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番外編

夫婦というもの④

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「ウィルはいつもここで、お仕事しているのね」

興味深そうにあちこち眺めながら、レオノアは執務室に入った。人払いをするようオスカーに目で合図して扉を閉める。室内を見回すレオノアの背後から近づき、両肩に手を置いた。

「レオニー。今日は、」
「……綺麗な方ね」

来てくれてありがとう、と続けようとしたウィリアムは、一瞬言葉を失った。

「綺麗?」
「ええ。着飾っているわけでもないし、お化粧もしていないのに、顔立ちがとても整ってらして。騎士服の女性をこんなに近くで見たのは初めてだったけれど、とっても素敵だったわ」

ちら、と横目でウィリアムを見て、またすぐに逸らされる。

「髪も綺麗な長い金髪で………腰くらいまで、あるんじゃないかしら」

そこまで言われてようやく、レオノアの言葉がグレンダを指していると分かった。

「マッコーデルのこと?ああいうのが綺麗というの?」

レオノア以外の女の美醜など考えたこともない。現に、ついさっきまで顔を合わせていたはずのグレンダの細かな面立ちも、言われて思い出すのがやっとのことだ。髪の長さに至っては、短くなったとて気づけるかどうか。

「おいくつなのかしら」
「年?……確か私よりも一つか二つ、上だったような……」

顎先に手を当てて真剣に考える。父と将軍が話していた、公爵夫人の事故が起きた時、遺児の年齢は確か十歳と六歳。二十年前の事故だとしたら二十六か。

「そう……」
「レオニー。どうしてマッコーデルのことばかり言うの?そんなことに時間を割きたくないよ」

聡いオスカーのことだ。抜かりなく人払いした後、時間を見て仕事に戻るよう呼びに来るだろう。レオノアとゆっくりふれ合いたいが、状況がそれを許してくれそうになかった。

今日こそは叙任対象を決めてしまわなければ。それだけではない。副団長のゴドウィンから相談を持ちかけられている。遅い時間になっても構わないと言われたが、任せていた演習のことだろうか。色々と話したいことが溜まっているような顔だった。これも先延ばしにすることは出来ない。
今夜も帰れるのは日付が変わってからになるだろう。眠るレオノアを抱きしめて満たされる気持ちは嘘ではないが、せっかく二人でここにいるのに……。

「そんなこと、じゃないもの」

くるりとウィリアムに向き直ったレオノアは、不服そうに頬を膨らませた。……かわいい。眉を寄せた時にできるあの柔らかなくぼみにキスをして、両頬を手のひらでつつんで上向かせる。

「そんなこと、だよ」

長いまつ毛に縁どられたきらめく緑の瞳を見つめているうちに、果実のように艶やかな唇に吸い寄せられた。ああ……どんなにこうしたかったか。

「ん……これに比べたら何だって………『そんなこと』だろう?」

深く口づける。舌を差し込んで歯の裏をなめ、舌を追いかけて絡めあう。甘い唾液をすすりながら、頬に置いていた手を耳から首、そして肩へと滑らせた。右手を背中へまわし、左手でレオノアの手を握る。
しなる背を這う手で、ヒップを撫でて揉みたくてたまらない。薄く目を開けると、レオノアはうっとりと目を閉じている。時折「ぅん……」と可愛らしく声を漏らすから、つい両腕できつく抱きしめてしまう。

肉欲だけではない。レオノアの存在自体への飢えが、なおさら身体の接触を求めている。しかし、許される時間が僅かだと分かっていて、自分の欲望だけを優先させるほど身勝手にはなれなかった。
身体が変化する前にと腰を引いて口づけをほどき、ウィリアムは妻を来客用の椅子にかけさせた。

「レオニーの作ってくれたお菓子をいただこうかな」

部屋の隅にはオスカーの用意した給茶用のワゴンがあった。紅茶を手ずから淹れ、片手で二つの茶器を運んで隣の椅子に腰かける。

「すごい!これを作ってくれたの?」
「でも……美味しいかどうか、自信ないの……」

包みの中身は四角い焼き菓子だった。自信がない、との言葉のとおり、形は揃っているが端が欠けていたり、焼き色が強いものがあったりと色々だ。

「鉄板が熱くて、取り出すのが遅れて……それで少し焦げちゃった」
「火傷はしていない?危ないことはしちゃ駄目だよ」
「それは大丈夫。お義母さまも、とても気をつけてくださってるもの」

しゅんとした様子のレオノアの愛らしさときたら。抱きしめて全身を撫でまわし、その可愛らしさを、思いつく限りの言葉を尽くして伝えたい。
だが今そんなことをすれば、必死でこらえている欲望を止めることはできないだろう。つくづく、こんなに自分を夢中にさせる妻を恨めしく思った。

「ひとついただくね。……うん、美味い!焦げなんて全然気にならないよ。むしろ香ばしいくらいだ」
「ほんとう?よかった!」

たちまち明るい笑顔を見せてくれる。感想は本心だが、たとえ渡されたのが砂利だったとしても、この笑顔を見るためなら喜んで食べただろう。

ウィリアムはもう一つつまんで口に入れた。横ではレオノアがほっとした様子でお茶を飲んでいる。奥歯でかみ砕きながらまた手にした菓子を、今度はレオノアの口元に持っていった。

