あなたの『番』はご臨終です!

矢野りと

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43.王宮を去る

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先ほどまでトカタオから竜力を与えられていたララは寝る準備をしたベットの上で一人で悶えまくっている。

や~ん♡初めて口と口でチュッしちゃったー。もうトカったら『今日からは俺達は恋人なんだから唇に触れて竜力を与えることを許可してくれ』なんて真剣な顔で言ってくるんだもん。ウフ、断れないよ♪ついに私もファーストキスしちゃった、大人の階段を着実に登っているもんね。いつかの日か頂上まで登りつめちゃうかも、いや~んその時はやっぱり『ヤッホー』って叫んだ方がいいのかな?あれ、なんか違うかな。

中途半端な耳年増ララはどこまで正しい知識があるのだろうか…、とりあえず『ヤッホー』はどんな状況になろうとも言わないと早めに気づいて欲しい。

トカタオとの初キッスを思い出し、ララは妄想を膨らませてベットの上でゴロゴロと転がりながら悶えている。今は竜体なので、まるでピンクの米俵が転がっているようだ。ベットにピンクの米俵…有り得ない組み合わせだけれど、10往復もしているとなんか違和感が無くなってくる、慣れとは恐ろしいものだ。

転がり過ぎたせいだろうか、ララは身体が熱くなりムズムズするのを感じてきた。『あれ、さっき竜力をたくさんもらったから身体が変化しようとしているのかな?』とのんびり考えていると、急に頭の中が熱でいっぱいになってくる。

なにこれ、おかしい。いつもの変化と違う、私このまま壊れちゃうの…?
身体の熱のせいか苦痛とあり得ないほどの高揚感で何も考えられない。助けを呼ぼうと思っているのに、『それは駄目だ』と本能的な部分が訴えている。
ララは訳が分からずただ涙を流し、兄の気配がある王宮の部屋へと行くことを決めた。なぜか隣の部屋にいるトカタオではなくマオに助けてもらうのが今は正しいと感じている。ララは火照る竜体に鞭打ち、隠し扉へと歩いて行く。以前は扉と身体がフィットして使う事が出来なかった扉だが、今のララは身体の輪郭がぼやけてきているので通れる気がしたのだ。それに誰にも知られずに兄に助けを求めるべきだと本能が訴えてきている。

ギッギッギー、隠し扉をそっと開け身体を入れると何の抵抗もなく、くぐり抜けることが出来た。
身体の中の何かが、『早く、早く。マオの元へ行け』とララを急き立てる。ララは無我夢中で夜の静かな王宮を駆けていく。途中で見回りの騎士や侍女とすれ違ったが、ララの存在は竜王の預かり子と知れ渡っているので誰からも止められることなくマオの部屋へとたどり着くことが出来た。

ハァ、ハァ、ハァ。ララは息も絶え絶えになって辛い身体でマオの部屋をノックする。
コンコンコン、ギー。
扉はすぐに開き、マオが顔の覗かせた。

「ララ、いったいどうしたんだ!それにその姿は…、いつからだ?」

マオはララの姿を見るなり驚きの表情をして、苦しそうに蹲っているララを抱き上げ部屋の中へと運んだ。

「お兄様、私なんかおかしいの。身体も頭の中も熱くて苦しくてでも凄く気持ちが高ぶっているわ。ぐちゃぐちゃしている…」
「ララは今の自分の姿が分かっているかい、以前の人型とは全然違うよ」

マオにそう言われて、ララは部屋にある鏡に目を向けてみる、そこにはララではなく人族でいえば10代後半の美しく華奢だが凛としている深紅の瞳が綺麗な少女が映っていた。
ララは自分の顔に手をやり『これ、誰?』と言うと、鏡に映っている少女もその顔に手を当てている。

「えっ!これが私なのいつのまに変化して成長していたのかな…。気づかなかった、兎に角辛くてお兄様の元へ行く事ばかり考えていたの」
「ちょっといいかな。ララ目をつむってごらん」

マオはララの額に自分の額を当て、暫くの間何も言わずじっとしていた。そしてそっと合わせていた額を離すとララに衝撃の事実を告げ始める。

「ララは竜力が満ちてあるべき姿まで成長したんだ。それと共に『番』を認識し認識させる機能も整いつつある。ララが無意識にその機能を抑え込んでいるから、身体が辛くなっているんだよ。きっと『卵』の時の体験がブレーキを掛けているのかも知れない」
「私、どうすればいいか分からない。トカの事は大好きだけどこのまま『番』として向き合っていけるか…。あまりに突然だったから自信がない…」

ララは涙を流し、マオの胸に縋りついている。
マオはララの背中を優しく撫でて『大丈夫だ、ララ。何も心配するな、俺に任せろ。すべて上手くいく、大丈夫だ』と何度も言葉を繰り返し混乱しているララを宥めていく。
暫くたって落ち着いたララはマオの胸から顔を上げて、小さな声でマオに聞いてみた。

「私、まずはこの辛い身体をどうにかしたい。そしてトカタオから離れてゆっくり考えたいの。そんな事出来るかな?お兄様」
「もちろん可能だ。無理矢理抑えている『番』機能を正常な状態にすれば身体は元通りになる。だけどそれを王宮で行ったらすぐに王子が『番』の存在を嗅ぎつけてしまう。だから南の辺境地に戻ってから『番』機能を解放しゆっくりと考えよう。今のララは竜力も大分増えているから王子と離れても大丈夫だよ。俺の可愛いお姫様、そうするかい?」

マオはララを安心させるためワザとお道化た口調で話している。そんな優しい兄の様子にララもクスッと笑って答える。

「うん、そうする。有り難う、さすがお兄様。頼りになるわ、大好きよ」
「俺の可愛いお姫様、さあ背中に乗ってください」

マオは庭に出るなり深紅の逞しい竜体になり、ララを背中に乗せ南の辺境地へと暗闇のなか羽ばたいて行った。

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