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25.王子観察~午後の部⑤~
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フラフラしながらも剣を構え反撃しようとする騎士だが、剣を相手に振り下ろしながら力尽きバタンと倒れてしまった。
「勝者ララルーアとマッチョな仲間達ーー!」
バロン団長の声が訓練場にこだました。なんと演習開始30分で勝負がついてしまった。戦闘訓練は相手チームの最後の一人が倒れるまで行うため、実力伯仲の二チームの戦いは数時間に及ぶのが常だった。今回は設定を設けた効果だろうかまたはトカタオとカイの蟻疑獄回避への執念だろうか、善チームの完全勝利であった。
「「「可愛いは正義だー!」」」
善チームのムキマッチョ騎士達がララルーアとにんにんを胴上げしながら叫んでいる。どうやら、詳細設定の効果抜群だったらしい。最初は【トカタオ率いる善チーム】だったが、途中から【ララルーア率いるマッチョな仲間達】にアナウンスも変わっていたほどだ。
確かに最初こそは可愛い儚げなララ姫とにんにん王子を演じていたが、開始5分もしたらメガホン片手に『ほらいけームキマッチョ!動きが甘いぞ!本当に○○ついとんのか~』『ウキイキー!ウキタマタマキー!』と味方チームに心強い声援を送り始めた二人…。ちびっこ竜人とミニ猿にそんな事を言われたら頑張るしかなかった、そしてわずか30分で勝利をもぎ取ったのであった。
「みんなお疲れ様すごく格好良かったよ!ムキマッチョの最大の有効活用だね」
本当に頑張った味方チームを労っているララだが、後半のセリフは要らないのでないか…。だがムキマッチョ騎士達を見ると意外にも喜んでいるようだ。『マッチョは筋肉を褒められるのが好きなんだよ~。お父様がそうだもん♬』byララ
「ところでララちゃん、勝利のキスは?頑張った俺達に褒美のキスをお願いします!」
ムキマッチョの一人がふざけて約束のご褒美の催促をしてくる。あっという間に『ララちゃんご褒美~』コールが始まった。トカタオはその様子を見ているとなぜか無性にコールしている騎士達を片っ端から殴り飛ばしたい衝動に駆られた。
(ちっ、なんだこの感覚は。戦闘訓練が短時間で終わったから発散出来なかったエネルギーが疼いているのか…)
「トカ様、不味くないですか?ララ様は竜王の知り合いの子供です。幼い子にキスをさせまくったとララ様のご両親が知ったら竜王との関係が抉れるんじゃないですか?」
「そうだなカイの言う通りだ。褒美はララからにんにんに変えよう」
(そうだララは絶対に駄目だ。ララのキスは誰にもやらん、違う…道徳的に問題があると言いたいだけだ…?)
トカタオは盛り上がっている騎士達の前に立ちはだかり褒美の変更を告げた。
「今回の褒美はララではなくにんにんからとする。みんな可愛いにんにんのキスを有り難く受け取れ」
「「「そんな横暴だー」」」
本気で期待していた一部の騎士達が抗議の声を上げる。なんとその中にはゴリさんことバロン団長の姿まであった。この中で一番大きな声で抗議をしていたのは団長だった…。
(団長、いや叔父上、貴方はなにをしてるんですか…)
トカタオはララルーアを守るように自分の後ろに下げると、冷たい視線を抗議している者達に向けた。
「キスは女の子にとって大切なものだから却下だ。それにバロン団長はただの審判でしたから褒美を受け取る権利は最初からないです」
「「「………」」」
トカタオの正論が一部の変態達を大人しくさせた。だがこれに納得がいかない者がまたしても抗議の声を上げる。
「ウッキキイー!ウキ?キイキイウー!」
「えっと通訳すると、『僕のキスだって大切だ!男だからいいのか?僕だって断固拒否する』とにんにんは言ってるよ…」
「「「………」」」
にんにんの断固拒否によって褒美のキスは幻となった。実はララルーアは勝利のキスをみんなにしてみたかった。だがトカタオの正論とにんにんまでもが自らキスを拒否しているので恥ずかしくて言い出せなかったのだ。
『なんか残念だな~。お姫様のキスで最後はしめて物語をおしまいにしたかったのに~』グスン。
