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6.王命
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朝から父である竜王に呼び出されたトカタオは、竜王の執務室へと歩いて行く。
急な呼び出しだったので急ぎ足で向かっていると、途中で令嬢の集団に出くわしてしまった。
(チッ、この急いでいる時にハイエナ集団か。ついてない)
令嬢達は王子に気がつくと我先にと話し掛け、中には馴れ馴れしく身体を密着させる令嬢もいる始末だ。
「トカタオ様、これから一緒にお茶でもいかがですか?」
「ぜひ我が家の自慢の庭園をご覧になっていただきたいわ、これからどうですか?」
「私とデートを楽しみませんか?」
王子という地位に群がる令嬢達をトカタオは、心底嫌悪している。けれどもそんな態度は決して見せず、女性に対して笑顔を絶やすことはない。
「みなさんとゆっくりしたいのは山々ですが、残念な事に政務がありますので失礼」
(チッ、ハイエナ寄るんじゃねえ。臭いんだよ)
トカタオは綺麗な顔で令嬢達に向かって微笑みながら執務室へと向かう。その後ろ姿に令嬢達からは甘い言葉が投げかけられる。
「「「トカタオ様~。次回はぜひ~」」」
その言葉に優しく手を振る王子、『はぁ~♡』といいながら何人かの令嬢は失神している。これが王宮では日常茶飯事なのだ。
「トカ様。今日も甘く優しい王子やってますね」
「仕方ないだろ。あのハイエナ集団から逃げるのはこれが一番効率がいいんだ」
「クックック。華麗な令嬢方をハイエナ呼ばわりするのはトカ様だけですよ」
「何言ってんだ、カイ。お前だってこの前あのハイエナ嬢達って言ってたぞ」
トカタオと王子の護衛カイが、顔を見合わせ笑っている。トカタオはカイと乳兄弟なので気安く、カイの前では王子の仮面を脱いで素で接しているのだ。
お気づきだろうが、素のトカタオはかなり口が悪い。
竜王の執務室に近付くと、扉の前を警護している騎士達には事前に話を通しているらしく『どうぞ、お入りください』と扉を開き入室を促される。
トカタオが入室すると、父である竜王が読んでいた書類から顔を上げた。その顔は青年になったトカタオとよく似ている。お互い金髪金目のイケメンで親子ではなく兄弟にも見えるほどだ。
「竜王様、遅くなり申し訳ありません」
「トカタオ、今日は父として話があるんだ。父上と呼べ、それに口調も元に戻せ」
「はい、父上。用件を言ってくれ?」
父としてというので、トカタオは親子の口調に戻した。そんな息子に満足しバイザルは明るい口調で話し始める。
「お前も政務で忙しいのは分かっているが、一つやって欲しいことがある。なに簡単なことだから大丈夫だ!」
「………」
『人が簡単だと言って詳細を言わない時は何か裏がある時だ、気をつけろ』と目の前の父から教わったトカタオは黙っている。
優秀な息子は父の忠告は忘れていないが、父はすっかり忘れている。
「どうした、トカ。何を黙っているんだ」
「父上、【父の教え第六条】を覚えてるか?」
「えっと、第六条は~、あっ!」
父バイザルは息子のヒントで自分の発言を思い出すが、『そんな昔の話は忘れろ』と焦りながら言い始める。どこの世界でも親とは何とも勝手な生き物である。
「俺に何をやらせたいんだ?面倒はご免だからな!」
「なに、本当に簡単な事だ。今度知り合いの子供を王宮で預かるんだが、その世話を頼む」
「はぁー、お断り!俺に子供の世話なんて無理だ。もっと適任な者は他にいるだろう」
トカタオはバイザルのお願いを一刀両断した。王宮には子供の扱いになれた侍女達が山ほどいる、そちらに頼めとばかりに部屋を出ていこうとする。
そんな息子をバイザルは必死に呼び止め、自ら扉の前に立ち塞がり、物理的に退出出来ないようする。
「待て待て!お前にしか出来んのだ。その子は竜力が少なく虚弱体質なので竜力を与える竜人が必要だ。だが両親は抱卵に入るのでそれが出来なくなる。金竜であるお前なら、他人だが竜力を与える事が可能だ。その子に毎日竜力をあげてくれ」
可哀想だろうとばかりに、バイザルはトカタオの良心に訴えるかける。
ほんの少し心が揺らぎかけたトカタオだが、冷静に考えたら金竜は何もトカタオだけではない、父バイザルだっていいはずだ。
