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12.俺の過ち②

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ガッシャーン!!

睨んでいた店員は立て掛けてあった俺達の剣を数本手で払いのけ倒した。俺達は慌てて倒れた剣を拾い上げ『何をするんだ!酷いじゃないかっ』と抗議の声を上げる。
それは当然だった。騎士のとって剣は大切なものでわざと乱暴な扱いをされては我慢ならない。

「悪かったね、壊れていたら弁償するよ、それでいいだろう」

ちっとも悪いとなんて思ってない態度で口先だけの謝罪をする彼女に俺達の怒りは治まらない。

「おばちゃん、そういう問題じゃない。これは古いけど親父から譲ってもらった思い入れのある剣なんだ。弁償すればいいってもんじゃない!」

「俺の剣は特注で同じものは二本とないっ。剣は騎士にとってただの商売道具じゃない、大切な相棒なんだ」

騎士達は口々に彼女を責め立てる、自分達が正しいことを言っていると信じているから。

「煩いよ、たかが剣ごときでゴタゴタ言うんじゃないよ!弁償するって言ってんだろう!」

「弁償とかの問題じゃない、これは俺にとって親父の、」

切れ気味で反論しようとした一人の騎士の言葉を遮って店員は腰に手を当て声を張り上げる。

「あらおかしいね~。さっき話していたあんた達の理屈だと、ドレスは弁償すれば済むもんなんだろう。そのドレスにどれほどの想いが込められているかなんて関係ないんじゃなかったのかい?だからドレスごときで怒り過ぎだってベラベラと喋っていたんだろう。
だとしたら剣だって同じ事だろう、あんた達の想いなんて関係ない。弁償すればいいだけのことだ、だって剣じゃないか」

「「「………」」」

彼女の言っている事はもっともだった。自分達の剣では大騒ぎする癖にさっきまでロナの花嫁衣装のことはたかがと軽く話していた。女性にとって花嫁衣装は特別なものなのに、俺達はそんなことは考慮せずに言いたい事を言っていた。
みな気まずそうに店員の鋭い視線から目を逸らしている。

だが俺は目を逸らすことなんて出来なかった。

俺は花嫁衣装がロナの亡き母の手作りだと隠してはいないが積極的に話してもいなかった。この中で知っている者もいるだろうし知らない者もいるだろう。

妹の今後のことを思うと…言えなかったのだ。あんなことをしでかした妹だけど、俺にとっては大切な妹なのは変わらない。
…だから仲間の発言をただ聞き流していた、その場の乗りだからと軽く考えて。

‥‥一番質が悪いのは俺だ。


彼女がロナの花嫁衣装について詳しく知っているかどうかは分からない。でも女性にとって大切なものを勝手に軽く考えどうでもいい事のように言いいながらロナの行動を咎める俺達を許せなかったのだろう。

そして一番許せなかったのは夫である俺だろう。その目線がそれを物語っている『あんたはそれでいいのかいっ!』と。


俺は恥ずかしかった。彼女に指摘されるまで仲間が慰めてくれることを嬉しく思っていただけの自分を見透かされているようで。



俺達が気まずそうにしていると更に話しを続けてくる。

「あんた達は勝手なことを言っていたね。
ザイが夫として偉い?妻を愛していた?浮気していなかった?兄として立派だった?

確かにね、ザイは亡くなった両親の代わりになって幼い妹を育て上げてた。立派だ、それは間違いない。
だが妹のことはザイ一人だけが頑張っていた訳じゃない。妹は今でこそ挨拶はちゃんとするし、嫁ぎ先では美味しい料理も作って家事も頑張っていると聞いているよ。でもねあの子は最初っからそうじゃなかった、ザイが結婚する前は悪いが年の割には礼儀だってなってなかったからどうなる事かと心配していたぐらいだ。
それが少しづつ良くなっていったのはロアンナが嫁いで来たからだよ。
これがどう意味か分かるかい、頭空っぽな男ども。
ザイの嫁さんが義妹をしっかりと面倒見ていたってことなんだ。きっと男のザイだけではこうはいかなかったはずだ。
結婚式も挙げずに義妹と同居して世話をしていた、その義妹に花嫁衣装を台無しにされたのに最後まで結婚式の手伝いもしていた。

ロアンナはね、義妹の躾までしなくったて良かったんだ。最低限の世話だけで終わらせたって文句なんて言われる筋合いはない。だってザイの嫁であってマリーの母親じゃないんだから。
それにね、あたしは一緒に式を手伝っていたけど、ロアンナは花嫁衣装を台無しにされたと話さなかった。あの子は裏で黙々と働き続けていたんだ。本当ならね怒りをぶつけて式を台無しにすることだって簡単に出来たんだ。
でもしなかった‥‥だからザイとマリーも最後まで笑って式を終えたんだ。

私はね、あんた達と同じくらいの情報しか知らないけどね、ロアンナが酷いなんてこれっぽっちも思わないね。
逆に我慢し過ぎだって今度会ったら叱り飛ばそうと思っているけど…。
ザイの味方になるのは勝手だけどね、ロアンナを悪く言うんじゃないよ」

しばらく誰も口を開けなかった。沈黙が続いた後、最年長の騎士がおずおずと話し出す。

「だ、だけどさ…、ザイはちゃんと嫁さんを愛していたんだし兄として夫としてやることはちゃんとやっていたんだからそこまで言わなくても‥‥」

まだザイを庇うように言っているがさっきまでの勢いはない。


「兄としてちゃんとやっていた、それは兄なんだから当然だろう。夫としてだって結婚したんだから当然だ。
妻を愛しているのも浮気しないのも当然だ、別に特別なことじゃない。
それを言うならロアンナだってザイを愛していただろうし浮気なんてしてなかった。
なのになぜ夫だけは立派だと褒めて、妻のことは褒めないんだい?おかしいじゃないか、同じことをやっているのに男であるザイだけが立派なんてさ。
なんて都合のいい男目線なんだろうね…。
ロアンナは義姉以上のことをやっていた、妻だけでなく母親の役割さえ求められていた。
まあもう済んだ事だからなんだけど、色々と大変だなぁと思っていたよ。
義妹が素直とは限らないからね、でもそれも夫次第でどうとでもなるんだが。

そんな苦労も男目線では当然のことかい、それとも考えもつかなかったかい?

ザイの養っているという行為は表立って見える事だから評価され、ロアンナがそれを地味に支えているのは家庭内のことで傍から見えないから評価しない。
はぁ‥‥男達は都合よく考えているね。
呆れてものが言えない、あんた達その考えを改めないといつか後悔することになるよ」

賑やかだった店内はいつの間にか静まり返っていた。
店にいる男達はほとんどの者がばつが悪そうな表情を浮かべたり頭を掻いて誤魔化している。一方で店内にいる数人の女性達は店員の言葉に拍手を送っていた。

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