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春秋花壇

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消えた証拠

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消えた証拠

探偵の神崎は、静かにコーヒーをすすりながら、その日の依頼について考えていた。彼の元に届いたのは、ある一通の奇妙な手紙だった。「証拠が消えた。今夜、彼女が殺される。」それだけが書かれた、差出人不明の手紙。住所もなく、電話番号もない。神崎はその手紙を見つめ、何か異様な不安感を抱いていた。

その夜、神崎は書かれていた場所、郊外にある古びた一軒家に向かった。家の周りには暗闇が広がり、遠くに見える街灯がかすかに光を放っている。家のドアをノックすると、中から小柄な女性が現れた。彼女は緊張した表情で、神崎を中に招き入れた。

「あなたが神崎さんですか?」と、彼女は震える声で尋ねた。

「ええ、あなたが依頼者ですか?」と神崎が尋ね返すと、彼女は首を横に振った。

「いいえ、私はこの家の住人の村上奈緒です。でも、確かにこの手紙を受け取って…困っていたんです。私に何か関係があるのかもしれないと思って。」

神崎は彼女を観察しながら、状況を整理した。この家で何かが起こる予感が強まっていた。

「何か心当たりは?」神崎は直接的に質問した。

村上は一瞬言葉に詰まったが、やがてゆっくり話し始めた。

「実は、数日前から何者かに尾行されている気がしていました。でも、証拠が何もないので、誰にも話せなくて…。その手紙が来てから、どうしても不安で。」

神崎はさらに家の中を見渡した。古い家具や静けさが、不気味さを増幅させている。彼は手紙に書かれていた「証拠が消えた」という言葉が気になっていた。証拠が消えたとはどういう意味なのか?そして「彼女が殺される」という脅迫的な文面の意味とは?

「奈緒さん、家の中を見せてもらってもいいですか?」と神崎は丁寧に尋ねた。

彼女は少し戸惑いながらも了承し、家の各部屋を案内した。古びたキッチン、埃をかぶったリビング、そして二階の寝室。何も異常は見当たらなかった。しかし、神崎の経験から、こうした静けさこそが危険を孕んでいることが多いと知っていた。

そのとき、突然、窓の外から物音が聞こえた。何かが家の周りを歩いている気配がする。神崎はすぐに窓の外を確認しようと近づいた。しかし、暗闇の中に何かが動いているのは見えるものの、その正体はつかめなかった。

「誰かがここにいる可能性があります。すぐに警察に連絡を…」神崎が言いかけたその瞬間、家の電気が突然消えた。村上奈緒の悲鳴が響く。

「奈緒さん、大丈夫ですか?」神崎は急いで彼女のもとに駆け寄った。

「誰か…家の中に入ってきた気がします。」彼女は震えながら答えた。

神崎は冷静に状況を把握し、懐中電灯を取り出して辺りを照らした。しかし、そこには誰もいなかった。ただ、不安だけが漂っている。

そのとき、彼はふと気づいた。手紙に書かれていた「証拠が消えた」という言葉。それは実際に「何かを隠そうとしている」意味ではなく、「すでに隠された証拠」を示していたのだ。つまり、何かがすでにここに存在し、見えなくなっているということだ。

「奈緒さん、過去にここで何か重大な事件があったことはありますか?」と神崎が尋ねた。

彼女はしばらく沈黙した後、重々しくうなずいた。

「実は…10年前、この家で私の姉が殺されたんです。その事件は未解決のままですが、私は警察に疑われたこともありました。でも、証拠不十分で捜査は打ち切られて…。」

「その事件の証拠が、実はここにまだ残っている可能性がありますね。」神崎はそう言うと、再び家の中を注意深く見渡した。彼は、犯人がその証拠を取り戻そうとしているのではないかと推測した。

「誰かが、その事件に関わっている人物がまだこの家を監視している。そして、証拠を消そうとしているんだ。」神崎は小声でつぶやきながら、村上奈緒を安全な場所へと誘導しようとした。

その瞬間、再び窓の外で大きな物音がし、窓ガラスが割れた。神崎は反射的に村上を守るように体を前に出した。誰かが家の中に侵入してきたのだ。

しかし、侵入者が何を探しているのか、神崎にはすでに手がかりがあった。彼は一つの決定的な証拠を見つけるため、家の奥深くへと進んでいった。

10年前に隠された証拠、それが今夜、明かされるべき真実だった。






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