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1.婚約か修道院か…①
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田舎にある領地で悠々自適な隠居生活を送っているはずの祖父が昨夜遅くに王都のはずれにある屋敷に乗り込んできた。
両親や兄は『相変わらず元気だな』と苦笑いしていたけど、私は嫌な予感しかしなかった。
祖母を溺愛している愛妻家の祖父が単身で来るなんていつもの訳有りにに決まっている。
いつものことだけど…。
でもいつも以上に悪い予感がするのはなぜ?
深夜に到着した祖父とはまだ何も話していない、なので朝食を食べ終わった後に家族で団欒することになった。
侍女が淹れてくれた美味しいお茶を一口飲んでから、まずは父が口を開いた。
「父上、今回はどうしたんですか?
王都で有名な焼き菓子を買いに来たのですか、それとも本ですか?」
「お義父様、新しい恋愛小説は全て揃っていますし、有名なお菓子もいつでも手配出来る様にしていますわ」
父も母も祖父の対処法は万全のようだった。
愛妻家の祖父が俊敏に動くのは祖母絡みのことだけだ。
『あら、これ美味しそうね』
『この本面白そうだわ、素敵な恋愛であなたにトキメキをですって』
何気ない日常会話から祖母が欲しているものを察して、深夜に馬車を走らせ王都まで買い求めに来るのだ。
もちろん祖母は祖父におねだりしている気はない、あくまでも他愛もない会話の一部分なのだ。
それなのに妻命の祖父は勝手に暴走してしまう。
最初こそ私達家族は振り回されていたが、もう両親は完璧にいつ祖父の来襲があっても対応できるようにしてある。
祖母が好きそうな本は我が家の図書室に買い揃え、菓子店にも融通を利かせてもらえるように普段から心付けを渡している。
我が両親ながら偉いと感心しながらお茶を優雅に飲んでいると祖父が真剣な顔で話し始めた。
「実はなマリアが先日悲しそうな顔をしていたんだ。だから今すぐにひ孫の顔を見せてくれ!」
「「「………?!」」」
祖父の言っていることが理解できないのはきっと私だけではないはずだ。その証拠に私以外の三人もポカーンと口を開けている。
兄オスカーに至っては口の端から紅茶が流れ落ちているが、今はそれどころではないので誰も注意をすることはない。
「あ、あの…お義父様それはどういう意味でしょうか?」
誰もが聞きたいことを母が聞いてくれる。
すると神妙な顔つきで祖父の口からある出来事が語られた。
数日前に祖父母の友人が屋敷を訪れて最近生まれたひ孫の自慢話をしていたらしい。
『本当に可愛いのよ。子供や孫も可愛いけど、ひ孫はまた格別だわ』
『そうなの…いいわね。赤ちゃんって柔らかくて頬も薔薇色でまるで天使よね』
『ええ、そうね。でもひ孫は天使なんて当たり前の言葉では言い表せない崇高な存在なの。もう食べちゃいたいくらいよ、ふふふ』
『あらそうなの、天使の上となるともう神様かしらね~。赤ちゃんだから髪はないけど神様♪な~んてね。うふふ、私ったら上手いこと言うわね。
私も生きているうちにひ孫に会えたら嬉しいわ。
ねえ、あなたもそう思うでしょう?』
『…あ、ああ。そうだな』
友人とのやり取りを隣で聞いていた祖父は祖母の横顔から寂しさを敏感に感じ取り、ひ孫を求めて今現在に至っているということだ。
…違います、お祖父様。
それはただの勘違いです。
敏感に感じ取っているのではありません。
いつもの勝手な手な思い込みです…きっと。
「これで分かっただろう!早くひ孫を生んでくれ、そうしなければ…マリアの悲しみは続いてしまう」
悲壮感あふれる声で叫ぶ祖父と無言のままの私達。
いえいえ、ちっとも分かりませんから。
分かったことは…ご友人はひ孫を食べる一歩手前。
そして『ひ孫は髪のない神様』だってことぐらいですわ…。
どちらが正しく祖母を理解しているかなんて分かりきっている。
…絶対に私達だ。
どう考えても祖父は勝手に暴走している。
冗談のセンスはどうかと思うが…祖母は常識人だ。
ただ相手に合わせて会話のキャッチボールを楽しんでいたとしか思えない。
お祖父様…、冷静に考えてください。
それは友人同士の軽い会話ですから。
お祖母様は無理難題を可愛い孫に押し付けません!
…誰かさんと違って。
両親が必死になって宥めるが、こうなった祖父は止まらない。
普段は威厳があり家族思いの優しい人だけれども、祖母のことだといきなり残念な人になってしまう。
(おい…これはまずいぞ。エミリア、逃げよう)
(ええ、お兄様そうしましょう)
この危機の当事者である兄と私は小声で話しこっそりと部屋から出ていこうとしたが…見事に失敗した。
「オスカー、エミリア。どこに行く?
まだ話は終わっておらん」
祖父の有無を言わせぬ声音に私達の足はピタリと止まる。ギギッギ…という音が聞こえてきそうなぎこちない動作で後ろを振り返ると腕を組んで仁王立ちしている祖父と目が合った。
「二人とも優しい祖母の為に頑張ってくれるな…」
反論は許さないというオーラを漂わせる祖父を前にして兄と私は一歩も動けない。
まさに蛇に睨まれた蛙だった。
お、お祖父様…、威嚇はやめてください。
私は可愛い…ま、孫ですからね!
ほら思い出してください!