****************************
---ララの観察ノート---
お姫様役に夢中になっていたララは観察ノートを書くのをすっかり忘れてしまっていた。慌ててノートを取り出し午後のトカタオの様子を思い出しながらノートに書きこむことにした。
今はララは日陰で休憩中なので側にはトカタオしかいない。にんにんはカイと一緒に水を飲みに行っている。
「ねぇ、こっち絶対に見ないでね。見たらエッチだからね!」
「けっ、見ねえよ。なにがエッチだ、ちびのくせして」
「む~!ちびって言わないで!ララルーアて可愛い名前があるのよ」
「分かった、分かった。ララ、これでいいか」
「いいわよ。今度ちびって呼んだら罰金よー」
「ちっ、信用しろ。ララこそ俺をちゃんと名前で呼べ」
「トカタオ様?なんかやだなー」
「違う。トカでいい。親しい奴はそう呼ぶからな」
「私達親しくないよね?」
「まあなんだ、お世話係は親しいうちに入るだろう」
「そうかな?まぁいいか、トカ見ないでね!」
「ああ了解だ」
ぶっきらぼうな口調とは裏腹にトカタオは嬉しそうに口角を上げていたが、後ろを向いていたララは気づくことはなかった。
【〇月×日
時間ー午後 場所ータイオン帝国騎士団訓練場
今日は戦闘訓練を行っていた。私の専属騎士役だったので、姫を必死に守る姿にちょっぴり感動した。
トカはどうやら演技にのめり込むタイプのようだ、いわゆる憑依型だ。
剣の腕前も凄かった。王子なのにムキマッチョの中でも断トツに強かった。
意外に努力家なのかもしれない。
午後にはお互い名前で呼び合うようになった。親しくないのにお世話係だから親しいうちに入ると言い張っていた。
もしかしたら王子なのにボッチなのかもしれない。ちょっと可哀想。
※友達になってあげようかな】
「勝者ララルーアとマッチョな仲間達ーー!」
バロン団長の声が訓練場にこだました。なんと演習開始30分で勝負がついてしまった。戦闘訓練は相手チームの最後の一人が倒れるまで行うため、実力伯仲の二チームの戦いは数時間に及ぶのが常だった。今回は設定を設けた効果だろうかまたはトカタオとカイの蟻疑獄回避への執念だろうか、善チームの完全勝利であった。
「「「可愛いは正義だー!」」」
善チームのムキマッチョ騎士達がララルーアとにんにんを胴上げしながら叫んでいる。どうやら、詳細設定の効果抜群だったらしい。最初は【トカタオ率いる善チーム】だったが、途中から【ララルーア率いるマッチョな仲間達】にアナウンスも変わっていたほどだ。
確かに最初こそは可愛い儚げなララ姫とにんにん王子を演じていたが、開始5分もしたらメガホン片手に『ほらいけームキマッチョ!動きが甘いぞ!本当に○○ついとんのか~』『ウキイキー!ウキタマタマキー!』と味方チームに心強い声援を送り始めた二人…。ちびっこ竜人とミニ猿にそんな事を言われたら頑張るしかなかった、そしてわずか30分で勝利をもぎ取ったのであった。
「みんなお疲れ様すごく格好良かったよ!ムキマッチョの最大の有効活用だね」
本当に頑張った味方チームを労っているララだが、後半のセリフは要らないのでないか…。だがムキマッチョ騎士達を見ると意外にも喜んでいるようだ。『マッチョは筋肉を褒められるのが好きなんだよ~。お父様がそうだもん♬』byララ
「ところでララちゃん、勝利のキスは?頑張った俺達に褒美のキスをお願いします!」
ムキマッチョの一人がふざけて約束のご褒美の催促をしてくる。あっという間に『ララちゃんご褒美~』コールが始まった。トカタオはその様子を見ているとなぜか無性にコールしている騎士達を片っ端から殴り飛ばしたい衝動に駆られた。
(ちっ、なんだこの感覚は。戦闘訓練が短時間で終わったから発散出来なかったエネルギーが疼いているのか…)
「トカ様、不味くないですか?ララ様は竜王の知り合いの子供です。幼い子にキスをさせまくったとララ様のご両親が知ったら竜王との関係が抉れるんじゃないですか?」
「そうだなカイの言う通りだ。褒美はララからにんにんに変えよう」
(そうだララは絶対に駄目だ。ララのキスは誰にもやらん、違う…道徳的に問題があると言いたいだけだ…?)
トカタオは盛り上がっている騎士達の前に立ちはだかり褒美の変更を告げた。
「今回の褒美はララではなくにんにんからとする。みんな可愛いにんにんのキスを有り難く受け取れ」
「「「そんな横暴だー」」」
本気で期待していた一部の騎士達が抗議の声を上げる。なんとその中にはゴリさんことバロン団長の姿まであった。この中で一番大きな声で抗議をしていたのは団長だった…。
(団長、いや叔父上、貴方はなにをしてるんですか…)
トカタオはララルーアを守るように自分の後ろに下げると、冷たい視線を抗議している者達に向けた。
「キスは女の子にとって大切なものだから却下だ。それにバロン団長はただの審判でしたから褒美を受け取る権利は最初からないです」
「「「………」」」
トカタオの正論が一部の変態達を大人しくさせた。だがこれに納得がいかない者がまたしても抗議の声を上げる。
「ウッキキイー!ウキ?キイキイウー!」
「えっと通訳すると、『僕のキスだって大切だ!男だからいいのか?僕だって断固拒否する』とにんにんは言ってるよ…」
「「「………」」」
にんにんの断固拒否によって褒美のキスは幻となった。実はララルーアは勝利のキスをみんなにしてみたかった。だがトカタオの正論とにんにんまでもが自らキスを拒否しているので恥ずかしくて言い出せなかったのだ。
『なんか残念だな~。お姫様のキスで最後はしめて物語をおしまいにしたかったのに~』グスン。
****************************
---ララの観察ノート---
お姫様役に夢中になっていたララは観察ノートを書くのをすっかり忘れてしまっていた。慌ててノートを取り出し午後のトカタオの様子を思い出しながらノートに書きこむことにした。
今はララは日陰で休憩中なので側にはトカタオしかいない。にんにんはカイと一緒に水を飲みに行っている。
「ねぇ、こっち絶対に見ないでね。見たらエッチだからね!」
「けっ、見ねえよ。なにがエッチだ、ちびのくせして」
「む~!ちびって言わないで!ララルーアて可愛い名前があるのよ」
「分かった、分かった。ララ、これでいいか」
「いいわよ。今度ちびって呼んだら罰金よー」
「ちっ、信用しろ。ララこそ俺をちゃんと名前で呼べ」
「トカタオ様?なんかやだなー」
「違う。トカでいい。親しい奴はそう呼ぶからな」
「私達親しくないよね?」
「まあなんだ、お世話係は親しいうちに入るだろう」
「そうかな?まぁいいか、トカ見ないでね!」
「ああ了解だ」
ぶっきらぼうな口調とは裏腹にトカタオは嬉しそうに口角を上げていたが、後ろを向いていたララは気づくことはなかった。
【〇月×日
時間ー午後 場所ータイオン帝国騎士団訓練場
今日は戦闘訓練を行っていた。私の専属騎士役だったので、姫を必死に守る姿にちょっぴり感動した。
トカはどうやら演技にのめり込むタイプのようだ、いわゆる憑依型だ。
剣の腕前も凄かった。王子なのにムキマッチョの中でも断トツに強かった。
意外に努力家なのかもしれない。
午後にはお互い名前で呼び合うようになった。親しくないのにお世話係だから親しいうちに入ると言い張っていた。
もしかしたら王子なのにボッチなのかもしれない。ちょっと可哀想。
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