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愛着障害

愛着障害

わたしは母のぬくもりを知らない。幼い頃から、母は仕事ばかりしていた。朝早くに家を出て、夜遅くに帰ってくる母の姿は、わたしの記憶の中でぼんやりとしか残っていない。母と過ごす時間はほんのわずかで、わたしの心に大きな穴を開けたまま、大人になった今でもその穴は埋まらない。

「行かないで、死なないで、わたしを一人にしないでよー」

母がすい臓がんで入院してからの数か月、わたしは毎日のように病院に通った。病室のベッドで痩せ細った母を見るたびに、わたしの心は引き裂かれるような痛みを感じた。母はいつも強がっていたが、その眼差しには不安と恐怖が隠しきれないほど浮かんでいた。

ある日の夕方、母の病室のドアを開けると、いつもとは違う静けさが漂っていた。母の姿はまるで眠っているかのようだった。医師が静かに告げる「ご臨終です」の言葉が、わたしの頭の中で何度も反響した。

「行かないで、死なないで、わたしを一人にしないでよー」

母の亡骸にしがみつきながら、わたしは泣き叫んだ。がりがりにやせ細ったその体は、かつての母の面影をほとんど残していなかった。それでも、わたしにとっては唯一の母だった。何度も何度も心の中で「行かないで」と叫び続けたが、母はもう戻ってこなかった。

母の葬儀は淡々と進んだ。親戚や友人たちが集まり、形式的な言葉を交わす中、わたしは一人ぽつんと立ち尽くしていた。母の死に対する実感がまだ湧かないまま、時間だけが過ぎていく。泣き疲れたわたしは、いつしか感情のない人形のようになっていた。

葬儀が終わり、家に戻ると、母の使っていた物がそのまま残っているのが目に入った。母の部屋に入ると、仕事の書類やパソコンが無造作に置かれたままだった。その中には、母が生前使っていた日記があった。日記を手に取ると、母の手書きの文字がぎっしりと詰まっていた。

日記を読み進めるうちに、母の思いが少しずつ明らかになっていった。仕事に追われる日々の中で、わたしのことを心から案じていたこと、もっと一緒に過ごす時間が欲しかったこと、そして、わたしに対する愛情がどれほど深かったかが記されていた。その愛情の大きさに気づいたとき、わたしの心は涙で溢れた。

母の死から数年が経ち、わたしも社会人として忙しい日々を送っていた。しかし、心の奥底には、母との未完の愛が影を落としていた。わたしはカウンセリングを受け、愛着障害と診断された。母の愛情を受け取れなかったことで、他人との関係においても不安定さを抱えていた。

カウンセラーとのセッションを通じて、わたしは少しずつ自分自身を見つめ直すことができた。母が愛情を注ごうとしていたこと、その愛情を感じることができなかった自分の心の壁。理解することが、少しずつではあるが、わたしを癒していった。

ある日、母の日記の中から、一枚の手紙が見つかった。封筒には「わたしの大切な娘へ」と書かれていた。震える手で封を開けると、そこには母の優しい文字でこう綴られていた。

「わたしの愛する娘へ、あなたがこの手紙を読む頃、わたしはもうこの世にいないかもしれません。あなたに伝えたいことがあります。わたしはあなたを心から愛しています。仕事に追われ、あなたと過ごす時間が少なかったことを本当に後悔しています。あなたは強く、美しく、そして誰よりも大切な存在です。どうか、自分を大切にし、愛することを忘れないでください。あなたの幸せを心から願っています。」

涙が止まらなかった。母の愛は確かにそこにあった。わたしはその愛を感じ、受け入れることができた。母の愛は決して消えることなく、わたしの心の中で生き続ける。

わたしは今、母の遺志を胸に、新たな一歩を踏み出している。他人との関係も少しずつ改善し、愛情を感じることができるようになってきた。母がくれた最後の手紙が、わたしの心の支えとなっている。

母のぬくもりを知らずに育ったわたし。しかし、その愛はいつもわたしのそばにあった。今、わたしはその愛を感じながら生きている。母との絆は、永遠にわたしの中で生き続ける。