あなたの『番』はご臨終です!

矢野りと

文字の大きさ
上 下
30 / 59

25.王子観察~午後の部⑤~

しおりを挟む
フラフラしながらも剣を構え反撃しようとする騎士だが、剣を相手に振り下ろしながら力尽きバタンと倒れてしまった。

「勝者ララルーアとマッチョな仲間達ーー!」

バロン団長の声が訓練場にこだました。なんと演習開始30分で勝負がついてしまった。戦闘訓練は相手チームの最後の一人が倒れるまで行うため、実力伯仲の二チームの戦いは数時間に及ぶのが常だった。今回は設定を設けた効果だろうかまたはトカタオとカイの蟻疑獄回避への執念だろうか、善チームの完全勝利であった。

「「「可愛いは正義だー!」」」

善チームのムキマッチョ騎士達がララルーアとにんにんを胴上げしながら叫んでいる。どうやら、詳細設定の効果抜群だったらしい。最初は【トカタオ率いる善チーム】だったが、途中から【ララルーア率いるマッチョな仲間達】にアナウンスも変わっていたほどだ。
確かに最初こそは可愛い儚げなララ姫とにんにん王子を演じていたが、開始5分もしたらメガホン片手に『ほらいけームキマッチョ!動きが甘いぞ!本当に○○ついとんのか~』『ウキイキー!ウキタマタマキー!』と味方チームに心強い声援を送り始めた二人…。ちびっこ竜人とミニ猿にそんな事を言われたら頑張るしかなかった、そしてわずか30分で勝利をもぎ取ったのであった。


「みんなお疲れ様すごく格好良かったよ!ムキマッチョの最大の有効活用だね」

本当に頑張った味方チームを労っているララだが、後半のセリフは要らないのでないか…。だがムキマッチョ騎士達を見ると意外にも喜んでいるようだ。『マッチョは筋肉を褒められるのが好きなんだよ~。お父様がそうだもん♬』byララ

「ところでララちゃん、勝利のキスは?頑張った俺達に褒美のキスをお願いします!」

ムキマッチョの一人がふざけて約束のご褒美の催促をしてくる。あっという間に『ララちゃんご褒美~』コールが始まった。トカタオはその様子を見ているとなぜか無性にコールしている騎士達を片っ端から殴り飛ばしたい衝動に駆られた。

(ちっ、なんだこの感覚は。戦闘訓練が短時間で終わったから発散出来なかったエネルギーが疼いているのか…)


「トカ様、不味くないですか?ララ様は竜王の知り合いの子供です。幼い子にキスをさせまくったとララ様のご両親が知ったら竜王との関係が抉れるんじゃないですか?」

「そうだなカイの言う通りだ。褒美はララからにんにんに変えよう」
(そうだララは絶対に駄目だ。ララのキスは誰にもやらん、違う…道徳的に問題があると言いたいだけだ…?)

トカタオは盛り上がっている騎士達の前に立ちはだかり褒美の変更を告げた。

「今回の褒美はララではなくにんにんからとする。みんな可愛いにんにんのキスを有り難く受け取れ」

「「「そんな横暴だー」」」

本気で期待していた一部の騎士達が抗議の声を上げる。なんとその中にはゴリさんことバロン団長の姿まであった。この中で一番大きな声で抗議をしていたのは団長だった…。

(団長、いや叔父上、貴方はなにをしてるんですか…)

トカタオはララルーアを守るように自分の後ろに下げると、冷たい視線を抗議している者達に向けた。

「キスは女の子にとって大切なものだから却下だ。それにバロン団長はただの審判でしたから褒美を受け取る権利は最初からないです」

「「「………」」」

トカタオの正論が一部の変態達を大人しくさせた。だがこれに納得がいかない者がまたしても抗議の声を上げる。

「ウッキキイー!ウキ?キイキイウー!」
「えっと通訳すると、『僕のキスだって大切だ!男だからいいのか?僕だって断固拒否する』とにんにんは言ってるよ…」
「「「………」」」

にんにんの断固拒否によって褒美のキスは幻となった。実はララルーアは勝利のキスをみんなにしてみたかった。だがトカタオの正論とにんにんまでもが自らキスを拒否しているので恥ずかしくて言い出せなかったのだ。
『なんか残念だな~。お姫様のキスで最後はしめて物語をおしまいにしたかったのに~』グスン。






****************************


---ララの観察ノート---

お姫様役に夢中になっていたララは観察ノートを書くのをすっかり忘れてしまっていた。慌ててノートを取り出し午後のトカタオの様子を思い出しながらノートに書きこむことにした。
今はララは日陰で休憩中なので側にはトカタオしかいない。にんにんはカイと一緒に水を飲みに行っている。

「ねぇ、こっち絶対に見ないでね。見たらエッチだからね!」
「けっ、見ねえよ。なにがエッチだ、ちびのくせして」
「む~!ちびって言わないで!ララルーアて可愛い名前があるのよ」
「分かった、分かった。ララ、これでいいか」
「いいわよ。今度ちびって呼んだら罰金よー」
「ちっ、信用しろ。ララこそ俺をちゃんと名前で呼べ」
「トカタオ様?なんかやだなー」
「違う。トカでいい。親しい奴はそう呼ぶからな」
「私達親しくないよね?」
「まあなんだ、お世話係は親しいうちに入るだろう」
「そうかな?まぁいいか、トカ見ないでね!」
「ああ了解だ」

ぶっきらぼうな口調とは裏腹にトカタオは嬉しそうに口角を上げていたが、後ろを向いていたララは気づくことはなかった。


【〇月×日
時間ー午後 場所ータイオン帝国騎士団訓練場
今日は戦闘訓練を行っていた。私の専属騎士役だったので、姫を必死に守る姿にちょっぴり感動した。
トカはどうやら演技にのめり込むタイプのようだ、いわゆる憑依型だ。

剣の腕前も凄かった。王子なのにムキマッチョの中でも断トツに強かった。
意外に努力家なのかもしれない。

午後にはお互い名前で呼び合うようになった。親しくないのにお世話係だから親しいうちに入ると言い張っていた。
もしかしたら王子なのにボッチなのかもしれない。ちょっと可哀想。
※友達になってあげようかな】

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました

宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。 しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。 断罪まであと一年と少し。 だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。 と意気込んだはいいけど あれ? 婚約者様の様子がおかしいのだけど… ※ 4/26 内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

処理中です...