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俺が離縁したことはすぐに周囲に知れ渡った。
話題に乏しいこの街ではこの手の話題は人々の関心を引きすぐに広まっていく。
離縁は珍しいことではないが、俺が妻と離縁した経緯を知っている人達からは憐みの視線と共に厳しい視線を向けられて遠慮ない言葉も投げつけられた。
当然の結果だった。
『なんであんな良い嫁さんに酷い仕打ちをしたんだか、あんたを見損なったよ』
『お前がもっとしっかりしていたら離縁にならなかっただろうよ。甘えすぎだっ、母親と結婚したんじゃないぞ』
俺は反論することはなかった、言われたことは全て事実でしかなかったから受け入れた。
離縁した後はただ家と職場の往復だけをしている無意味な日々を淡々と過ごしている。
同じく離縁を経験している人からは『独身に戻ったんだから楽しめ』と慰められるが楽しいことなんてない独り身の虚しさを感じるだけだ。
暫くすると周りも興味が薄れたのか俺の離縁について触れる事はなくなり以前と同じような態度に戻っていった。
所詮は他人の離縁など一時の話題でしかないのだ。
以前と同じ日常に喜びを感じる事はない。結局一人で過ごす日々は全てが色褪せて見え、以前のように笑うことはなくなっていた。
嫁いだマリーは苦労しているようだ。
俺が妹を訪ねたあとにマリーは夫に全てを打ち明けたらしい、過去のことから花嫁衣装のことまで全てを。
当然何も知らなかったミールは激怒した。
『なんで義姉にそんな酷い事が出来たんだっ、人として恥ずかしくないのか!』と妻となったマリーを叱り飛ばした。数日間は口も利かなかったらしいが…その後二人で話し合いを重ねて最後にはそんな愚かな妻をミールは受け入れてくれた。
兄としては感謝してもしきれない。
愚かな妹だがそれでも妹だ、ロナのことを思えば許しがたいけど…それでも不幸を望んだりはしない。
義両親や周囲から冷たい視線を向けられ針の筵の妻をミールは夫として支えてくれている。
『お前は妹をなんでちゃんと見ていなかった、マリーが一番悪いのは間違いないがお前は兄として夫として中途半端だった』と俺に言ったミールは夫として妻を必死に守っている。
ロナの実家へマリーと一緒に足を運び謝罪を繰り返し、マリーの行いを知った周囲の冷たい視線にも反論することなく一緒に受け止めている。
それに『離縁したらどうか』と言う両親の言葉にも頷くことはない。
その姿は俺には眩しかった。
‥‥すまない、そして本当に有り難う。
俺は義弟になったミールに心の中で頭を下げ続けている。そして彼のようにどんな時も妻に寄り添っている夫だったら俺は今もロナと一緒に居られたんだろうと思わずにはいられない。
‥‥難しいことではなかった。でも俺は出来なくてミールは出来ている、この違いが天と地ほどの差を生んでいる。
数か月が過ぎたころロナが子供を産んだことを知った。
俺は慌てて隣町にあるロナの実家に行ったが『離縁に同意したお前に子はいない。もう関わるな、それがお前が選んだ道だろうがっ』とトムさんから言い捨てられた。
そうだ‥‥あの時ロナに決断を委ねたのは俺自身だ。
今更知らなかったからなんて言い訳は出来ない。
ロナがずっと前に体調が悪かったことを思い出す。あの時の俺はロナをちゃんと気遣っていただろうか…、結婚式の準備に追われていたロナの姿しか思いだせない。
そして妹の結婚式に浮かれていた自分ばかり思いだす。
あの時の不調はきっと身籠っていたからだろう。
それなのに俺は無理をさせていたんだな。
クソッ、なんで気がつかなかったっ!
