58 / 59
49.愛おしい『番』②
しおりを挟む
あの後、南の城の応接室に通されたトカタオは王子とは思えぬもてなしを受けている。普通、次期竜王である王子が来たら、上座に案内しこれでもかという歓待を受けるのが定番であるが、ソファに座るトカタオの前には水の一杯も出ていない。それどころか座っているソファも一番下座に当たる場所であった。
そして上座には厳めしい表情のミファン家当主サイガがおり、その隣にはミファン家長男マオが立っている。ララはトカタオの隣にちょこんと座りご機嫌な様子でテーブルの上にあるお菓子に手を出している。
サイガとトカタオの間に微妙な空気が流れているが、ララはそれを気にせずモグモグして『これ最高に美味しいよ。はいトカも、あ~ん』とやってくるが、こんな場面でトカタオは口を開けることなど出来やしない。
父であるサイガとマオが『てめえ、それを食ったら殺すぞ』と全力で睨んでいるのだから。
だが空気を読まないララにはそんな事は関係がなかった。
「あれ、どうして食べてくれないの?私の指は世界一甘いって、この前はあんなに喜んで食べてくれたのにー」
ララの発言を聞いて、サイガは思わず目の前にあるテーブルに拳を力一杯叩きつけてしまった。
ドカン、ビキビキビキ!
テーブルは無残にも真ん中にヒビが入り使い物にならなくなった。
「あらお父様、そのテーブルお母様のお気に入りなのにいいの~?きっと後でこってり叱られちゃうよ」
「ゴ、ゴッホン。ララ今はそれよりも大事な事があるだろう。だからミアには内緒にしよう、なっ!」
「大事なこと?うーん何かな~。あっ、お父様、叱られるのが嫌だから誤魔化そうとしてるのね」
ララが加わると話が正しい方に進まないと気づいたマオがさり気なく軌道修正を図ろうとする。
「ララ、父上の言っている大事なことは王子とララの事じゃないかな。ララと王子の門前での行動はすべて確認していたけど、直接話を聞きたいと思っているんだよ」
「あっそうか。ごめんなさい、お父様。事後報告になるけど、私とトカはこれから結婚します♪」
ララが当たり前のように軽い調子で言ってきたが、サイガが受けた衝撃は計り知れないものだった。『俺の可愛いララが…、まだ小さいと思っていたのに…』と何やら言いながら髪の毛を掻きむしっている。事前に知っていても娘の口から直接言われた父とはこんなものである。
すると今まで緊張した様子で黙っていたトカタオが口を開いた。
「義父上。私にララルーア嬢をください、一生大切にして愛し続けます。
それに『番』を失った俺に再度『番』が現れました、それはララでした。竜人にとって『番』は生涯一人なのに、なぜこんな事が起きたのか分かりませんが、これは奇跡だと思っています」
トカタオがサイガの目を真っすぐに見つめ真剣な表情で言う。記憶改竄の事をまだ知らないので、これは奇跡だと信じ込んでいる。サイガとマオは目配せをして過去の事をどう話そうかと思案している、トカタオにとってはかなりショッキングな内容なので上手く話す自信がないのだ。
そんな父兄の気遣いは無駄だった、またもララが空気を読まず話し出す。
「あれ…?トカの『番』は過去にも未来にも私だけだよ。奇跡じゃなから。それに私、ご臨終一歩手前まで行ったけど、三途の川は渡ってないからね~。
…あっ、これトカは知らなかったね。
ごめん、トカと結婚出来るのが嬉しくて説明すっ飛ばしちゃった。エヘヘ」
