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10.ロナの決断③
しおりを挟む「マリー素敵な花嫁衣装だ、凄く似合っているよ。死んだ父さんと母さんにも見せたかったなー、こんなに綺麗なお前を見たらきっと涙を流して喜んでいるぞ」
「ふふふ、そうかな♪自分でも良く似合っているって思っているんだ」
「ああ、本当にその花嫁衣装はお前に似合っているな」
目の前で二人が嬉しそうに話している。
私の花嫁衣装を着たマリーを褒め続けるザイはそれが元は私のものだと気づいてもいない。
そして青ざめた顔で震えている私の存在にもまだ気づかない。
ああそうか…と思った。
この人は私を見てくれていなかったんだなと。
私が宝物だと言って着て見せた衣装だけでなく何もかも見ていなかったんだ…。
『いつも有り難う』と言ってくれているから私をちゃんと見てくれていると思っていたけどそうではなかったんだろう、彼が見ていたのは私ではなかった。
彼が見ていたのは『義妹を世話する人』であり『良き妻という人』だったのだ。
私ではなかった。
私じゃなくても良かったのか‥‥。
『君のことも同じ様に大切にする』というザイの言葉が何度も頭で繰り返し流れる。
あれは噓だったのだろうか…。
本当に義妹と同じ様に大切に想っていたら今の状態の私に気づかないはずはない。
私は本当に彼から愛されていたのだろうか‥。
彼が愛していたのは義妹を大切にしてくれる妻であって‥‥私じゃなかったのか…。
嫌な考えが頭から離れない。
いいえ違う、彼は誠実な人だから嘘を言っているつもりはない。
でも‥‥‥‥。
ザイの行動は彼の気持ちを如実に表している。
彼は私を愛しているだろう、それは分かる、信じている…信じたい…。
でも…同じようには愛していない。
‥‥‥‥ぷっ‥‥つん‥‥。
私の中でなにかが切れてしまった。
彼を愛している…気持ちは消えて…いない、たぶん…。
でも彼を以前のように信じることは出来なくなっていた。
私だけなら『愛しているから平気だ』と自分の気持ちを誤魔化し、以前のように蓋をしたのかもしれない。
でも私のお腹には大切な子供がいる。
彼は優しい人だけど、大切な妹を前にしたら他の大切なものが見えなくなる。
同じく家族なのだからどちらが大切かと優先順位をつけることではないのは分かっている、分かっているけど…。
考えずにはいられない。
何かあった時に彼はどちらを優先させるのかと。
彼の中で優先順位は決まっている。彼にそれを言っても『そんなことはない』と全力で否定するだろうが…。
思えばどんな時も私が一番になることはなかった。
この三年間で一度もだ‥‥。
今までは仕方がないと思えたのは自分だけが我慢すれば良かったからだ。
今は違う、そうは思えない。
彼の都合に合わせて分かってあげられない。
今更彼が変わるとも思えない。
私のことを『愛している』と言いながらなによりも妹を優先させてきた人だ。
そしてそんな彼を愛し受け入れてきたけど…、今の私はそんな彼をもう受け入れられない。
『この子を守りたい』という強い想いだけが私の心に湧き上がる。
私はこれからのことを考える。
将来、義妹は子を産むだろう、彼にとっては大切な姪や甥となる。妹と妻では妹を優先させてきた彼は今度はどうなるだろうか‥‥。
我が子だと思いたいが、彼を見ていると分からない。
妹に頼まれたら『すまない』と心からの言葉を口にしてから私や子供に背を向けるのだろうか…。
そして私はその時に『大丈夫、平気よ』と同じく笑っていられるのか…。
‥‥きっと笑えない。
このお腹の子が悲しい顔をしている隣で笑う事なんて出来ない。
そんな未来が簡単に想像できてしまう、…そんな未来しか想像できない。
私は常に不安に苛まれ続けるのだろうか、愛する人の隣で…。
大切な我が子をそんな両親の元で育てるのか…。
この子にとって何が幸せか…。
そっとまだ膨らんでもいないお腹に手を当てる。
もう一度ザイ達に目を向ける、彼らは二人だけで楽しそうに笑っている、私とお腹の子には目も向けないで‥‥。
もう一度話し合う?
