あなたの『番』はご臨終です!

矢野りと

文字の大きさ
上 下
56 / 59

47.トカタオの決意

しおりを挟む
(ララに『番』が現れたら俺はララを失ってしまうのか…。そんな事に耐えられるのか…。
竜人にとって『番』は運命の伴侶、その存在を求めるのは当然のことだと頭では分かっているが。俺自身過去に『番』を失い絶望を味わったからこそ分かっているのに。クソッ、それなのにララのいない人生など考えられん)

トカタオは自分の考えが勝手だと痛いほど分かっているが、もうララへの気持ちを抑えることなど出来なかった。『番』ではないが、トカタオにとっていつの間にか最愛の人になっていたのだ。

「俺はララルーアを愛している、彼女を失う事なんて考えられない。この気持ちを正直に伝えてくる。『番』に会える可能性のあるララに拒否されたらその時は引き下がるが、何もせずにただ待ち続けることはしない。
金竜としてのプライドも王子としての見栄も捨てて、一人の男としてララに向き合ってみる」

トカタオの表情からは迷いは消えていた。そこには恋焦がれる女性に自分の気持ちを素直に伝えたい男が一人いるだけだった。まだララは『番』と巡り合っていないとはいえ上手くいく自信なんて全くないが、何もせずに後悔だけはしたくない。

(物分かりの良い優秀な王子を演じて、大切なものを失う事だけはしたくない!)

トカタオの心は決まった。


「トカ、南の辺境地に行きなさい。そしてあなたの気持ちを偽りなく告げてきなさい。その結果は分からないけど、これだは言わせて。私は母親として息子の幸せをいつでも祈っているわ」
「ああ、行ってこい。男は当たって砕けろだ、トカ。玉砕したらその時は一緒にやけ酒を飲んでやるから安心しろ。俺達はいつでもお前の味方だ」


バイザルとスズはトカタオの苦悩が良く分かっていた。
『番』の喪失に長年苦しんでいた自分が、ララに同じ思いをさせるかもしれない可能性を考え、ララとの関係を躊躇しているが愛おしい気持ちを止めることが出来ない事も。
このトカタオのララへの愛が『番』への愛情なのか分からない。二人は互いに『番』と認識していないのに、やはり『番』の力は知られている以上の効力があるのかもしれない。
それとも単に二人が愛し合っているだけなのか…。

本当の事を告げることが出来たならトカタオは苦しまなくていいのだろうが、自分達の都合でそれを息子に教えることは出来ない。今はただ親としてトカタオの味方である事を伝える事しか叶わないのだ。

ただすべてを受け入れる覚悟が出来た息子の背中を押してララの元へ送り出すだけだ。


「ハハハ、俺が玉砕する前提かよ。父上、母上、南に行ってくる。高級な酒を用意しつつ、ララと一緒の帰還を祈っていてくれ」
「いってらっしゃい、トカ。男は自分から告ってなんぼよ、どーんと行きなさい!」
「高級な酒をたんまり用意しておいてやるから、安心して行ってこい。ちょっとは可愛い義娘が出来るのを楽しみにしているからな、ハハハ」

バイザルとスズの温かい言葉を胸にトカタオは部屋を出て行った。建物から出るやいなや、輝く金の竜体に変化し羽をはばたかせると『ギャオーー』と咆哮をあげ南の空へと飛び立っていった。その後ろ姿には迷いなど微塵も感じられなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...