ララの『番』発言を聞いて、トカタオは目を見開き驚愕の表情をしている。そして、『ごめん、ごめん。先走っちゃた』と言いながら笑っているララではなく、しっかりとした説明を求めてサイガとマオの方を見る。
『はぁー、まったくララったら』と顔に手を当て上を仰ぎ見ているマオは観念したように説明を始めた。
「ララと王子は互いに唯一の『番』で間違いない。あなたはララが『卵』の時に会って、大切な『卵』に誤ってヒビを入れたんだ。それによりララは死ぬ一歩手前まで行った。だからララの今後のためとあなた自身の罰の為に『番』は死んだと記憶の改竄が施されていた。
本当は『番』の存在を明かす予定はなかった。けれどもララが王子を好きになり望んだから、ミファン家としても王子との結婚を渋々認めようと思っている。以上だ」
マオの説明を受けてトカタオはすべての疑問がこれに繫がっていくのが分かった。『番』の喪失に苦しんでいた自分に幸せは必ずあると手を差し伸べ続けた両親、そしてお茶会での父の奇行。それらに想いを馳せていると薄っすらと過去の自分の過ちも思い出してきた。
(あの既視感はそうだったか。ララを俺自身が傷つけていたなんて…。大切な『番』を死に追いやるなんて、俺はなんてことをしたんだ。そんな俺がララと幸せになることが許されるのだろうか)
トカタオは記憶を思い出し、ララの顔をまともに見る事すら出来ないでいた。その表情は苦痛で歪み、涙が流れ出ている。竜人にとって命よりも大切な『番』をそんな目に合わせていたのが自分だと知って、誰よりも自分を憎み始めていた。
下を向きながら『ララ、本当にすまない事をした。…本当にすまない』と繰り返し大きな身体を震わせている。
そんなトカタオの顔をむっぎゅと両手で掴み上を向かせて、ケラケラ笑いながらララはトカタオの目を見て話す。
「フフフ、トカタオ酷い顔をしてるよ。私と一緒になるんだから誰よりも幸せでいてくれなくっちゃ!私はトカに世界一幸せにしてもらうけど、私はトカを世界で二番目に幸せにしてあげるんだから♪
それに私はご臨終しないで、今ここにいるんだから結果オーライでしょ。
もう泣かないで。それに『すまない』は禁止ね、これからの私達には『愛してる』が一番ぴったりな言葉でしょう♪
これから二人でもっともっと幸せになろうね♬」
ララは優しく言うとトカタオの涙を拭い自ら口づけをする。それは世界一甘く優しい蕩ける様な口づけであった。そしてララとトカタオは暫く抱き合い続けていた。
…このララの行為により、応接室の家具や装飾品はことごとく父サイガによって無残にも破壊されていくのであった。
そして上座には厳めしい表情のミファン家当主サイガがおり、その隣にはミファン家長男マオが立っている。ララはトカタオの隣にちょこんと座りご機嫌な様子でテーブルの上にあるお菓子に手を出している。
サイガとトカタオの間に微妙な空気が流れているが、ララはそれを気にせずモグモグして『これ最高に美味しいよ。はいトカも、あ~ん』とやってくるが、こんな場面でトカタオは口を開けることなど出来やしない。
父であるサイガとマオが『てめえ、それを食ったら殺すぞ』と全力で睨んでいるのだから。
だが空気を読まないララにはそんな事は関係がなかった。
「あれ、どうして食べてくれないの?私の指は世界一甘いって、この前はあんなに喜んで食べてくれたのにー」
ララの発言を聞いて、サイガは思わず目の前にあるテーブルに拳を力一杯叩きつけてしまった。
ドカン、ビキビキビキ!