「では父上が竜力をあげてください。父上の知り合い関係なら、ご自分でどうぞ」
「………」
優秀な息子の反撃に、バイザルは言葉を詰まらせる。竜王を言い負かす次代竜王の存在を喜びたいところだが、今優先すべきはそれではない。
バイザルは早々に息子の説得を諦め、切り札を使うことにした。
パンパカッパーン。
「これは王命だ!その子に毎日竜力を与えて世話をしろ。これは次代竜王になる為の鍛錬でもある!王子トカタオ、今から『お世話係』に任命する!」
あれほど最初は父としてと言っていたのに、いきなりの王命発動…。【王命】が軽く扱われている、いいのだろうか。
「父上、それは横暴だ!」
「トカタオ、今は父ではない。オッホン、竜王と臣下である。わきまえろ」
至極真面目な口調で話しているが、言っている事は無茶苦茶である。それは部屋にいる全員が思っている、もちろん竜王もその全員に含まれている。---バイザルいい加減な奴だ。
「返事は?」
「はい、お受けします。竜・王・様…」
全然納得はしていないが、臣下である以上【王命】は絶対だ。トカタオは渋々『お世話係』を引き受けることになった。
そんな息子の様子にマズイと感じた父バイザルはすかさずフォローを入れる。
「その子本当に可愛いらしいぞ。南の辺境地では『ピンクの天使』と呼ばれているらしい。楽しみだな、トカ!」
「では竜王様に『名誉ある世話係』をお譲りしましょうか…」
「いいえ、結構です」
息子の怒りに負けて、父は丁寧語になってしまった。
(((タイオン帝国、大丈夫か?)))臣下達の心配の種がまた一つ増えた日であった。ちなみに心配事の種の一つには『王妃スズ家出三年目突入』も含まれている。王妃いないと思ったら、家出中だったとは…。
*******************************
---トカタオとカイの会話---
「トカ様に子供の世話なんて出来ますかね?」
「出来るわけないだろ。本当に父上は何を考えているのか、はぁー」
「でも、俺も噂は聞いた事あります。その子は竜人だけど竜力が少なく身体が弱いらしいです。城から一歩も出さずに南の辺境地で大切に育てられているらしいですよ。儚げな『ピンクの天使』って、どんだけ美少女なんですかね」
「まぁ、噂になるくらいだから、かなりの美少女なんだろう。だが俺には関係がない。適当にやるだけさ」
『お世話係』になったトカタオだが、適当にやって放置する気満々だ。特に興味もない。
だが事前情報としてカイの話を聞き、トカタオは勝手な人物像を作り上げていった。
【虚弱体質の儚げな美少女・ピンク色の髪と瞳を持つ竜人・南の辺境地の掌中の珠】
誰の事だこれは…。そんな奴は南の辺境地におらん!
急な呼び出しだったので急ぎ足で向かっていると、途中で令嬢の集団に出くわしてしまった。
(チッ、この急いでいる時にハイエナ集団か。ついてない)
令嬢達は王子に気がつくと我先にと話し掛け、中には馴れ馴れしく身体を密着させる令嬢もいる始末だ。
「トカタオ様、これから一緒にお茶でもいかがですか?」
「ぜひ我が家の自慢の庭園をご覧になっていただきたいわ、これからどうですか?」
「私とデートを楽しみませんか?」
王子という地位に群がる令嬢達をトカタオは、心底嫌悪している。けれどもそんな態度は決して見せず、女性に対して笑顔を絶やすことはない。
「みなさんとゆっくりしたいのは山々ですが、残念な事に政務がありますので失礼」
(チッ、ハイエナ寄るんじゃねえ。臭いんだよ)
トカタオは綺麗な顔で令嬢達に向かって微笑みながら執務室へと向かう。その後ろ姿に令嬢達からは甘い言葉が投げかけられる。
「「「トカタオ様~。次回はぜひ~」」」
その言葉に優しく手を振る王子、『はぁ~♡』といいながら何人かの令嬢は失神している。これが王宮では日常茶飯事なのだ。
「トカ様。今日も甘く優しい王子やってますね」
「仕方ないだろ。あのハイエナ集団から逃げるのはこれが一番効率がいいんだ」
「クックック。華麗な令嬢方をハイエナ呼ばわりするのはトカ様だけですよ」
「何言ってんだ、カイ。お前だってこの前あのハイエナ嬢達って言ってたぞ」
トカタオと王子の護衛カイが、顔を見合わせ笑っている。トカタオはカイと乳兄弟なので気安く、カイの前では王子の仮面を脱いで素で接しているのだ。
お気づきだろうが、素のトカタオはかなり口が悪い。