悲しいことに私の心の叫びは同じく隣で震えている兄にしか届かなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
久しぶりのコメディです。
笑って頂けたら幸いです( ꈍᴗꈍ)
ラブコメを書いていると笑っていただけているか…とても気になります(-_-;)
率直な感想を頂けると大変有り難いです。
お気に入り登録&感想&しおりを執筆の励みにしております♫
両親や兄は『相変わらず元気だな』と苦笑いしていたけど、私は嫌な予感しかしなかった。
祖母を溺愛している愛妻家の祖父が単身で来るなんていつもの訳有りにに決まっている。
いつものことだけど…。
でもいつも以上に悪い予感がするのはなぜ?
深夜に到着した祖父とはまだ何も話していない、なので朝食を食べ終わった後に家族で団欒することになった。
侍女が淹れてくれた美味しいお茶を一口飲んでから、まずは父が口を開いた。
「父上、今回はどうしたんですか?
王都で有名な焼き菓子を買いに来たのですか、それとも本ですか?」
「お義父様、新しい恋愛小説は全て揃っていますし、有名なお菓子もいつでも手配出来る様にしていますわ」
父も母も祖父の対処法は万全のようだった。
愛妻家の祖父が俊敏に動くのは祖母絡みのことだけだ。
『あら、これ美味しそうね』
『この本面白そうだわ、素敵な恋愛であなたにトキメキをですって』
何気ない日常会話から祖母が欲しているものを察して、深夜に馬車を走らせ王都まで買い求めに来るのだ。
もちろん祖母は祖父におねだりしている気はない、あくまでも他愛もない会話の一部分なのだ。
それなのに妻命の祖父は勝手に暴走してしまう。
最初こそ私達家族は振り回されていたが、もう両親は完璧にいつ祖父の来襲があっても対応できるようにしてある。
祖母が好きそうな本は我が家の図書室に買い揃え、菓子店にも融通を利かせてもらえるように普段から心付けを渡している。
我が両親ながら偉いと感心しながらお茶を優雅に飲んでいると祖父が真剣な顔で話し始めた。
「実はなマリアが先日悲しそうな顔をしていたんだ。だから今すぐにひ孫の顔を見せてくれ!」
「「「………?!」」」
祖父の言っていることが理解できないのはきっと私だけではないはずだ。その証拠に私以外の三人もポカーンと口を開けている。
兄オスカーに至っては口の端から紅茶が流れ落ちているが、今はそれどころではないので誰も注意をすることはない。
「あ、あの…お義父様それはどういう意味でしょうか?」
誰もが聞きたいことを母が聞いてくれる。
すると神妙な顔つきで祖父の口からある出来事が語られた。
数日前に祖父母の友人が屋敷を訪れて最近生まれたひ孫の自慢話をしていたらしい。
『本当に可愛いのよ。子供や孫も可愛いけど、ひ孫はまた格別だわ』
『そうなの…いいわね。赤ちゃんって柔らかくて頬も薔薇色でまるで天使よね』
『ええ、そうね。でもひ孫は天使なんて当たり前の言葉では言い表せない崇高な存在なの。もう食べちゃいたいくらいよ、ふふふ』
『あらそうなの、天使の上となるともう神様かしらね~。赤ちゃんだから髪はないけど神様♪な~んてね。うふふ、私ったら上手いこと言うわね。
私も生きているうちにひ孫に会えたら嬉しいわ。
ねえ、あなたもそう思うでしょう?』
『…あ、ああ。そうだな』
友人とのやり取りを隣で聞いていた祖父は祖母の横顔から寂しさを敏感に感じ取り、ひ孫を求めて今現在に至っているということだ。
…違います、お祖父様。
それはただの勘違いです。
敏感に感じ取っているのではありません。
いつもの勝手な手な思い込みです…きっと。
「これで分かっただろう!早くひ孫を生んでくれ、そうしなければ…マリアの悲しみは続いてしまう」
悲壮感あふれる声で叫ぶ祖父と無言のままの私達。
いえいえ、ちっとも分かりませんから。
分かったことは…ご友人はひ孫を食べる一歩手前。
そして『ひ孫は髪のない神様』だってことぐらいですわ…。
どちらが正しく祖母を理解しているかなんて分かりきっている。
…絶対に私達だ。
どう考えても祖父は勝手に暴走している。
冗談のセンスはどうかと思うが…祖母は常識人だ。
ただ相手に合わせて会話のキャッチボールを楽しんでいたとしか思えない。
お祖父様…、冷静に考えてください。
それは友人同士の軽い会話ですから。
お祖母様は無理難題を可愛い孫に押し付けません!
…誰かさんと違って。
両親が必死になって宥めるが、こうなった祖父は止まらない。
普段は威厳があり家族思いの優しい人だけれども、祖母のことだといきなり残念な人になってしまう。
(おい…これはまずいぞ。エミリア、逃げよう)
(ええ、お兄様そうしましょう)
この危機の当事者である兄と私は小声で話しこっそりと部屋から出ていこうとしたが…見事に失敗した。
「オスカー、エミリア。どこに行く?
まだ話は終わっておらん」
祖父の有無を言わせぬ声音に私達の足はピタリと止まる。ギギッギ…という音が聞こえてきそうなぎこちない動作で後ろを振り返ると腕を組んで仁王立ちしている祖父と目が合った。
「二人とも優しい祖母の為に頑張ってくれるな…」
反論は許さないというオーラを漂わせる祖父を前にして兄と私は一歩も動けない。
まさに蛇に睨まれた蛙だった。
お、お祖父様…、威嚇はやめてください。
私は可愛い…ま、孫ですからね!
ほら思い出してください!
悲しいことに私の心の叫びは同じく隣で震えている兄にしか届かなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
久しぶりのコメディです。
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