会いたいロナに。
会いたい我が子に。
守りたい、今度こそ‥‥。
あの時に戻れるならどんなことでもしたい。
生まれた月を考えて俺の子に間違いはない。
なぜ言ってくれなかったのかと思い、手紙にあった言葉を思い出す。
『大切にしたいものがあります。それを守るために、もうあなたとは一緒に居られません』
子供の存在の為に俺との別れを選んだということを知った。
‥‥ショックだった。
俺とロナは子供を望んでいた、一緒に名前を考えて生まれたら付ける名も決めていた。
それなのに子の為に別れを選んだ、つまり自分は父親としてロナに必要とされていなかったということだ。
あの時点でロナの決断を受け入れた自分に子の父だと名乗り出る資格はもうない。
以前の俺なら考えるより先に動きロナと子に会いに行っていただろう。
だが逸る気持ちを押さえて考える。
それでいいのか‥?
自分の気持ちだけを優先させて満足なのか?
それでは何も変わらない。
以前と同じでは駄目なんだ、きっと俺はまた同じことを繰り返してしまうかもしれない。
‥‥まだ俺はなにも変われていない。
ロナの決断を尊重すると言っておきながら『子供がいるならやり直せる、その権利がある』と都合よく行動しそうになる自分に待ったを掛ける。
考えろ、ちゃんと。
どうしてこうなっている?
もっと考えるんだっ。
ロナはどうして子供の為に別れを選んだ?それは俺が大切なものを一緒に守れないと判断したからだ。
彼女は思い付きで行動したんじゃない、考えたうえで選んでいた。
そこにあるのは母としての強い意志。
母となる彼女がそう考えたのなら、それだけのことを俺はしていたんだ。そして残念なことに俺はそれをまだちゃんと理解できていないだろう。
それなら導き出される答えはひとつだ。
‥‥今は会いに行くべきではない。
今度は自分の気持ちだけを優先させたりはしない。
俺という存在を必要としてくれるその日まで待てばいい…時間ならいくらでもある。
そしてその間に自分を見つめ直して変わればいい。
それでいいんだ、それで…。
いつ訪れるかも分からない日を待ち続ける。
これが希望…と言えるのかも分からない。
だが暗闇のなかを彷徨っている俺には遥か先に微かな光が見えた気がした。
話題に乏しいこの街ではこの手の話題は人々の関心を引きすぐに広まっていく。
離縁は珍しいことではないが、俺が妻と離縁した経緯を知っている人達からは憐みの視線と共に厳しい視線を向けられて遠慮ない言葉も投げつけられた。
当然の結果だった。
『なんであんな良い嫁さんに酷い仕打ちをしたんだか、あんたを見損なったよ』
『お前がもっとしっかりしていたら離縁にならなかっただろうよ。甘えすぎだっ、母親と結婚したんじゃないぞ』
俺は反論することはなかった、言われたことは全て事実でしかなかったから受け入れた。
離縁した後はただ家と職場の往復だけをしている無意味な日々を淡々と過ごしている。
同じく離縁を経験している人からは『独身に戻ったんだから楽しめ』と慰められるが楽しいことなんてない独り身の虚しさを感じるだけだ。
暫くすると周りも興味が薄れたのか俺の離縁について触れる事はなくなり以前と同じような態度に戻っていった。
所詮は他人の離縁など一時の話題でしかないのだ。
以前と同じ日常に喜びを感じる事はない。結局一人で過ごす日々は全てが色褪せて見え、以前のように笑うことはなくなっていた。
嫁いだマリーは苦労しているようだ。
俺が妹を訪ねたあとにマリーは夫に全てを打ち明けたらしい、過去のことから花嫁衣装のことまで全てを。
当然何も知らなかったミールは激怒した。
『なんで義姉にそんな酷い事が出来たんだっ、人として恥ずかしくないのか!』と妻となったマリーを叱り飛ばした。数日間は口も利かなかったらしいが…その後二人で話し合いを重ねて最後にはそんな愚かな妻をミールは受け入れてくれた。
兄としては感謝してもしきれない。
愚かな妹だがそれでも妹だ、ロナのことを思えば許しがたいけど…それでも不幸を望んだりはしない。
