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45.ララが去った王宮①

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翌朝、ララが部屋から消えていることが分かり王宮内は騒然としていた。昨夜までは何の問題も無くララは就寝していたので、自分から出て行ったとは考えられない。第三者の介入があったと考えられていた。

「なぜ人の出入りに気づかなかったんだ!侍女達はどうしていた!」

トカタオは苛立ちながら侍女達に当たり散らしている。ララは王族ではないが、王族専用棟にいるのだから万全の警備のなか生活していると信じ、ララの警備を自ら指示してなかった己の失態に苛立っているのだ。
いつもと違う荒れ狂っている王子の様子に周りは声を掛けることも出来ない。そんな中、王宮内を捜索していたカイが速足で戻ってきて、トカタオに話し掛けた。

「トカ様、竜王様がお呼びです。今すぐ竜王様が待っている執務室へと行ってください」

いきなりの竜王からの呼び出しである、普段なら何よりも優先する事項だが今は違う。トカタオにとってララの捜索以上に優先する事柄なんて存在しない。

「チッ、こんな時に何を言ってやがるんだクソ父上が。ララが行方不明のこの状況で行くわけないだろ!」

トカタオは吐き捨てる様に言うと、執務室に向かうことなく捜索の指示を出すため集めた城の者達に向き合った。するとカイはトカタオの背に向けて言葉を続ける。

「竜王様はララ様の行方を知っているそうです。すぐに竜王様の元へ行ってく、」

カイの言葉を聞くなり、トカタオは『本当だろうな、俺を執務室に行かせるための噓なら承知しない』とカイの胸倉を掴んでギリギリと締め上げていく。カイは『ゲホゲホ、』と息を詰まらせながらも『本当で…す、』と息も絶え絶えに言っている。
トカタオは苦しんでいるカイをぞんざいに離すと無言のまま竜王の元へと急いだ。



トカタオは竜王の執務室に着くとノックをすることなく乱暴に扉を開けなかに入っていった。そして父であるバイザルの前に立ち、怒りを抑えることなく威圧を放った。

「父上、ララをどうしたんだ!説明しろ」
「はぁ~。挨拶無しで威圧し、この言い草。俺は子育てを間違えたかな…」

バイザルはトカタオの様子に動じることなくのんびりした態度を崩さない。その態度にトカタオはますます怒りを募らせる。

「クソ父上、俺のララをどうしやがった!返事次第では父といえども許さん」
「まずお前の誤解を解くとしよう。ララルーアは自分の意志で王宮を去ったんだ、俺が何かをしたのではない。昨夜のうちにマオとララは2人で南の辺境地へと帰還し、夜が明ける前にはミファン家当主サイガから緊急の知らせで俺のところに連絡が来た。どうやら暫く南で暮らすらしい」
「そんなのおかしい!俺は昨夜、ララからなにも聞いてない。それにそんな素振りは一切なかったんだ。きっと何かあったに決まっている!何を隠してやがるんだ」

トカタオはいきり立ち、バイザルに殺気を抑えることなく睨みつけている。そんな息子を呆れる様にバイザルが見ていると、執務室の扉がノックもなしに開けられ、誰かがずかずかと入ってきた。


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