へたれゲーマーだということを証明します

結晶市場の風

「結晶市場の風」

みるくは、今日もログイン画面の前で指を止めた。ため息が一つこぼれる。ゲームの中では、誰もが「汗と涙の結晶」を欲しがる。自分もその一人で、結晶を集めて市場で売ることで装備を整え、次なる冒険に備えるはずだった。

しかし、最近はその結晶の価格が思い通りにいかない。まるで先物取引でもしているかのようだ。日々の値動きを眺めながら、みるくは頭を悩ませていた。

「2024年9月16日、3,000Gか…」

彼女はその数字を見つめる。市場は不安定だ。ほんの数週間前には、結晶は3,200Gに届こうとしていたこともあった。それが今では3,000G、少しでも価格が上がればと願ってはいるが、なかなかその期待は裏切られる。

期待と不安の間で
「3100Gで売れればいいんだけど、3000じゃ本当にお話にならない…」

市場で結晶を売る際には、取引所の手数料も考慮しなければならない。利益を計算すると、3100Gであってもギリギリだ。それが3000Gを割ることが続けば、みるくの努力が水の泡になるように思えてならない。

「もう、やる気が出ないよ…」

その日は特に疲れていた。ログインしてゲームを進めるどころか、ゲームに入ることすら億劫になっていた。結晶の価格が下がり続けているというだけで、みるくの気分も重く沈んでいった。

「結局、頑張って集めても、これじゃ意味ないよね」

画面の前でつぶやいた言葉が虚しく響く。以前は友達と一緒に楽しんでいたこのゲームも、今は一人で悩み、苛立つことが増えた。装備を強化しようと決めたその時から、みるくの中で何かが変わってしまったのだ。

新たな風
そんな中、みるくの視界に一つのメッセージが飛び込んできた。

「ダンジョン行かない？」

久しぶりに友達のリナからの誘いだ。みるくは少し迷った。結晶の価格に気を取られてばかりいたが、リナとの冒険はいつも楽しかった。彼女と一緒にプレイしていた時期が、みるくにとってはゲームの一番の思い出だった。

「たまには、気分転換しないとね」

みるくは少し微笑んで、ログインボタンを押した。久しぶりの冒険が始まる。それが装備や結晶の価格と無関係であることに、みるくは気づいていた。

冒険の再開
ゲームの世界に入ると、リナがすでに待っていた。彼女はみるくを見て元気よく手を振った。

「やっと来たね！今日もがっつり稼ごう！」

みるくは少し苦笑いを浮かべながらも、リナの明るさに引っ張られるようにダンジョンに向かう。冒険そのものは久しぶりだ。リナと共に敵を倒し、アイテムを集め、ダンジョンの奥深くへと進んでいく。ゲームに夢中になるうちに、みるくは忘れていた楽しさを思い出していた。

「やっぱり、装備や結晶ばかり気にしてちゃダメだな…」

リナとの会話の中で、ふとそんな思いがよぎる。結晶の価格が上がるか下がるかは、自分にはどうにもできないことだ。それよりも、自分がどう楽しむかが大切だと、みるくは感じた。

ダンジョンを無事にクリアすると、リナが笑顔で言った。

「また明日も一緒に行こうよ！」

「うん、またね」

みるくはその言葉に軽く頷いた。ゲームの中でも外でも、何かを楽しむためにはバランスが必要だ。汗と涙の結晶が3,200Gになることは、もしかしたら今後もないかもしれない。それでも、みるくは再びゲームを楽しむための新しい目標を見つけた。

それは、友達と共に冒険すること。価格や利益に左右されない、本来の楽しみを取り戻すことだった。

結晶の価格は明日も変わるかもしれない。それでも、みるくは気にしすぎないことを心に決めた。

「先物取引みたいに振り回されるのは、もう終わりにしよう」

そう思いながら、みるくはログアウトボタンを押した。