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13.二人目と三人目の婚約者候補④
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その違和感は私の勘違いなどではない。
その証拠にトナだって頬をピクピクと引きつらせて口を噤んでいる。
そして私の頬も同じように引きつっていた。
違和感の正体は婚約者候補二人の行動にあった。
二人は片時も離れないし女性とダンスを踊ることさえもしない。未婚で年頃の男性にとって夜会は絶好の出会いの場であるはずなのに、彼らはそのチャンスを放棄している。
女性に奥手な男性がいるのも事実、もしかしたら彼らもそうなのかもしれないと最初は思った。
『うふふ、彼らの問題は異性に対してシャイなことなのね』と微笑ましく見ていたちょっと前に自分に『それは違う、そんな可愛らしいものじゃないから!!』と教えてあげたい。
彼らは異様に距離が近いうえにお互い限定で必要のないボディタッチが多いのだ。それに手つきもなんか艶めかしく、友人同士で会話の途中に肩を叩きあうとはどう見ても違う。
周囲の人は気づいていないけど私達は彼らをずっと見続けているから分かるというか分かってしまった。
臀部へのお触りは29回、そしてさりげ無さを装っての大切な部分へのお触りは8回もあった。
ちなみにここでの大切な部分とは心臓のことを指しているのではない。子作りで大活躍する下半身にある繊細な部分のことだ。
もしかしたら男性の間で流行っているのかと思ってトナに念のため確認もしてみた。
「ねえ、あれは男同士ではよくあることなのかしら…。
ほら犬が遊ぶとき甘噛みしてきたりするでしょう。その甘噛に相当するのが貴族男性にとってお触りなの?トナは夜会ではどれくらいの頻度でやっているのかしら、ちなみに力加減は決まっているの?」
もし貴族男性の流行ならば、淑女として最新の流行を把握していなかったのは恥となる。だからトナもやっている前提で質問をしてみた。
「一度だってやってねーよ!だから力加減とか頻度とか変な答えを俺に求めるな。
いいか、あれを普通だと思うな。
人の性癖に文句を付ける気はないが、あれが普通だと認識するのは問題だからな」
彼は全力で否定してきた。ここで彼が嘘を付くメリットはない、つまりあれは流行でなく特殊な状態ということだ。
…やっぱりそうだったか。
嫌な予感がした。
それももう凄く嫌な予感だ。
そしてそれは見事に的中してしまった。
ルー伯爵子息がなにやらゴーギャン子爵子息の耳元で囁くと二人は軽快な足取りで夜会の会場から出ていく。何を言っていたかまでは聞こえなかったけど、ここは追うしかない。
私とトナもさっさと気付かれないように自然を装って後をつけて行った。
二人が向かった先にあったものは休憩室だった。夜会では疲れた人や体調を崩した人の為に夜会の主催者はその為の部屋を用意しているのである。
だが彼らはどう見ても元気いっぱいなのに仲良く空いている休憩室に入っていった。
バッタン…。
扉が閉まる音と同時に猛ダッシュで部屋の前に走って行き、閉じられた扉に私は耳を張り付ける。
そんな私を見てトナは『やめておけ、行くぞ』と小声で囁いてくるが途中で放棄する訳にはいかない。状況を正しく把握しなければ正しい判断は出来ないからだ。
待つことわずか三分、中からはすぐさま18禁の喘ぎ声が二人分しっかりと聞こえてきた。
流石に私でもナニを行っているのかは想像がついた。
あらあら、これはまた激しいわね。
ベットが壊れたら大変だわ。
ギシギシと聞こえてくる音を耳にしてベットの無事を祈る。
まあ耳では事実の確認が取れた。
でも念には念をだ、もし聞き間違いだったら彼らに悪い?かもしれない。
『ほほほ、事実の誤認があったら大変だから目視でも確かめてみましょう!』と扉を開けよう取っ手に手を伸ばした私をトナが必死の形相で止めてきた。
そして羽交い締めにされ引きずられるようにしてその場から撤収することになった。
彼は私をバルコニーにある椅子に座らせると飲み物を取ってきてくれた。
「これ飲んでまずは落ち着け」
「有り難う、トナ」
渡された果実水を一口飲み、心が落ち着くのが自分でも分かった。どうやら私はだいぶ興奮していたようだ。
あの時冷静な判断で止めてくれたトナに心から感謝をする。
私だけならとりあえずと確認大事と扉を全開にして卑猥なものを見せられたうえに大騒ぎになっていたことだろう。
そんなものは見たくないもの。
…いや、ちょっと見ておけば良かったかしら?
