あなたの『番』はご臨終です!

矢野りと

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28.発見

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爆弾発言を聞いても微動だにしないトカタオに、ヒスイ嬢は『誘いに乗ったわ!』と思い込み、トカタオの右腕に自分の両腕を絡みつけて身体を摺り寄せてきた。
バロンは『これは不味いぞ』と思ったが時すでに遅く、ヒスイ嬢の両足は地面から完全に離れていた。

グエッ、グググ、グェーー。宙に浮いた足をバタつかせたヒスイ嬢の口から哀れな音が漏れ出している。

「どこでララルーアを見た、早く言え」

無表情のトカタオは淡々とした口調で聞いているが、その状況は異常だった。トカタオは右手一本でヒスイ嬢の首を掴み、高々と持ち上げている。足が地面に着いていないうえに更にギリギリと首を握り潰されているので、ヒスイ嬢は話せる状態ではないし今にも死にそうな状況になっていた。それなのに、トカタオは『話せ』と何度も繰り返しているのだ。

「トカ、そいつを離せ!殺すな、ララ達の居場所を吐かせるんだ!ララを助けろ!」

ドサリ…。ヒスイ嬢が穴という穴から液体を垂れ流し地面に転がり、ひぃひぃと泣き喚いている。着飾ってギラギラした頭を無造作に掴まれ顔を無理矢理上げさせられた。

「ララをどうした?早く答えろ」
「し、知りませ、ん…。適当に言った、だ、けで…」
「お前、俺をなめているのか…。あの時のお前の言葉に嘘はなかった。そして今は嘘を吐いている。何も言わないならただ殺すだけだ」
「ヒィー。お、お助けください。あのピンクの子は王宮庭園の端にある庭師小屋にいます。生きてます、何もしていませ…ん、どう、か」

トカタオは掴んでいた頭を勢いよく離し令嬢の顔面を地面に叩きつけた。グシャリと何かが潰れるような音がしたが、見向きもせずに王宮庭園へと走っていく。
バロンは悲惨な状況になっている令嬢の捕獲を他の騎士に命令し、トカタオの後を数人の騎士を連れて追って行った。



訓練場から王宮庭園はさほど離れていないので騎士が走れば数分しか掛からない。だが今のトカタオにとって全速力で走っても永遠に感じる距離だった。気ばかりが焦って前に進む気がしない。

(ララ、無事でいてくれ。今、行くから待ってろ)




王宮庭園の端にある庭師小屋は樹木で隠れる場所に建ててあるので普段は庭師以外に近寄ることはない小さな物置小屋だった。周りには生い茂る木以外になにもない、ここで大声で叫んだとしても誰にも気づいては貰えないそんな場所だった。
トカタオが庭師小屋の前に着いた時、小屋の扉は外から太い丸太を使って開かないように細工がされていた。その丸太を急いでどかし、乱暴に扉を開けるとそこにはララルーアとにんにんがいた。


ララルーアは鱗が乾燥しきってひび割れ、全身から血が流れ出て血塗れになって倒れていた。
にんにんはそんな状態のララを一刻も早く助けようと開かない扉を中から掻きむしり続けていたのだろう、爪が剝がれて両手が血塗れになっていた。途中で力尽きてしまったのだろうか…、ララの隣に寄り添い守るように横たわっていた。

「うぁーー!ララルーアーーー!」

トカタオが絶叫を上げながらララルーアに近付き崩れ落ちる様に膝を着いた。
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