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春秋花壇

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セントルシアの夕暮れ

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セントルシアの夕暮れ

六月の終わり、セントルシアのカストリーズ港は夕暮れの穏やかな光に包まれていた。エメラルドグリーンの海が、オレンジ色に染まる空と溶け合い、幻想的な風景を作り出していた。島の人々は一日の疲れを癒すために、ビーチに集まり、柔らかな波音を楽しんでいた。

そんな中、一人の若い女性が港の桟橋に立っていた。彼女の名前はマリア。セントルシアで生まれ育ったが、大学進学のために海外に出て以来、故郷に戻るのはこれが初めてだった。マリアは遠くの水平線を見つめながら、心の奥底で感じる懐かしさと共に、過去の記憶を呼び覚ましていた。

マリアの故郷は小さな漁村だった。彼女は幼い頃から海と共に育ち、父親の漁船に乗っては海の恵みを享受していた。彼女の父、エドワードは頑固な漁師であり、海のことなら何でも知っている頼れる存在だった。しかし、数年前の嵐でエドワードは海に消え、マリアはその後も父親のことを思い続けていた。

マリアが大学を卒業した後、彼女は自分のルーツを見つめ直すためにセントルシアに戻る決意をした。久しぶりの帰郷に、彼女の胸は高鳴っていた。桟橋で波音を聞きながら、彼女は父親との思い出を振り返った。

その時、背後から声が聞こえた。「マリア?」

振り向くと、そこには幼馴染のジェームズが立っていた。彼もまた、セントルシアで生まれ育ち、マリアの一番の友人だった。二人は幼い頃から常に一緒で、お互いの夢を語り合っていた。

「ジェームズ!」マリアは驚きと喜びの入り混じった声で応えた。

「久しぶりだね。大学はどうだった?」ジェームズは微笑みながら尋ねた。

「色々あったけど、無事に卒業できたよ。でもやっぱり、この島が一番落ち着くわ。」マリアはそう言って、再び海に目を向けた。

ジェームズはマリアの隣に立ち、一緒に海を眺めた。「君が戻ってきてくれて嬉しいよ。この島も君を待っていたんだ。」

二人はしばらくの間、言葉を交わさずに海を見つめていた。夕日が沈むに連れて、空は紫色に変わり、星が一つまた一つと輝き始めた。

「ジェームズ、私ね、この島で父の足跡を辿りたいと思ってるの。」マリアは静かに言った。

「父親のこと、忘れたことはなかったんだね。」

「うん。父がどんな思いで海に出ていたのか、私も知りたい。だから、この島で少しの間、暮らそうと思ってる。」

ジェームズはマリアの決意を聞いて頷いた。「それなら、僕も手伝うよ。父親のこと、色々と調べるのは一人じゃ大変だろうし。」

「ありがとう、ジェームズ。あなたがいてくれて本当に心強いわ。」

翌日、マリアとジェームズは村の古い図書館を訪れ、エドワードの記録を探し始めた。図書館には古い航海日誌や新聞記事が保管されており、二人はそれらを一つ一つ丁寧に調べた。エドワードの名前が記されたページを見つけるたびに、マリアの心は高鳴った。

ある日、ジェームズが一冊の古い日誌を手に取った。「マリア、これを見て。」

マリアがその日誌を開くと、そこにはエドワードが書き記した航海記録が綴られていた。彼の筆跡で綴られた言葉は、海への愛と家族への思いが溢れていた。

「父さん、こんなにたくさんのことを考えていたんだ…」マリアは涙を浮かべながらページをめくった。

日誌を読み進めるうちに、マリアは父親が最後に出航した日の記録にたどり着いた。そこには嵐の中での出来事が詳しく書かれており、エドワードの決意と勇気が伝わってきた。

「父は最後まで家族のことを思っていたのね。」マリアは日誌を抱きしめ、涙を流した。

ジェームズはそっとマリアの肩に手を置いた。「君のお父さんは、本当に素晴らしい人だったんだね。」

その夜、マリアとジェームズはエドワードが愛した海を見ながら、彼の記録を読み返した。星が輝く夜空の下、二人は静かに語り合い、マリアは父親の思いを胸に刻んだ。

「ジェームズ、私はこれからもこの島で生きていこうと思う。父の遺志を継いで、海と共に生きる。」

「君ならきっとできるよ。僕もずっとそばにいるから。」

マリアはジェームズの言葉に感謝し、彼の手を握り返した。二人は互いの温もりを感じながら、未来への希望を胸に抱いていた。

翌朝、マリアは父親の漁船に乗り込み、再び海に出る決意をした。ジェームズと共に船を操り、彼女は父親が見たであろう景色を感じながら、新しい航海を始めた。

エメラルドグリーンの海と青い空、セントルシアの豊かな自然がマリアの心を包み込み、彼女は新たな一歩を踏み出した。父親の遺志を継ぎ、自分自身の道を切り開いていく決意を胸に、マリアは未来への希望を見つめ続けた。






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