今後の勉強になったかも、惜しいことをしたかしら。
うーん、どっちが正解だったかしら…。
私が眉を寄せ悩んでいるとトナが呆れた表情で『そこは悩むところじゃねえからな、見なくていいんだよ!』と言ってきた。
もう心の声は漏れ出ていないのに彼にはなんでもお見通しだった。なんか照れくさいけれども嬉しくて自然と笑顔になる。
「凄いわ、これって以心伝心よね」
「ああそうだな、俺達って凄いな」
私が笑って言うと彼も同じように笑いながら、私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴にそれでいて優しくに撫でてくる。
嫌じゃなかった。照れ隠しのような乱暴な動作も彼の優しさは隠せない。
ぼそっと『気にするな』といった囁くような声も私には聞こえていた。どうやら彼は私が落ち込んでいるかもと思って慰めてくれるようだ。
これからどうしようとは思っているけど全然落ち込んではいなかった。でもそれは言わないでおいた、彼の大きな手が私に触れてくれるのが嬉しかったから。
特殊性癖だった彼らに心のなかでそっと『お幸せに』とエールを送ってみる。
こうして二人目と三人目の婚約者候補の観察は強制終了となった。
その証拠にトナだって頬をピクピクと引きつらせて口を噤んでいる。
そして私の頬も同じように引きつっていた。
違和感の正体は婚約者候補二人の行動にあった。
二人は片時も離れないし女性とダンスを踊ることさえもしない。未婚で年頃の男性にとって夜会は絶好の出会いの場であるはずなのに、彼らはそのチャンスを放棄している。
女性に奥手な男性がいるのも事実、もしかしたら彼らもそうなのかもしれないと最初は思った。
『うふふ、彼らの問題は異性に対してシャイなことなのね』と微笑ましく見ていたちょっと前に自分に『それは違う、そんな可愛らしいものじゃないから!!』と教えてあげたい。
彼らは異様に距離が近いうえにお互い限定で必要のないボディタッチが多いのだ。それに手つきもなんか艶めかしく、友人同士で会話の途中に肩を叩きあうとはどう見ても違う。
周囲の人は気づいていないけど私達は彼らをずっと見続けているから分かるというか分かってしまった。
臀部へのお触りは29回、そしてさりげ無さを装っての大切な部分へのお触りは8回もあった。
ちなみにここでの大切な部分とは心臓のことを指しているのではない。子作りで大活躍する下半身にある繊細な部分のことだ。
もしかしたら男性の間で流行っているのかと思ってトナに念のため確認もしてみた。
「ねえ、あれは男同士ではよくあることなのかしら…。
ほら犬が遊ぶとき甘噛みしてきたりするでしょう。その甘噛に相当するのが貴族男性にとってお触りなの?トナは夜会ではどれくらいの頻度でやっているのかしら、ちなみに力加減は決まっているの?」
もし貴族男性の流行ならば、淑女として最新の流行を把握していなかったのは恥となる。だからトナもやっている前提で質問をしてみた。
「一度だってやってねーよ!だから力加減とか頻度とか変な答えを俺に求めるな。
いいか、あれを普通だと思うな。
人の性癖に文句を付ける気はないが、あれが普通だと認識するのは問題だからな」
彼は全力で否定してきた。ここで彼が嘘を付くメリットはない、つまりあれは流行でなく特殊な状態ということだ。
…やっぱりそうだったか。
嫌な予感がした。
それももう凄く嫌な予感だ。
そしてそれは見事に的中してしまった。
ルー伯爵子息がなにやらゴーギャン子爵子息の耳元で囁くと二人は軽快な足取りで夜会の会場から出ていく。何を言っていたかまでは聞こえなかったけど、ここは追うしかない。
私とトナもさっさと気付かれないように自然を装って後をつけて行った。
二人が向かった先にあったものは休憩室だった。夜会では疲れた人や体調を崩した人の為に夜会の主催者はその為の部屋を用意しているのである。
だが彼らはどう見ても元気いっぱいなのに仲良く空いている休憩室に入っていった。
バッタン…。
扉が閉まる音と同時に猛ダッシュで部屋の前に走って行き、閉じられた扉に私は耳を張り付ける。
そんな私を見てトナは『やめておけ、行くぞ』と小声で囁いてくるが途中で放棄する訳にはいかない。状況を正しく把握しなければ正しい判断は出来ないからだ。
待つことわずか三分、中からはすぐさま18禁の喘ぎ声が二人分しっかりと聞こえてきた。
流石に私でもナニを行っているのかは想像がついた。
あらあら、これはまた激しいわね。
ベットが壊れたら大変だわ。
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まあ耳では事実の確認が取れた。
でも念には念をだ、もし聞き間違いだったら彼らに悪い?かもしれない。
『ほほほ、事実の誤認があったら大変だから目視でも確かめてみましょう!』と扉を開けよう取っ手に手を伸ばした私をトナが必死の形相で止めてきた。
そして羽交い締めにされ引きずられるようにしてその場から撤収することになった。
彼は私をバルコニーにある椅子に座らせると飲み物を取ってきてくれた。
「これ飲んでまずは落ち着け」
「有り難う、トナ」
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あの時冷静な判断で止めてくれたトナに心から感謝をする。
私だけならとりあえずと確認大事と扉を全開にして卑猥なものを見せられたうえに大騒ぎになっていたことだろう。
そんなものは見たくないもの。
…いや、ちょっと見ておけば良かったかしら?
今後の勉強になったかも、惜しいことをしたかしら。
うーん、どっちが正解だったかしら…。
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「ああそうだな、俺達って凄いな」
私が笑って言うと彼も同じように笑いながら、私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴にそれでいて優しくに撫でてくる。
嫌じゃなかった。照れ隠しのような乱暴な動作も彼の優しさは隠せない。
ぼそっと『気にするな』といった囁くような声も私には聞こえていた。どうやら彼は私が落ち込んでいるかもと思って慰めてくれるようだ。
これからどうしようとは思っているけど全然落ち込んではいなかった。でもそれは言わないでおいた、彼の大きな手が私に触れてくれるのが嬉しかったから。
特殊性癖だった彼らに心のなかでそっと『お幸せに』とエールを送ってみる。
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