「……え?」
「レオニーも食べてみて。美味しいから」

サッと顔を赤らめて、それでもおずおずと小さな口を開く。ウィリアムは紅色の唇の中に菓子を入れ、ついでに濡れた粘膜を指先でなでた。

「……!」
「どう?美味しい?」

両手で口を押えながら首を縦に振る。一生懸命口を動かす姿が可愛らしくて、ついに我慢できなくなった。
隣に座る椅子の横から、背中に手をまわして上体を引き寄せ、顔を傾けながらキスをする。舌は入れない。優しく、しかし何度も触れ合わせ、角度を変えながら下唇を食んだ。
腰骨の辺りからゾクゾクと快感が駆け上る。このままでは襲い掛かってしまいそうだ。頭の片隅で理性が発した警告に、しぶしぶながら従った。

ちゅっ、と小さな音を立てて離れた唇を未練がましく見つめていると、ゆっくり目を開けたレオノアがほんの少し口を尖らせた。

「おしまい?」

僅かに目を見張ったウィリアムに、レオノアが追い打ちをかける。

「もう、終わりなの?」

グラリと理性が揺らぐ音がした。まったく君は……!早くなる鼓動をごまかすために深く息を吸った。落ち着け。仕事さえ終えればいくらでも……。

「これ以上すると、私が我慢できなくなってしまうからね」
「我慢?」
「ああ。こんな、誰が来るかも分からないようなところでは出来ないことを、君にしたくてたまらなくなる」

本当はもうなっているけれど。内心のつぶやきは口に出さない。
幸い、男の事情を示す箇所は上着に隠されている。レオノアを送り出す前までに鎮めなくては。ひそかに考えていると、唇をキュッと結んだレオノアが立ち上がった。

「レオニー?」

いぶかしく思って呼びながら、自分も立ち上がろうと椅子を後ろに引く。しかし、レオノアはその空いた隙間に入って向かい合うと、ウィリアムと視線を合わせることなく足元にしゃがみ込んだ。

「どうした?気分でも悪い?」

右手を差し出して立たせようとしたが、首を横に振って拒まれる。レオノアはウィリアムの足の間で膝をつき、太ももに両手を当ててからようやく顔を上げた。

「あの、わたし……ウィルの疲れを癒したいって、そう思っているの」
「うん?いつもありがとう。とても癒されたよ。すごく元気が出た。全部レオニーのおかげだ」
「ちがうの。私、わたし……」

頬を赤く染め、瞳を潤ませるレオノアの髪を撫でるウィリアムは、妻の言葉の意味を理解していなかった。その細い指がウィリアムのズボンのベルトを外し、前ボタンに手をかけるまで。

「っ、レオニー、一体何を……!」
「お願い、わたしに……させて」

レオノアの手首を掴んだが、混乱しすぎて抵抗できなかった。……いや、正直に言えば、期待のあまり抵抗しなかったのだ。あのレオノアが自分の足元に跪き、充血した性器を取り出そうとするなど、夢想すらしていなかったのだから。

瞬きも忘れて見つめるウィリアムの目の前で、レオノアは男を暴いていく。ぎこちない手つきでズボンの前ボタンを外し、シャツを引き抜いて固い雄に触れる。そのあまりの熱さに、怯えたように一瞬手を引いたものの、下唇をかんでまた手を差し入れた。

「……っ」

一体何が起きているのか、ウィリアムには全く分からなかった。視覚に思考が追いつかない。体温が急に上がり、額に汗がにじむ。胸苦しさを解消しようと上着のボタンを外した。
黒い騎士服の下から現れたシャツの裾が邪魔で、レオノアの手元が見えない。ほとんど無意識のうちにシャツのボタンまで外し、前をはだける。
鍛えた胸筋と割れた腹の先に、そそり立つ男の象徴。ビキビキと血管を浮き走らせ、先端はしとどに濡れている。そして、それを見上げるレオノアの小さな顔。口内に溜まった唾を飲み込んだ。

「レオニー……どうして……?」

かすれた声で囁くウィリアムに、抵抗する力はもう残っていなかった。視界に映る光景だけで達してしまいそうなほど興奮している。
熱に浮かされたように頭がぼんやりしている。この欲をどうにかして吐き出したい。何通りかあるその方法を考えていた時に、レオノアが両手で熱杭を少し押し下げ、首を伸ばして先端にキスをした。

「うぁっ……!」

思わず声を上げると、レオノアは慌てたように顔を離した。その唇が光っているのは、唾液ではなく先走りのせいだろう。

「いやだった?」

呼吸を荒げながら、何と答えるべきか考える。考えるが……頭が真っ白で何も思いつかない。結局、心に浮かんだままを口にした。

「いや、じゃない、けどっ……ああっ、ま、待ってくれ、そんな……!」

先端の傘の部分を口に含み、ちゅうっと吸われる。思考どころか呼吸までもが止まり、心臓が破裂しそうに激しく打った。見れば煽られると分かっているのに、いきり立つ性器を口にする妻から目を離せない。

