へたれゲーマーだということを証明します

へたれゲーマー、極限の選択

「へたれゲーマー、極限の選択」

みるくは、魔法の迷宮の入り口に立ちすくんでいた。彼が手にしているのは、手垢のついた古いゲームコントローラーと、いつも通りのスマホ。画面に表示されているのは、数々の冒険を通じて築き上げたキャラクターの姿だ。輝く鎧に包まれ、壮大なボスとの戦いに挑む姿はまるで伝説の英雄のようだった。しかし、現実のみるくは違った。学生時代から大して変わらないフリーター生活で、贅沢する余裕などない。ましてやゲームに課金するお金など、夢のまた夢だった。

「これ、本当にやるべきなのか？」みるくは自問する。彼の目の前にあるのは、コインボスの攻略情報がぎっしり詰まった攻略サイト。アクセサリーを入手するための複雑な数値がずらりと並んでいる。

「現物率14%で2つドロップ…合成にコインが2.65枚必要か。最悪の場合、90回合成で1億Gかかるかも…理論値を作るには、両方で1億G以上か…」

ため息をつきながら、みるくはその数字を頭の中で反芻する。金策を考えるだけでも気が滅入るほどだ。現実の時間とお金を投じることで、ようやく夢の装備が手に入るというのはゲームの現実。しかし、彼にはその余裕がなかった。

「課金するしかないのか…？」

心の中で葛藤するみるくの視界に、ふと「クローバーのカギ10個セット」の広告が映り込んだ。それは5,000円のリアルマネーで、ゲーム内の貴重なアイテムを引き出す鍵だった。使用期限が30日間とあるのも何とも不安な要素だった。

「5,000円か…。いや、俺にはそんな余裕はない。」

みるくは苦笑しながら、自分の財布を見つめた。フリーターの給料では、5,000円は決して安い額ではない。リアルマネーを使ってアイテムを入手できるゲームシステムが、最近のゲームでは当たり前のように存在していた。だが、みるくにはその選択肢がない。彼は課金という壁に立ち向かうべきか、それとも諦めて一歩引くべきか、答えを出せずにいた。

「持ち寄りすれば、もう少し楽になるかもしれないけど…。でも、タイムマスターみたいに、人気のあるボスじゃないと難しいだろうな。次のコインボスが出たら、バザーの価格も下がるっていうし…それまで待つしかないか。」

自分に言い聞かせるように、みるくは呟いた。しかし、その言葉にはどこか諦めの色が混じっていた。何度も攻略サイトを眺め、計算し直しては、現実に直面する。自分がどれほど労力を注いでも、リアルマネーを使わなければ、圧倒的な差が生まれてしまう。

「たかがゲーム、されどゲームか。」

みるくは自分の気持ちを整理しようとしたが、心の中のもやもやは消えない。課金に対しては抵抗があった。5000円という価格に加えて、使用期限があるのも大きなネックだった。どれだけ時間をかけても、消費されてしまうリアルマネーの重みが彼にはあまりにも大きかった。

数日後、みるくは再びゲームにログインした。コインボスの周回をして、少しでもゴールドを稼ごうと決めていた。少しでも装備を手に入れるためには、自分でできることをやるしかなかったのだ。

「よし、今日は地道に頑張ろう。」

そう決意して、みるくは一人黙々と迷宮を探索した。周りには大勢のプレイヤーが同じようにボス戦を繰り返していた。だが、彼らの多くはクローバーのカギを持っているプレイヤーたちだった。宝箱が現れ、彼らが中身を取り出す様子を見て、みるくは一瞬ためらった。

「俺も…やっぱり課金すれば楽になるのかな。」

だが、その思いを振り切り、みるくは自分のペースで進むことを選んだ。コツコツと地道にゴールドを稼ぎ、少しでも目標に近づけるようにと。

その夜、みるくは画面を見つめながら、ふと考えた。ゲームの中で求めるもの、それは確かに強力な装備やレアアイテムかもしれない。しかし、彼が本当に楽しんでいるのは、そのプロセスそのものだったのだ。

「結局、ゲームってそういうものなんだろうな。」

彼は微笑んだ。時間がかかっても、自分の手で得た成果は何物にも代えがたい。それがリアルマネーを使わず、ひたむきに頑張った証だったからだ。

「よし、これからも自分のペースで楽しんでいこう。」

みるくはそう決意し、コントローラーを握り直した。