せな毎日を送っているつもりだったのだ、彼の不貞に気付くあの日まで…。
今となっては幻のように思えてしまうがあの時までの私は確かに幸せだった…。
ある日私が王太子妃としての公務を予定より早く終わらせ王太子の執務室に向かうと、扉の前で警護をしている騎士達が私を見て気まずそうな顔をした。王太子の護衛騎士に選ばれる優秀な彼らは一度だって王太子妃である私にそんな表情を見せることなどなかった。
嫌な予感がした…。
「ロイはなかにいるのでしょう。ちょっと時間が空いたから顔を見に来たの通してちょうだい」
「いえ、王太子様はただいま公務中でお忙しく…」
「大丈夫よ、邪魔なんてしないわ。手伝えることがあればと思ってきたのだから」
護衛騎士達は歯切れの悪い物言いで私を執務室から遠ざけようとするが私は彼らを強引に下がらせた。
そして私はお付きの侍女と共となかへと入っていった、それも公務の邪魔をしないようにそっと…。
広い執務室には王太子の姿はなく、その奥にある休憩室の僅かに開いた扉から微かに声が漏れ聞こえてきた。それは男女の甘ったるい声だった。
「ロイド様、愛しております。私だけのものになってくださればいいのに。隣に堂々と立てる王太子妃様が羨ましくてなりませんわ」
「今この瞬間、私は君だけのものだ。それで許しておくれ」
「狡い人ね。でも愛しているから許しますわ」
「そんな君が可愛くて仕方がないんだ」
愛を囁くその声は夫であるロイのものだった。何度も耳元で聞いている夫の声を私が聞き間違えるはずはない。信じたくなかったが、隣にいる侍女の表情もそれを肯定している。
その後すぐに会話はなくなり女性の喘ぎ声だけが漏れ始めてきた。
---えっ、こんなところで…。
何をしているか分かり切っている事だった、愛するロイは私に隠れて不貞をしていたのだ。
私の夫である王太子は庭園の木陰で新たな恋人との逢瀬を密かに楽しんでいる。たまたま庭を散策していた私とお付きの者達はそれに気づいたが、みな私がどう対応するか分かっているので見ないふりをする。
私はいつものように不自然に行き先を変え、夫が逢瀬を楽しむ場所からそっと離れていく。侍女は『あちらの方が花も多く咲いておりますね』と言いながら私に少しでも不快な現場を見せない様に気を遣ってくれる。
とんだ茶番だが、これは最早私と侍女達の暗黙の了解になっていた。
私と王太子は幼い頃より婚約を結び、『マリー』『ロイ』と互いに愛称で呼び合い相思相愛の仲だった。婚姻を結ぶ時は生涯私だけを愛すると誓ってくれて、いつも私にだけ愛を囁いていてくれたロイ。私もロイを心から愛していたし尊敬もしていたので、彼の心を疑うことなく婚姻を結び、王太子妃となった。
王太子妃の公務は重圧もあり大変だったが、愛する人と共に歩む生活は大変さよりも幸せが上回っていた。
私は幸せな毎日を送っているつもりだったのだ、彼の不貞に気付くあの日まで…。
今となっては幻のように思えてしまうがあの時までの私は確かに幸せだった…。
ある日私が王太子妃としての公務を予定より早く終わらせ王太子の執務室に向かうと、扉の前で警護をしている騎士達が私を見て気まずそうな顔をした。王太子の護衛騎士に選ばれる優秀な彼らは一度だって王太子妃である私にそんな表情を見せることなどなかった。
嫌な予感がした…。
「ロイはなかにいるのでしょう。ちょっと時間が空いたから顔を見に来たの通してちょうだい」
「いえ、王太子様はただいま公務中でお忙しく…」
「大丈夫よ、邪魔なんてしないわ。手伝えることがあればと思ってきたのだから」
護衛騎士達は歯切れの悪い物言いで私を執務室から遠ざけようとするが私は彼らを強引に下がらせた。
そして私はお付きの侍女と共となかへと入っていった、それも公務の邪魔をしないようにそっと…。
広い執務室には王太子の姿はなく、その奥にある休憩室の僅かに開いた扉から微かに声が漏れ聞こえてきた。それは男女の甘ったるい声だった。
「ロイド様、愛しております。私だけのものになってくださればいいのに。隣に堂々と立てる王太子妃様が羨ましくてなりませんわ」
「今この瞬間、私は君だけのものだ。それで許しておくれ」
「狡い人ね。でも愛しているから許しますわ」
「そんな君が可愛くて仕方がないんだ」
愛を囁くその声は夫であるロイのものだった。何度も耳元で聞いている夫の声を私が聞き間違えるはずはない。信じたくなかったが、隣にいる侍女の表情もそれを肯定している。
その後すぐに会話はなくなり女性の喘ぎ声だけが漏れ始めてきた。
---えっ、こんなところで…。
何をしているか分かり切っている事だった、愛するロイは私に隠れて不貞をしていたのだ。
221
お気に入りに追加
4,756
あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し

あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

君に愛は囁けない
しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。
彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。
愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。
けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。
セシルも彼に愛を囁けない。
だから、セシルは決めた。
*****
※ゆるゆる設定
※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。
※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた

元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる