AI小説家

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
303 / 308

「共作者」

しおりを挟む
「共作者」

夜の喫茶店で、編集者の佐々木が開いたノートパソコンの画面に、流麗な文章がずらりと並んでいた。カフェラテを一口飲んで目をこらし、もう一度読み直す。とてもよく書けている——まるで、人間の手で丁寧に紡がれたような文章だった。

隣には、今回の作品を持ち込んできた作家の若林が座っていた。だが、若林はペンを握る代わりに、いつも最新のガジェットを使いこなし、近ごろは「AIを活用した創作」に情熱を燃やしていた。彼がパソコンの向こうで不敵に笑う。

「どうです、佐々木さん。この小説、どこが人間の手によるもので、どこがAIによるものか、わかりますか?」

佐々木は数秒間、静かに視線を画面に戻した。文章の流れはスムーズで、登場人物の心情描写も繊細だ。疑いなく人が書いたと思えるが、それが錯覚なのかもしれない。最近のAIは、作家顔負けの描写力を持つ。けれど、若林の挑発に乗るように、編集者としての誇りがふつふつと湧き上がってくる。

「よし、読み解いてやるよ」と、佐々木は作品の冒頭から読み直し始めた。

物語は一人の女性が喪失感に襲われる場面から始まっていた。秋の夕暮れ、街路樹の隙間から差し込む夕陽が、彼女の心の傷を照らし出すように描かれている。情景描写も細やかで、読み手に情景が鮮やかに浮かんでくる。

「どうでしょう?」若林が肩越しに声をかけた。「この章は、ほとんどAIが書いたんですよ」

驚いた佐々木が顔を上げる。若林はAIを使って、大枠のプロットと設定を与え、感情的な場面に仕立てさせたのだという。事実、それがとても自然に仕上がっていることに、佐々木は戸惑いを隠せなかった。

「そうは言っても、ここは違う。ほら、この人物の内面の掘り下げ方、これはAIが捉えきれるレベルじゃない」

佐々木は作品の中ほどに目を止めた。喪失感に苦しむ主人公が、幼い頃に読んだ童話を思い出し、失ったものに涙を流すシーン。何気ない仕草や微妙な感情の移り変わりが、言葉の端々に滲んでいる。AIの洗練された技術でさえ、こうした繊細なニュアンスを見抜くのは難しいだろうと思った。

「でも、そこの部分もAIなんですよ」と若林はあっさり告げる。「AIに関わるチューニングをちょっとだけ工夫して、過去の作品を学習させたんです。すると、AIが思い出のようなものを反映させる文章を書けるようになって」

佐々木は、ハッとした。今、目の前にある文章は、若林とAIが二人三脚で作り上げたものであり、どこまでが人の手で、どこまでがAIのものであるか、もはや断定はできないのかもしれない。だが、その曖昧さこそが、若林が探し求めていた新しい創作の形だった。

「この作品が世に出るとき、読者はどう受け取るかな?」と佐々木がつぶやいた。「作者がAIを使ったと知れば、その価値が変わってくるのかもしれない。でも、作品そのものをどう感じるかは、読み手にゆだねられる」

若林は微笑みながら言った。「物語を楽しむ気持ちは、誰にも止められませんからね。作品の魂が伝われば、それでいい」

佐々木は小説の最後のページまで目を通し、ノートパソコンを静かに閉じた。人とAIがともに作り上げた新しい作品。それは、言葉に宿る情熱と創作の未来を考えさせる瞬間でもあった。

作品にこめられた温かみや悲しみ、それらがAIと人間の垣根を超えて、多くの人の心に響く日が来るだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

追放から始まる宇宙放浪生活

海生まれのネコ
ファンタジー
とある宇宙の片隅に広がる、一つの宇宙文明。 神の楽園を出て野に下った始祖の龍神が生み出したバンハムーバという星には、始祖の龍神の力を受け継ぎ民を護る、新たな龍神たちの存在がある。 宇宙文明の二大勢力にまで成長したバンハムーバを支配して導く龍神は、生き神としてバンハムーバ人のみならず、他民族の者達からも頼られて崇められている。 その龍神の一人として覚醒し、宇宙の平和を守る為に命を賭けることを誓ったエリック・ネリスは、運命のいたずらにより、大きな騒乱に巻き込まれていく。 ※前作、蛇と龍のロンドの直接的な続編です。 前作を読んでいなければ、分かりずらい部分が沢山出てくると思います。 良ければ、そちらを先にお読みください。 でないと、ネタバレになっちゃいますw

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話

赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。 「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」 そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

処理中です...