テーブルは無残にも真ん中にヒビが入り使い物にならなくなった。
「あらお父様、そのテーブルお母様のお気に入りなのにいいの~?きっと後でこってり叱られちゃうよ」
「ゴ、ゴッホン。ララ今はそれよりも大事な事があるだろう。だからミアには内緒にしよう、なっ!」
「大事なこと?うーん何かな~。あっ、お父様、叱られるのが嫌だから誤魔化そうとしてるのね」
ララが加わると話が正しい方に進まないと気づいたマオがさり気なく軌道修正を図ろうとする。
「ララ、父上の言っている大事なことは王子とララの事じゃないかな。ララと王子の門前での行動はすべて確認していたけど、直接話を聞きたいと思っているんだよ」
「あっそうか。ごめんなさい、お父様。事後報告になるけど、私とトカはこれから結婚します♪」
ララが当たり前のように軽い調子で言ってきたが、サイガが受けた衝撃は計り知れないものだった。『俺の可愛いララが…、まだ小さいと思っていたのに…』と何やら言いながら髪の毛を掻きむしっている。事前に知っていても娘の口から直接言われた父とはこんなものである。
すると今まで緊張した様子で黙っていたトカタオが口を開いた。
「義父上。私にララルーア嬢をください、一生大切にして愛し続けます。
それに『番』を失った俺に再度『番』が現れました、それはララでした。竜人にとって『番』は生涯一人なのに、なぜこんな事が起きたのか分かりませんが、これは奇跡だと思っています」
トカタオがサイガの目を真っすぐに見つめ真剣な表情で言う。記憶改竄の事をまだ知らないので、これは奇跡だと信じ込んでいる。サイガとマオは目配せをして過去の事をどう話そうかと思案している、トカタオにとってはかなりショッキングな内容なので上手く話す自信がないのだ。
そんな父兄の気遣いは無駄だった、またもララが空気を読まず話し出す。
「あれ…?トカの『番』は過去にも未来にも私だけだよ。奇跡じゃなから。それに私、ご臨終一歩手前まで行ったけど、三途の川は渡ってないからね~。
…あっ、これトカは知らなかったね。
ごめん、トカと結婚出来るのが嬉しくて説明すっ飛ばしちゃった。エヘヘ」
ララの『番』発言を聞いて、トカタオは目を見開き驚愕の表情をしている。そして、『ごめん、ごめん。先走っちゃた』と言いながら笑っているララではなく、しっかりとした説明を求めてサイガとマオの方を見る。
『はぁー、まったくララったら』と顔に手を当て上を仰ぎ見ているマオは観念したように説明を始めた。
「ララと王子は互いに唯一の『番』で間違いない。あなたはララが『卵』の時に会って、大切な『卵』に誤ってヒビを入れたんだ。それによりララは死ぬ一歩手前まで行った。だからララの今後のためとあなた自身の罰の為に『番』は死んだと記憶の改竄が施されていた。
本当は『番』の存在を明かす予定はなかった。けれどもララが王子を好きになり望んだから、ミファン家としても王子との結婚を渋々認めようと思っている。以上だ」
マオの説明を受けてトカタオはすべての疑問がこれに繫がっていくのが分かった。『番』の喪失に苦しんでいた自分に幸せは必ずあると手を差し伸べ続けた両親、そしてお茶会での父の奇行。それらに想いを馳せていると薄っすらと過去の自分の過ちも思い出してきた。
(あの既視感はそうだったか。ララを俺自身が傷つけていたなんて…。大切な『番』を死に追いやるなんて、俺はなんてことをしたんだ。そんな俺がララと幸せになることが許されるのだろうか)
トカタオは記憶を思い出し、ララの顔をまともに見る事すら出来ないでいた。その表情は苦痛で歪み、涙が流れ出ている。竜人にとって命よりも大切な『番』をそんな目に合わせていたのが自分だと知って、誰よりも自分を憎み始めていた。
下を向きながら『ララ、本当にすまない事をした。…本当にすまない』と繰り返し大きな身体を震わせている。
そんなトカタオの顔をむっぎゅと両手で掴み上を向かせて、ケラケラ笑いながらララはトカタオの目を見て話す。
「フフフ、トカタオ酷い顔をしてるよ。私と一緒になるんだから誰よりも幸せでいてくれなくっちゃ!私はトカに世界一幸せにしてもらうけど、私はトカを世界で二番目に幸せにしてあげるんだから♪
それに私はご臨終しないで、今ここにいるんだから結果オーライでしょ。
もう泣かないで。それに『すまない』は禁止ね、これからの私達には『愛してる』が一番ぴったりな言葉でしょう♪
これから二人でもっともっと幸せになろうね♬」
ララは優しく言うとトカタオの涙を拭い自ら口づけをする。それは世界一甘く優しい蕩ける様な口づけであった。そしてララとトカタオは暫く抱き合い続けていた。
…このララの行為により、応接室の家具や装飾品はことごとく父サイガによって無残にも破壊されていくのであった。
53
お気に入りに追加
1,883
あなたにおすすめの小説
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
転生先は推しの婚約者のご令嬢でした
真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。
ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。
ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。
推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。
ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。
けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。
※「小説家になろう」にも掲載中です
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる