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49.愛おしい『番』②

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あの後、南の城の応接室に通されたトカタオは王子とは思えぬもてなしを受けている。普通、次期竜王である王子が来たら、上座に案内しこれでもかという歓待を受けるのが定番であるが、ソファに座るトカタオの前には水の一杯も出ていない。それどころか座っているソファも一番下座に当たる場所であった。
そして上座には厳めしい表情のミファン家当主サイガがおり、その隣にはミファン家長男マオが立っている。ララはトカタオの隣にちょこんと座りご機嫌な様子でテーブルの上にあるお菓子に手を出している。

サイガとトカタオの間に微妙な空気が流れているが、ララはそれを気にせずモグモグして『これ最高に美味しいよ。はいトカも、あ~ん』とやってくるが、こんな場面でトカタオは口を開けることなど出来やしない。
父であるサイガとマオが『てめえ、それを食ったら殺すぞ』と全力で睨んでいるのだから。
だが空気を読まないララにはそんな事は関係がなかった。

「あれ、どうして食べてくれないの?私の指は世界一甘いって、この前はあんなに喜んで食べてくれたのにー」

ララの発言を聞いて、サイガは思わず目の前にあるテーブルに拳を力一杯叩きつけてしまった。
ドカン、ビキビキビキ!
テーブルは無残にも真ん中にヒビが入り使い物にならなくなった。

「あらお父様、そのテーブルお母様のお気に入りなのにいいの~?きっと後でこってり叱られちゃうよ」
「ゴ、ゴッホン。ララ今はそれよりも大事な事があるだろう。だからミアには内緒にしよう、なっ!」
「大事なこと?うーん何かな~。あっ、お父様、叱られるのが嫌だから誤魔化そうとしてるのね」

ララが加わると話が正しい方に進まないと気づいたマオがさり気なく軌道修正を図ろうとする。

「ララ、父上の言っている大事なことは王子とララの事じゃないかな。ララと王子の門前での行動はすべて確認していたけど、直接話を聞きたいと思っているんだよ」
「あっそうか。ごめんなさい、お父様。事後報告になるけど、私とトカはこれから結婚します♪」

ララが当たり前のように軽い調子で言ってきたが、サイガが受けた衝撃は計り知れないものだった。『俺の可愛いララが…、まだ小さいと思っていたのに…』と何やら言いながら髪の毛を掻きむしっている。事前に知っていても娘の口から直接言われた父とはこんなものである。
すると今まで緊張した様子で黙っていたトカタオが口を開いた。

「義父上。私にララルーア嬢をください、一生大切にして愛し続けます。
それに『番』を失った俺に再度『番』が現れました、それはララでした。竜人にとって『番』は生涯一人なのに、なぜこんな事が起きたのか分かりませんが、これは奇跡だと思っています」

トカタオがサイガの目を真っすぐに見つめ真剣な表情で言う。記憶改竄の事をまだ知らないので、これは奇跡だと信じ込んでいる。サイガとマオは目配せをして過去の事をどう話そうかと思案している、トカタオにとってはかなりショッキングな内容なので上手く話す自信がないのだ。
そんな父兄の気遣いは無駄だった、またもララが空気を読まず話し出す。

「あれ…?トカの『番』は過去にも未来にも私だけだよ。奇跡じゃなから。それに私、ご臨終一歩手前まで行ったけど、三途の川は渡ってないからね~。
…あっ、これトカは知らなかったね。
ごめん、トカと結婚出来るのが嬉しくて説明すっ飛ばしちゃった。エヘヘ」

ララの『番』発言を聞いて、トカタオは目を見開き驚愕の表情をしている。そして、『ごめん、ごめん。先走っちゃた』と言いながら笑っているララではなく、しっかりとした説明を求めてサイガとマオの方を見る。
『はぁー、まったくララったら』と顔に手を当て上を仰ぎ見ているマオは観念したように説明を始めた。

「ララと王子は互いに唯一の『番』で間違いない。あなたはララが『卵』の時に会って、大切な『卵』に誤ってヒビを入れたんだ。それによりララは死ぬ一歩手前まで行った。だからララの今後のためとあなた自身の罰の為に『番』は死んだと記憶の改竄が施されていた。
本当は『番』の存在を明かす予定はなかった。けれどもララが王子を好きになり望んだから、ミファン家としても王子との結婚を渋々認めようと思っている。以上だ」

マオの説明を受けてトカタオはすべての疑問がこれに繫がっていくのが分かった。『番』の喪失に苦しんでいた自分に幸せは必ずあると手を差し伸べ続けた両親、そしてお茶会での父の奇行。それらに想いを馳せていると薄っすらと過去の自分の過ちも思い出してきた。

(あの既視感はそうだったか。ララを俺自身が傷つけていたなんて…。大切な『番』を死に追いやるなんて、俺はなんてことをしたんだ。そんな俺がララと幸せになることが許されるのだろうか)

トカタオは記憶を思い出し、ララの顔をまともに見る事すら出来ないでいた。その表情は苦痛で歪み、涙が流れ出ている。竜人にとって命よりも大切な『番』をそんな目に合わせていたのが自分だと知って、誰よりも自分を憎み始めていた。
下を向きながら『ララ、本当にすまない事をした。…本当にすまない』と繰り返し大きな身体を震わせている。

そんなトカタオの顔をむっぎゅと両手で掴み上を向かせて、ケラケラ笑いながらララはトカタオの目を見て話す。

「フフフ、トカタオ酷い顔をしてるよ。私と一緒になるんだから誰よりも幸せでいてくれなくっちゃ!私はトカに世界一幸せにしてもらうけど、私はトカを世界で二番目に幸せにしてあげるんだから♪

それに私はご臨終しないで、今ここにいるんだから結果オーライでしょ。
もう泣かないで。それに『すまない』は禁止ね、これからの私達には『愛してる』が一番ぴったりな言葉でしょう♪
これから二人でもっともっと幸せになろうね♬」

ララは優しく言うとトカタオの涙を拭い自ら口づけをする。それは世界一甘く優しい蕩ける様な口づけであった。そしてララとトカタオは暫く抱き合い続けていた。

…このララの行為により、応接室の家具や装飾品はことごとく父サイガによって無残にも破壊されていくのであった。
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