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17.王子観察~午前の部②~

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『キキキキイー』とけたたましく鳴きながら、にんにんはララを拘束している犯人に鋭い爪を出し猛攻撃を仕掛ける。普段は大人しいミニ猿だが飼い主の危機には、獰猛な一面を見せるのだ。
ララも後ろから拘束されているが、犯人の腕に歯で噛みつきながら自慢の尻尾を使いビッタン、ビッタンと必死に反撃をしている。
すると二人のダブル攻撃に怯んだ犯人がララルーアを放した、ララとにんにんはチャンスとばかりに止めを刺そうとする。

「ストップ、ストップ。私だ、バイザルだ!」
「えっ、バイザル様?どうしてここに?」
「ウッキ?」

驚いたことにララを襲った犯人はなんと竜王バイザルだった。

「お茶会をこっそり見学しようと見つからないように歩いていたら、茂みから可愛い気配がしたのでつい入ってしまったんだ。驚かせるつもりはなかった、すまん」
「そうだったんですね。こちらこそごめんなさい、怪我は大丈夫ですか?」
「ウキキウー。ウキ?」
「大丈夫だ、金竜にはこんなの怪我のうちに入らん。ところでララ達はそんな恰好で何をしているんだ?」
「エヘヘヘ………」
(どうしよう、あなたの息子を観察してますなんて言えないよー)

どう誤魔化そうかとララルーアが悶々と考えている隣で、最初から会話に参加していた賢いにんにんが表情とジェスチャーのみで竜王に事の顚末を説明していた。『ウッキッキウ、キキウキウー、ウキッキッキーetc』…なんと完璧に通じてしまった!
『いや~ん、にんにんのそれは言っちゃ駄目よー』と騒いでいるがもう遅い、竜王に【王子観察とあほな計画】がばれてしまった。



「そうか、ララはムカムカしているから早くお茶会を終わりにしたいのかい?」
「………そうです。体調が悪いと観察がちゃんと出来ないし、だけどお茶会が続くと観察したくなるし…?あれ、なんかおかしいかな~」
「いいや、大丈夫だ。うんうん、そうか!そういう事だな!よし、お茶会は解散させよう、私も一肌脱ぐぞ。皆を引き付ける役は私がやろう。そんな恰好で出たら危ないからララはここにいなさい」
「わぁーい、バイザル様ありがとう。でも私も何か手伝います!」
「駄目だ、ここにいなさい。何かしていたら観察が疎かになるだろう、ララは観察仕事に専念して、私とにんにんに任せなさい」
「う~ん、分かりました。バイザル様、にんにんよろしくお願いします!」

ララルーアはバイザルに優しく説得され、あほな計画は2人に丸投げすることにした。
一方、バイザルはララが実行役を諦めてくれてホッとしていた。自分の変身姿を気に入っているララには言えなかったが、あの丸いクリスマスツリーの姿かなり奇抜だった。『表に出たら不味いだろう。本当に騎士団に捕獲されるぞ…』と真剣に思っていたのだ。そして作戦の実行役にんにんの葉っぱも『これはミニ猿がかぶれてしまうしまう葉っぱだから取ろうな』と優しい嘘を吐いてから、取ってあげた。ララ同様に変身姿を気に入っているにんにんを、傷つけないように気を遣ったのである。竜王バイザルはタイオン帝国の頂点であり偉大な竜人であるがミニ猿にも優しくできるおじさんなのだ。


実行役であるバイザルとにんにんはララの作戦をスムーズに実行する為に動きを確認し合う。

「私がトカタオがいるテーブルに近付いて話し掛けるから、その間ににんにんがティーポットに液体を入れてごらん。もし見つかっても私が助けてあげるから大丈夫だぞ。上手くいった時は、にんにんはララがいる茂みに一目散で戻りなさい。私がこちらに戻ったら、みんなにララが気づかれる可能性があるから戻らないよ。二人で部屋に帰るんだぞ、約束だ」
「ウッキッキー♪」

バイザルの提案を聞いて、元気に了解の意を伝えるにんにん。ララのあほな計画ではなくバイザルのまともな計画に心底『良かった~♪』と思っているので返事も即答だった。『なんかにんにん、私が提案した時と態度が違いすぎ~』とララが拗ねているが、ミニ猿にだって選ぶ権利はあるのだ。
そしてララも素直にバイザルの提案通りに動くことにする。

「はい、分かりました。ドウリアにカッコイイ変身姿を見せたいから、真っ直ぐに戻ります♪」
「いやいやそれは駄目だ!変身は解いてから戻りなさい。し、茂みが動いてたら年老いた者はびっくりして心臓麻痺を起こすかもしれないからな…」
「うーん、確かにそうかも。残念だけど元の姿に戻って帰ります」
「そうだ、可愛いララの姿をみんなに見せて帰りなさい。その方が王宮の者達が喜ぶぞ」
「エヘヘ、そうかな~♪」

バイザルはなんとか王宮の秩序を保つことに成功した…はずだ。後は丸いクリスマスツリーが歩かない事を信じるのみだ。
ララは【可愛い】の言葉に気をよくして『私って、可愛いもん♪』と腰を振りながら葉っぱ落としていく。

腰を右にフリフリ、パラパラパラ。
腰を左にフリフリ、パラパラパラ。
ジャンプジャンプ(ドシン、ドシン)で、バサバサーー。
着けるのに比べて葉っぱを落とすのは、お肉の揺れも手伝い一瞬で済んでしまった。その様子を凝視していたバイザルとにんにんが気まずそうに視線を逸らしてくる。

「ち、違うもん!お肉は関係ないもん。切れのある腰の動きが秘訣だもん!」
「「……」」

とりあえず、腰のふりが重要ポイントということで決着がついた…?---二人が乙女心に理解のある紳士で良かったね、ララ。





「「「エイエイ、オー」」」

大きな逞しい手、小さなミニ猿の手、そしてピンクの紅葉のような手を重ねて、三人は作戦実行前に気持ちを鼓舞している。
お茶会解散の使命を全うする為、バイザルとにんにんは人知れずベスト観察スポットから出ていく。
にんにんは右手に小瓶を握り締め、小さな体を器用に何かの陰に隠しながら王子のいるテーブルへと順調に近づいて行く。そしてバイザルは隠れることなくみんなの視線を引きつけながらトカタオの側へとゆっくりと歩いて行くのであった。

ザワザワザワ。
予定にない竜王の出現に庭園は一気に騒がしくなっていく。『将を射んとする者はまず馬を射よ』とばかりに、王子の父である竜王に覚えてもらおうと令嬢達が無作法にも直接話し掛けようとする。

「あの、竜王様。私の父は王宮で…ヒィッ!」
「誰の許可を得て竜王である我に話し掛けているのだ!」

王の覇気を纏った竜王バイザルが冷たく言い放った、その声は刺々しく一切の言い訳を許さないものだった。竜王の威圧に耐えきれずに、話し掛けた令嬢は白目をむいて倒れてしまった。
そこには先ほどララ達と楽し気に話していたバイザルの姿はどこにもなかった。
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