竜王の執務室に近付くと、扉の前を警護している騎士達には事前に話を通しているらしく『どうぞ、お入りください』と扉を開き入室を促される。
トカタオが入室すると、父である竜王が読んでいた書類から顔を上げた。その顔は青年になったトカタオとよく似ている。お互い金髪金目のイケメンで親子ではなく兄弟にも見えるほどだ。
「竜王様、遅くなり申し訳ありません」
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「はい、父上。用件を言ってくれ?」
父としてというので、トカタオは親子の口調に戻した。そんな息子に満足しバイザルは明るい口調で話し始める。
「お前も政務で忙しいのは分かっているが、一つやって欲しいことがある。なに簡単なことだから大丈夫だ!」
「………」
『人が簡単だと言って詳細を言わない時は何か裏がある時だ、気をつけろ』と目の前の父から教わったトカタオは黙っている。
優秀な息子は父の忠告は忘れていないが、父はすっかり忘れている。
「どうした、トカ。何を黙っているんだ」
「父上、【父の教え第六条】を覚えてるか?」
「えっと、第六条は~、あっ!」
父バイザルは息子のヒントで自分の発言を思い出すが、『そんな昔の話は忘れろ』と焦りながら言い始める。どこの世界でも親とは何とも勝手な生き物である。
「俺に何をやらせたいんだ?面倒はご免だからな!」
「なに、本当に簡単な事だ。今度知り合いの子供を王宮で預かるんだが、その世話を頼む」
「はぁー、お断り!俺に子供の世話なんて無理だ。もっと適任な者は他にいるだろう」
トカタオはバイザルのお願いを一刀両断した。王宮には子供の扱いになれた侍女達が山ほどいる、そちらに頼めとばかりに部屋を出ていこうとする。
そんな息子をバイザルは必死に呼び止め、自ら扉の前に立ち塞がり、物理的に退出出来ないようする。
「待て待て!お前にしか出来んのだ。その子は竜力が少なく虚弱体質なので竜力を与える竜人が必要だ。だが両親は抱卵に入るのでそれが出来なくなる。金竜であるお前なら、他人だが竜力を与える事が可能だ。その子に毎日竜力をあげてくれ」
可哀想だろうとばかりに、バイザルはトカタオの良心に訴えるかける。
ほんの少し心が揺らぎかけたトカタオだが、冷静に考えたら金竜は何もトカタオだけではない、父バイザルだっていいはずだ。
「では父上が竜力をあげてください。父上の知り合い関係なら、ご自分でどうぞ」
「………」
優秀な息子の反撃に、バイザルは言葉を詰まらせる。竜王を言い負かす次代竜王の存在を喜びたいところだが、今優先すべきはそれではない。
バイザルは早々に息子の説得を諦め、切り札を使うことにした。
パンパカッパーン。
「これは王命だ!その子に毎日竜力を与えて世話をしろ。これは次代竜王になる為の鍛錬でもある!王子トカタオ、今から『お世話係』に任命する!」
あれほど最初は父としてと言っていたのに、いきなりの王命発動…。【王命】が軽く扱われている、いいのだろうか。
「父上、それは横暴だ!」
「トカタオ、今は父ではない。オッホン、竜王と臣下である。わきまえろ」
至極真面目な口調で話しているが、言っている事は無茶苦茶である。それは部屋にいる全員が思っている、もちろん竜王もその全員に含まれている。---バイザルいい加減な奴だ。
「返事は?」
「はい、お受けします。竜・王・様…」
全然納得はしていないが、臣下である以上【王命】は絶対だ。トカタオは渋々『お世話係』を引き受けることになった。
そんな息子の様子にマズイと感じた父バイザルはすかさずフォローを入れる。
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*******************************
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「でも、俺も噂は聞いた事あります。その子は竜人だけど竜力が少なく身体が弱いらしいです。城から一歩も出さずに南の辺境地で大切に育てられているらしいですよ。儚げな『ピンクの天使』って、どんだけ美少女なんですかね」
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