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6.マリーの言い分①
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義姉が誰にも何も言わずに家を出てから兄は仕事を休んでまで必死になって探していた。
義姉はもう大人なんだからそこまで心配する必要もない。きっとちょっとした夫婦喧嘩で出て行っただけだろうから、そのうち頭が冷えたら帰ってくるだろう。
こういう時は周りが必要以上に騒ぎ立てるほうがよくない、そっとしておいたほうが帰って来やすいはずだから。
まあ兄さんの気持ちは分かるけどね。
べた惚れの義姉さんに出て行かれたんだから落ち着いてなんかいられないよね…。
だから私はなかなか帰ってこない義姉を心配し始めたミールに『夫婦喧嘩は犬も食わないって言うでしょう、首を突っ込むのは良くないわ。ザイ兄さんに任せて放っておきましょう』と言って何もしなかった。
それが一番良い選択だと信じて…。
私とミールは結婚式の翌日には予定通りにミールの両親と同居生活を始めた。これはこの辺りでは当たり前のことなので嫌ではなかった。ただ義両親に気に入ってもらえるかだけは心配ではあった。
私は朝食作りを任されて貰えることになり張り切っていた。義姉から一通り料理を教わっていたので手際は悪くてもまずまずな料理を作ることができ、ミールや義両親から『マリーの料理は美味しい』と褒められ幸先の良い新婚生活となった。
ふふ、ロナ義姉さんに感謝だわ。
色々と教えてくれたお陰で上手くいっているもの。
実家では『口煩いな、干渉しないでっ』て反抗ばかりしていたけど、悪かったなぁ…。
今度会ったらちゃんとお礼を言おう!
私は実家を出て初めて義姉の存在に感謝した。
それまでは義姉は私から優しい兄を奪った邪魔者でしかなかった。
家の中では私だけの兄だったのに、義姉が嫁いできてからはそうではなくなった。
兄が私に割く時間は半分になり、今までは家族にだけ見せていた優しい顔も義姉にも向ける。…それは私だけのものだったのに。
両親が亡くなってから今まで二人だけで必死に頑張ってきたのに…、途中から入ってきたくせに義姉は私が大切にしてきたものをいとも簡単に壊した。
この人は家族なんかじゃないっ!
‥‥そう感じてしまった。
それに『やれその言葉使いは駄目だ』『使ったら片づけなさい』『少しは一緒に料理を作りましょう』と何かと口煩いのも嫌だった。だから私にばかり辛く当たる義姉に我が儘や文句ばかり言っていたのだ。
兄や周りからは『優しい義姉さんに文句ばかり言って迷惑を掛けるな、マリーの為にやってくれているのだから』って言われていたけれど『そんなの関係ない、義姉さんが勝手にやっているだけでしょう』と態度を改めることはしなかった。
義姉は優しい人だとは分かっていたけど、兄と二人で楽しそうに話している姿を見ると、その優しささえどこか点数稼ぎのように思えてしまった。
ふんっ、兄さんにいい顔がしたいのよね。
だから妹の私に無理して優しくしているんでしょう。
‥‥我ながら酷い義妹だったと思う。
でもその時は素直になれなかったのだ。
結婚して他家に嫁いだ今となっては義姉の有り難さを実感している。
あれは辛く当たっていたのではなく、私に足りていない事を身に付けさせようとしてくれたのだ。
母親がいないから教わっていなかったことを教えようと、義姉さんは必死になってくれたんだろう。
正しい言葉使いや礼儀や家事はどれも当たり前に必要なものだったと今は理解できる。
あの時は分からなかったけど…。
意地悪な義姉だと思って反抗してしまったけど…。
もし義姉さんがいなかったら、私は常識を身に着けずに嫁いで苦労していたことだろう。
きっと婚家での生活もこんなに上手くいってなかったかもしれない。
順調な同居生活を送っていると突然兄が婚家にやって来た。
兄の訪問ならいつでも大歓迎だが、今日の兄はいつもと様子が違う。髪はボサボサで無精髭まで生えていて顔色も悪い。
どうやらまだ義姉さんは帰って来てないようだ。夫婦喧嘩に口を出すつもりはなかったけれども、これでは兄さんがあまりに可哀想だ。
私は黙ったままの兄を椅子に座らせてお茶の用意をしながら、俯いている兄に向かって話し掛けた。
「ねえ兄さん、まだ義姉さんは帰って来てないみたいね。隣町の実家にいたんでしょう?
私が今度行ってみようか?
意地ばっかり張っていると兄さんに愛想を尽かされて離縁されちゃうよって言ってみるわ、そうしたらきっと慌てて戻ってくるわよ、ロナ義姉さん」
兄がこれ以上落ち込まないようにわざとお道化た口調で言ってみた。
兄は笑ってくれ『悪いなマリー、ロナを迎えに行ってくれ』と頼んでくると思った。
頼まれたらすぐにでもロナ義姉さんを迎えに行って、今までの態度を謝ってそれから『これまで有り難う』と伝えたかった。
照れてしまい上手く言えないかもしれないけれども、それでもちゃんと伝えたかった。
義姉との関係を一からやり直したかった。
優しいロナ義姉さんなら、今までのこと…許してくれる…よね?
