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結晶の価格

結晶の価格

みるくは、長らく楽しんでいたオンラインゲームのログイン画面を眺めていた。以前は何時間も画面に張り付いて、武器を磨き、ダンジョンを駆け巡り、仲間とともにモンスターを倒す日々が当たり前だった。しかし、今日ログインしても、胸の中に浮かんでくるのはかつての興奮とは違う、どこか虚しい感情だった。

「汗と涙の結晶の価格が3000になったって、もうやる気が起きないよ…」

みるくはそう呟き、ため息をついた。その「汗と涙の結晶」は、ゲーム内で非常に重要なアイテムだ。プレイヤーが装備を強化し、取引所で他のプレイヤーと交換することで、莫大な利益を得ることができるとされていた。しかし、最近のアップデートで結晶の価格が3000にまで落ち込んだ。それが彼女のやる気を根こそぎ奪っていったのだ。

結晶を手に入れるためには、モンスターを倒して装備を「結晶化」する必要がある。みるくはその作業に多くの時間を費やしてきた。自分の持つ武器や防具は、決して最高級ではなかったが、モンスター相手には十分な性能を発揮していた。彼女は慎重に装備を集め、少しずつ強化してきた。だが、今やその装備を結晶化しても、得られる利益はほんのわずかだ。

「一か所の装備に10万ゴールドも元手がかかるのに、結晶が3000なら…手数料を引いたらほとんど利益なんて出ないよね。」

ゲーム内で結晶を売却する際には、取引所の手数料が課される。みるくは、その計算を頭の中で何度も繰り返していたが、どう考えても大きな黒字にはならなかった。

「せめて明確な計算ツールでもあれば、損得をきっちり計算できるのに…」

そう思ったが、ゲーム内にそのような便利な機能があるわけではなかった。モンスターズ図鑑すら最近は更新されておらず、開発チームもこの状況を放置しているように思えた。かつては頻繁にアップデートが行われ、新しいコンテンツやイベントが追加されていたが、最近ではその勢いも失われている。

「みんな、このゲームに飽きちゃったのかな…」

みるくの友人リストも、以前はオンラインのプレイヤーで賑わっていたが、今ではほとんどの名前がグレーアウトしている。昔は、ログインすればすぐに仲間たちとダンジョン攻略やPvPに挑むことができた。しかし、今ではひとりで黙々と素材を集め、装備を結晶化しても、その作業の繰り返しに意味を感じられなくなっていた。

「もう、やめ時かな…」

そう思いながらも、みるくはまだゲームを完全にやめる決断はできずにいた。なぜなら、このゲームには数年間の思い出が詰まっていたからだ。新しい友人たちとの出会いや、難関クエストを仲間と協力してクリアした瞬間。それらは彼女の中で今も輝いていた。

だが、今の彼女にとって、その輝きはどこか色褪せていた。

ログアウトのボタンを押そうとした瞬間、みるくの画面にメッセージが届いた。それは、かつて一緒にプレイしていた仲間からだった。

「久しぶり！まだこのゲームやってるんだね。最近新しいゲームに移ったけど、良かったらそっちでも一緒に遊ばない？」

そのメッセージを見て、みるくは驚いた。しばらく音信不通だった仲間からの突然の誘いだった。彼女は一瞬迷ったが、すぐに返信を打ち始めた。

「お久しぶり！最近ちょっとこのゲームに飽きてきちゃってて…新しいゲーム、興味ある！どんな感じ？」

メッセージを送ると、すぐに返信が返ってきた。新しいゲームの魅力や、再び仲間と一緒に遊べることに興奮している様子が伝わってきた。みるくは、そのメッセージを読みながら少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。

「新しい世界か…それも悪くないかもね。」

彼女はそのまま、オンラインゲームを閉じ、パソコンをシャットダウンした。次のログインは、その新しいゲームの世界になるかもしれない。今はまだ見ぬその場所で、再び仲間とともに冒険を楽しめるだろうという期待が、みるくの胸に静かに芽生えた。

彼女は椅子から立ち上がり、窓の外を見た。長い間部屋にこもっていたせいか、外の空気がいつもより新鮮に感じた。新しい冒険が始まる予感とともに、みるくは外の世界に一歩踏み出す準備を始めていた。