美しく穢れのないレオノア。鮮やかなエメラルドグリーンの瞳は半ば閉じられ、頬は上気し色づいている。優しく思いやりのある言葉だけを紡ぐ愛らしい唇には今、グロテスクなモノが咥えられていた。幹を握る両手は、先走りと、口からこぼれた唾液でぬめり、しごくように上下している。

「だ、めだっレオノア、放せ……っ!」

強烈な射精感がこみ上げる。イきたい。だが口の中だけは絶対に駄目だ。あんなものをレオノアの口になど……。そう思えば思うほど体がはやる。
制止するためにレオノアへ伸ばした手は、その小さな頭を性器に押しつけて動きを促し、もはや口淫の助けにしかなっていなかった。

「は……ぁあっ、レオノアっ!!」

残った理性の欠片をかき集めて叫ぶ。すると、ようやく口が離れた。我慢の限界だった雄が脈打ち、先端からほんの少し精液が飛んで垂れる。奥歯を噛み、全身に腱が浮き上がるほど力を込めて、それ以上の吐精を死ぬ気で堪えた。

「…………全く、君は、何てことを……!」

どうにか口をきけるようになったとたん、荒く息をつきながら切れ切れになじった。正直なところ安堵が二割、残念さが八割といったところだ。一体どこでこんな知識を仕入れたのか。問いただしたい気持ちと、このまま押し倒し奪ってしまいたい思いがせめぎ合う。

「気持ちよくなかったの?」
「気持ちいいさ。気持ちよかったけれど……」
「だったら、もっと……これ、したいの……」

握ったままの手を上下に滑らせた。鋭く息を吸い、両手首を掴んでそれを止める。するとレオノアは、眉を寄せてあのかわいいくぼみを作ると、わずかに零れ幹を伝っていた精液を赤い舌ですくい上げ、ごくんと飲み込んだ。

理性が焼き切れる瞬間があったなら、それは今だった。極上の美味を口にしたかのように満足気なレオノアの腕を掴んで立たせる。驚いた顔をする妻に構わず、薄い布地で仕立てたドレスの上から両手で胸を強く揉み、指先で乳首をこすってつまみ上げた。

「はぁあああんっ!」
「悪い子だ。俺をしゃぶっただけで、ここを固くしていたの?」
「はぁ、んんっ、あん、や、ウィル、やんっ」
「コルセットもつけずにこんな薄い生地のドレスを着て……。駄目だと言っただろう。なぜ言うことを聞けないんだ」

つままれ、快感にしこった乳首は、ドレス越しでもはっきりと形がわかるほど突き出している。ウィリアムはレオノアのうなじから背中にかけて並ぶ小さなボタンを手さぐりで難なく外すと、豊かな胸を露出させた。

「んっ、ぁあん、ごめ、なさっ、あっ、ゃんっ、だって、」
「他の男に、固くなった乳首を見せたかった?……ねえ、レオノア、答えて」
「み、せないの、みせたくなっ、あ、あん、あん、だめ、だめぇっ」

きゅっ、きゅっとリズミカルに乳首をつまむ。時折きゅうと引っ張ってつまみ上げてひねり、離してはまたつまむことを繰り返した。
レオノアは立ったまま足をガクガクと震わせ、胸を前に突き出し左右に振る。それがまるで乳首への刺激を求めているように見えて、ウィリアムの嗜虐心をたまらなくそそった。

「これからどうしようか。レオノアは、いつだってここをいじられるとあそこがびしょびしょになっちゃうよね。このまま乳首だけをなぶってみる?ほら、こんな風に先端だけこすったり、キュッと引っ張ったり。根本から先までしごくみたいにしてみたら……ああ、イったか」

甲高い声を上げてくずおれてきた。久しぶりの快感に感じすぎて、まだ小刻みに震えている。ウィリアムはそれを両腕で抱きしめ、甘い匂いを漂わせる首筋を舌でなぞった。愛しいレオノア。かわいそうに。ここまで男を煽ればどうなるかを、こんなところで思い知らされるだなんて。

「こんなに簡単に、しかも乳首をいじられただけでイったの?」
「だ、ってぇ」
「イったから、もういい?そろそろ邸に帰る時間だろう?さあ、支度をして」
「………!いや、イヤっ!」
「いや?何が嫌なの?」
「だって、ウィルがまだ……」
「俺?俺はいいよ。放っておけばそのうち治まる。だからほら、早く」
「………………」
「レオノア?」
「ウィル……おねがい」
「うん?なに?」
「わたしに、ウィルを……ちょうだい」

さわ、と、レオノアの細い指が怒張を撫でる。そのささやかな刺激に感じて喉奥で唸ると、ウィリアムは低い声で命じた。

「下着を脱いで机の上に伏せろ。……ドレスの裾を持ち上げて、下半身を全部晒すんだ」
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