ふふ、でも私が素直な態度でお礼を言ったらびっくりするだろうな。
自分がどんなに酷い態度だったか分かっていたけど、あの義姉ならきっと今の私を喜んでくれるはずだと思っていた。
優しい義姉はまずは驚いてから『マリー成長したのね』と微笑んでくれると思うと嬉しくて自然と頬が緩んでしまう。
義姉はもう大人なんだからそこまで心配する必要もない。きっとちょっとした夫婦喧嘩で出て行っただけだろうから、そのうち頭が冷えたら帰ってくるだろう。
こういう時は周りが必要以上に騒ぎ立てるほうがよくない、そっとしておいたほうが帰って来やすいはずだから。
まあ兄さんの気持ちは分かるけどね。
べた惚れの義姉さんに出て行かれたんだから落ち着いてなんかいられないよね…。
だから私はなかなか帰ってこない義姉を心配し始めたミールに『夫婦喧嘩は犬も食わないって言うでしょう、首を突っ込むのは良くないわ。ザイ兄さんに任せて放っておきましょう』と言って何もしなかった。
それが一番良い選択だと信じて…。
私とミールは結婚式の翌日には予定通りにミールの両親と同居生活を始めた。これはこの辺りでは当たり前のことなので嫌ではなかった。ただ義両親に気に入ってもらえるかだけは心配ではあった。
私は朝食作りを任されて貰えることになり張り切っていた。義姉から一通り料理を教わっていたので手際は悪くてもまずまずな料理を作ることができ、ミールや義両親から『マリーの料理は美味しい』と褒められ幸先の良い新婚生活となった。
ふふ、ロナ義姉さんに感謝だわ。
色々と教えてくれたお陰で上手くいっているもの。
実家では『口煩いな、干渉しないでっ』て反抗ばかりしていたけど、悪かったなぁ…。
今度会ったらちゃんとお礼を言おう!
私は実家を出て初めて義姉の存在に感謝した。
それまでは義姉は私から優しい兄を奪った邪魔者でしかなかった。
家の中では私だけの兄だったのに、義姉が嫁いできてからはそうではなくなった。
兄が私に割く時間は半分になり、今までは家族にだけ見せていた優しい顔も義姉にも向ける。…それは私だけのものだったのに。
両親が亡くなってから今まで二人だけで必死に頑張ってきたのに…、途中から入ってきたくせに義姉は私が大切にしてきたものをいとも簡単に壊した。
この人は家族なんかじゃないっ!
‥‥そう感じてしまった。
それに『やれその言葉使いは駄目だ』『使ったら片づけなさい』『少しは一緒に料理を作りましょう』と何かと口煩いのも嫌だった。だから私にばかり辛く当たる義姉に我が儘や文句ばかり言っていたのだ。
兄や周りからは『優しい義姉さんに文句ばかり言って迷惑を掛けるな、マリーの為にやってくれているのだから』って言われていたけれど『そんなの関係ない、義姉さんが勝手にやっているだけでしょう』と態度を改めることはしなかった。
義姉は優しい人だとは分かっていたけど、兄と二人で楽しそうに話している姿を見ると、その優しささえどこか点数稼ぎのように思えてしまった。
ふんっ、兄さんにいい顔がしたいのよね。
だから妹の私に無理して優しくしているんでしょう。
‥‥我ながら酷い義妹だったと思う。
でもその時は素直になれなかったのだ。
結婚して他家に嫁いだ今となっては義姉の有り難さを実感している。
あれは辛く当たっていたのではなく、私に足りていない事を身に付けさせようとしてくれたのだ。
母親がいないから教わっていなかったことを教えようと、義姉さんは必死になってくれたんだろう。
正しい言葉使いや礼儀や家事はどれも当たり前に必要なものだったと今は理解できる。
あの時は分からなかったけど…。
意地悪な義姉だと思って反抗してしまったけど…。
もし義姉さんがいなかったら、私は常識を身に着けずに嫁いで苦労していたことだろう。
きっと婚家での生活もこんなに上手くいってなかったかもしれない。
順調な同居生活を送っていると突然兄が婚家にやって来た。
兄の訪問ならいつでも大歓迎だが、今日の兄はいつもと様子が違う。髪はボサボサで無精髭まで生えていて顔色も悪い。
どうやらまだ義姉さんは帰って来てないようだ。夫婦喧嘩に口を出すつもりはなかったけれども、これでは兄さんがあまりに可哀想だ。
私は黙ったままの兄を椅子に座らせてお茶の用意をしながら、俯いている兄に向かって話し掛けた。
「ねえ兄さん、まだ義姉さんは帰って来てないみたいね。隣町の実家にいたんでしょう?
私が今度行ってみようか?
意地ばっかり張っていると兄さんに愛想を尽かされて離縁されちゃうよって言ってみるわ、そうしたらきっと慌てて戻ってくるわよ、ロナ義姉さん」
兄がこれ以上落ち込まないようにわざとお道化た口調で言ってみた。
兄は笑ってくれ『悪いなマリー、ロナを迎えに行ってくれ』と頼んでくると思った。
頼まれたらすぐにでもロナ義姉さんを迎えに行って、今までの態度を謝ってそれから『これまで有り難う』と伝えたかった。
照れてしまい上手く言えないかもしれないけれども、それでもちゃんと伝えたかった。
義姉との関係を一からやり直したかった。
優しいロナ義姉さんなら、今までのこと…許してくれる…よね?
ふふ、でも私が素直な態度でお礼を言ったらびっくりするだろうな。
自分がどんなに酷い態度だったか分かっていたけど、あの義姉ならきっと今の私を喜んでくれるはずだと思っていた。
優しい義姉はまずは驚いてから『マリー成長したのね』と微笑んでくれると思うと嬉しくて自然と頬が緩んでしまう。
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