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第一章

司祭ルーカス・ハワード・ザカリー

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「プリシラ」

 呼び止められて振り向けば、従兄のルーカス・ハワード・ザカリーが立っていた。黒の祭服キャソックに身を包んだルーカスは、長身を感じさせない身軽さで歩み寄る。プリシラと同じダークブロンドと淡い青の瞳。血筋のよさを感じさせる貴族的な頬骨もよく似ていた。

「ルーカスお従兄様」
「もう皆帰ってしまったのか。子供たちの顔を見に来たんだが」

 彼は仕事の合間に学校を訪れては、子供たちの遊びにつきあってくれている。男子生徒のパワフルさに付き合える彼は人気者だ。一見冷たく見える端正な顔を見上げながら、プリシラは笑顔で応えた。

「雨が降りそうだから早く帰るように言ったの。お従兄様が来られるなら待っていたんだけれど。皆もきっと喜んだでしょうに」
「いや、子供たちが濡れてしまっては可哀想だ。私はまた今度、もう少し早い時間に顔を出すことにするよ」

 ルーカスは辺りを見回し、小さくため息をついた。

「話には聞いていたが、ベルリッツのこの……薄暗さと雨の多さだけはなかなか慣れないな。これさえなければ住みやすくていいところなんだが」
「ええ。皆さんとても親切で暮らしやすいわ。もしかしたら前任の先生のなのかもしれないけれど」

 比較対象があまりにも悪く、相対的に自分たちの評価が上がり待遇がよくなったのではないかとプリシラは冗談交じりに言う。ルーカスは形のよい眉を上げた。

「ハンナだな。去った者のことをあまり非難するものじゃないと言っておいたんだが」

 ハンナは二人の住む屋敷で身の回りのことをしてくれている家事使用人ハウス・メイドだ。生まれも育ちもベルリッツで顔が広く、仕事の合間に様々な噂話を披露していた。自分の軽口が使用人への叱責につながる可能性に気づき、プリシラは慌てて彼女を弁護する。

「去年の学習状況が残されていないものだから、私が頼んで教えてもらったの。だからハンナを叱ったりしないでね」
「分かっているよ。心配するな」

 宥めるように言って、ルーカスは僅かに声をひそめた。

「ここだけの話だが、前任の教師があまり熱心でなかったのは確かなようだ。労働者階級の子供が通う学校に赴任したことが我慢ならなかったんだろう。自習と称した職務放棄のみならず、生徒への侮辱的な発言についてもいくつか耳にしている」

 プリシラは眉根を寄せたが、それは前任者に対する非難というより、傷ついた子供たちの心を気遣ってのものだ。


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