いいえ、それはきっと意味がない。
今までだって何度も話し合ってきた、…その結果がこれなんだから。
ザイにはもう期待などしない。
‥‥愛しているけど。
彼は分かってない、自分の行動の意味を。
‥‥悪気はないけど。
伝える努力はもうしない。
‥‥もう疲れたの。
だからもう私は彼の傍を離れる、大切なものを守りたいから。
ごめんね、あなたからお父さんを奪ってしまう。
でも、もう無理なの笑っていられない。
あの人の『すまない』を聞きたくない、そしてあなたにも聞かせたくはない。
‥‥守りたい、この子を。
私の心はこの瞬間決まった。
この人とは一緒にお腹の子を育てることは出来ないと。
私は静かにその場を離れた。もちろん彼から呼び止められる事も無かった。
それが彼の答えだと私は受け取った。
そして私は彼の妻としての最後の務めを果たしてから家を出た。
もしかしたら決めた瞬間から家を出るまでにザイが話し掛けてきたらもしくは目を合わせる事があったら何かが違ったかもしれない。
でも彼が私を見ることは一度もなかった。結婚式の準備をしている妻に話し掛ける言葉は必要なかったのだろう。
ちゃんと準備をしていたのだから彼にとってそれだけで満足だったのだ。
彼にとって所詮私はそういう存在だったのだ。
『大切な都合の良い妻』
もう止める…、だから私から彼に話すことはもう何もなかった。
「ふふふ、そうかな♪自分でも良く似合っているって思っているんだ」
「ああ、本当にその花嫁衣装はお前に似合っているな」
目の前で二人が嬉しそうに話している。
私の花嫁衣装を着たマリーを褒め続けるザイはそれが元は私のものだと気づいてもいない。
そして青ざめた顔で震えている私の存在にもまだ気づかない。
ああそうか…と思った。
この人は私を見てくれていなかったんだなと。
私が宝物だと言って着て見せた衣装だけでなく何もかも見ていなかったんだ…。
『いつも有り難う』と言ってくれているから私をちゃんと見てくれていると思っていたけどそうではなかったんだろう、彼が見ていたのは私ではなかった。
彼が見ていたのは『義妹を世話する人』であり『良き妻という人』だったのだ。
私ではなかった。
私じゃなくても良かったのか‥‥。
『君のことも同じ様に大切にする』というザイの言葉が何度も頭で繰り返し流れる。
あれは噓だったのだろうか…。
本当に義妹と同じ様に大切に想っていたら今の状態の私に気づかないはずはない。
私は本当に彼から愛されていたのだろうか‥。
彼が愛していたのは義妹を大切にしてくれる妻であって‥‥私じゃなかったのか…。
嫌な考えが頭から離れない。
いいえ違う、彼は誠実な人だから嘘を言っているつもりはない。
でも‥‥‥‥。
ザイの行動は彼の気持ちを如実に表している。
彼は私を愛しているだろう、それは分かる、信じている…信じたい…。
でも…同じようには愛していない。
‥‥‥‥ぷっ‥‥つん‥‥。
私の中でなにかが切れてしまった。
彼を愛している…気持ちは消えて…いない、たぶん…。
でも彼を以前のように信じることは出来なくなっていた。
私だけなら『愛しているから平気だ』と自分の気持ちを誤魔化し、以前のように蓋をしたのかもしれない。
でも私のお腹には大切な子供がいる。
彼は優しい人だけど、大切な妹を前にしたら他の大切なものが見えなくなる。
同じく家族なのだからどちらが大切かと優先順位をつけることではないのは分かっている、分かっているけど…。
考えずにはいられない。
何かあった時に彼はどちらを優先させるのかと。
彼の中で優先順位は決まっている。彼にそれを言っても『そんなことはない』と全力で否定するだろうが…。
思えばどんな時も私が一番になることはなかった。
この三年間で一度もだ‥‥。
今までは仕方がないと思えたのは自分だけが我慢すれば良かったからだ。
今は違う、そうは思えない。
彼の都合に合わせて分かってあげられない。
今更彼が変わるとも思えない。
私のことを『愛している』と言いながらなによりも妹を優先させてきた人だ。
そしてそんな彼を愛し受け入れてきたけど…、今の私はそんな彼をもう受け入れられない。
『この子を守りたい』という強い想いだけが私の心に湧き上がる。
私はこれからのことを考える。
将来、義妹は子を産むだろう、彼にとっては大切な姪や甥となる。妹と妻では妹を優先させてきた彼は今度はどうなるだろうか‥‥。
我が子だと思いたいが、彼を見ていると分からない。
妹に頼まれたら『すまない』と心からの言葉を口にしてから私や子供に背を向けるのだろうか…。
そして私はその時に『大丈夫、平気よ』と同じく笑っていられるのか…。
‥‥きっと笑えない。
このお腹の子が悲しい顔をしている隣で笑う事なんて出来ない。
そんな未来が簡単に想像できてしまう、…そんな未来しか想像できない。
私は常に不安に苛まれ続けるのだろうか、愛する人の隣で…。
大切な我が子をそんな両親の元で育てるのか…。
この子にとって何が幸せか…。
そっとまだ膨らんでもいないお腹に手を当てる。
もう一度ザイ達に目を向ける、彼らは二人だけで楽しそうに笑っている、私とお腹の子には目も向けないで‥‥。
もう一度話し合う?
いいえ、それはきっと意味がない。
今までだって何度も話し合ってきた、…その結果がこれなんだから。
ザイにはもう期待などしない。
‥‥愛しているけど。
彼は分かってない、自分の行動の意味を。
‥‥悪気はないけど。
伝える努力はもうしない。
‥‥もう疲れたの。
だからもう私は彼の傍を離れる、大切なものを守りたいから。
ごめんね、あなたからお父さんを奪ってしまう。
でも、もう無理なの笑っていられない。
あの人の『すまない』を聞きたくない、そしてあなたにも聞かせたくはない。
‥‥守りたい、この子を。
私の心はこの瞬間決まった。
この人とは一緒にお腹の子を育てることは出来ないと。
私は静かにその場を離れた。もちろん彼から呼び止められる事も無かった。
それが彼の答えだと私は受け取った。
そして私は彼の妻としての最後の務めを果たしてから家を出た。
もしかしたら決めた瞬間から家を出るまでにザイが話し掛けてきたらもしくは目を合わせる事があったら何かが違ったかもしれない。
でも彼が私を見ることは一度もなかった。結婚式の準備をしている妻に話し掛ける言葉は必要なかったのだろう。
ちゃんと準備をしていたのだから彼にとってそれだけで満足だったのだ。
彼にとって所詮私はそういう存在だったのだ。
『大切な都合の良い妻』
もう止める…、だから私から彼に話すことはもう何もなかった。
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