義両親や周囲から冷たい視線を向けられ針の筵の妻をミールは夫として支えてくれている。
『お前は妹をなんでちゃんと見ていなかった、マリーが一番悪いのは間違いないがお前は兄として夫として中途半端だった』と俺に言ったミールは夫として妻を必死に守っている。
ロナの実家へマリーと一緒に足を運び謝罪を繰り返し、マリーの行いを知った周囲の冷たい視線にも反論することなく一緒に受け止めている。
それに『離縁したらどうか』と言う両親の言葉にも頷くことはない。
その姿は俺には眩しかった。
‥‥すまない、そして本当に有り難う。
俺は義弟になったミールに心の中で頭を下げ続けている。そして彼のようにどんな時も妻に寄り添っている夫だったら俺は今もロナと一緒に居られたんだろうと思わずにはいられない。
‥‥難しいことではなかった。でも俺は出来なくてミールは出来ている、この違いが天と地ほどの差を生んでいる。
数か月が過ぎたころロナが子供を産んだことを知った。
俺は慌てて隣町にあるロナの実家に行ったが『離縁に同意したお前に子はいない。もう関わるな、それがお前が選んだ道だろうがっ』とトムさんから言い捨てられた。
そうだ‥‥あの時ロナに決断を委ねたのは俺自身だ。
今更知らなかったからなんて言い訳は出来ない。
ロナがずっと前に体調が悪かったことを思い出す。あの時の俺はロナをちゃんと気遣っていただろうか…、結婚式の準備に追われていたロナの姿しか思いだせない。
そして妹の結婚式に浮かれていた自分ばかり思いだす。
あの時の不調はきっと身籠っていたからだろう。
それなのに俺は無理をさせていたんだな。
クソッ、なんで気がつかなかったっ!
会いたいロナに。
会いたい我が子に。
守りたい、今度こそ‥‥。
あの時に戻れるならどんなことでもしたい。
生まれた月を考えて俺の子に間違いはない。
なぜ言ってくれなかったのかと思い、手紙にあった言葉を思い出す。
『大切にしたいものがあります。それを守るために、もうあなたとは一緒に居られません』
子供の存在の為に俺との別れを選んだということを知った。
‥‥ショックだった。
俺とロナは子供を望んでいた、一緒に名前を考えて生まれたら付ける名も決めていた。
それなのに子の為に別れを選んだ、つまり自分は父親としてロナに必要とされていなかったということだ。
あの時点でロナの決断を受け入れた自分に子の父だと名乗り出る資格はもうない。
以前の俺なら考えるより先に動きロナと子に会いに行っていただろう。
だが逸る気持ちを押さえて考える。
それでいいのか‥?
自分の気持ちだけを優先させて満足なのか?
それでは何も変わらない。
以前と同じでは駄目なんだ、きっと俺はまた同じことを繰り返してしまうかもしれない。
‥‥まだ俺はなにも変われていない。
ロナの決断を尊重すると言っておきながら『子供がいるならやり直せる、その権利がある』と都合よく行動しそうになる自分に待ったを掛ける。
考えろ、ちゃんと。
どうしてこうなっている?
もっと考えるんだっ。
ロナはどうして子供の為に別れを選んだ?それは俺が大切なものを一緒に守れないと判断したからだ。
彼女は思い付きで行動したんじゃない、考えたうえで選んでいた。
そこにあるのは母としての強い意志。
母となる彼女がそう考えたのなら、それだけのことを俺はしていたんだ。そして残念なことに俺はそれをまだちゃんと理解できていないだろう。
それなら導き出される答えはひとつだ。
‥‥今は会いに行くべきではない。
今度は自分の気持ちだけを優先させたりはしない。
俺という存在を必要としてくれるその日まで待てばいい…時間ならいくらでもある。
そしてその間に自分を見つめ直して変わればいい。
それでいいんだ、それで…。
いつ訪れるかも分からない日を待ち続ける。
これが希望…と言えるのかも分からない。
だが暗闇のなかを彷徨っている俺には遥か先に微かな光が見えた気がした。
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