へたれゲーマーだということを証明します

盗賊みるくの夜

「盗賊みるくの夜」

「盗賊みるく、レベル132に到達！」モニター画面に浮かび上がる鮮やかな文字に、みるくは満足げに微笑んだ。手元のコントローラーを握りしめたまま、彼女は深く息を吸い込む。狭い部屋には、熱気とゲーム機のファンの音だけが充満している。椅子に座ったまま何時間も動かない姿勢は、彼女の疲れた体に負担をかけていたが、その疲れはレベルアップの達成感によって相殺されていた。

「きようさ1015かぁ、やっぱり盗賊は楽しいなぁ。」みるくは、キャラクターのステータス画面を見つめながらつぶやいた。彼女の操作する盗賊キャラクターは、レベルアップごとに強くなり、俊敏さと器用さが増していく。それがまた、彼女のやる気を引き出す原動力となっていた。

この日、みるくは食事も忘れてゲームに没頭していた。現実の世界では、簡素なアパートの一室で一人暮らしをしている。会社員として働いてはいるものの、同じような日々が続き、何のために生きているのか分からなくなる時もある。しかし、ゲームの中では彼女は誰よりも自由だった。無限の可能性が広がり、すべてが彼女の手の中にあった。

「今日の収穫は…たそがれごけ4個、よごれたほうたい13個かぁ。」みるくは盗んだアイテムのリストを確認し、少し残念そうに眉をひそめた。これらのアイテムは決して高価なものではなく、市場での価値もそれほど高くない。しかし、盗む行為そのものが楽しくて、彼女にとってはアイテムの価値など二の次だった。

「お金にはならないけど、まぁ、いいか。盗み金策のついでにレベル上げもできるしね。」みるくは自分を納得させるようにうなずいた。盗賊という職業は、ただ強くなるだけでなく、隠れた財宝を見つけ出し、素早くそれを手に入れるスリルが魅力だった。モンスターを倒して経験値を稼ぐだけでは得られない、盗みの魅力。それが彼女を引きつけてやまなかった。

その日も夜遅くまでみるくはゲームを続けていた。無心でコントローラーを操作し、次々とアイテムを盗んでいく。盗賊としてのスキルが上がるたびに、みるくは心の中で小さな歓声を上げていた。現実では叶わない冒険が、画面の中で次々と展開される。会社では同僚との会話もほとんどなく、淡々とデスクワークをこなすだけの毎日。誰かに認められることもなく、ただひたすらに業務をこなすだけの生活。けれど、ここでは違う。彼女は自分の力で何かを成し遂げ、次のステップへと進んでいる。

「作業ゲームに感じられて、レベル上げが億劫になるときにはこれが一番だよね。」みるくは一人ごちた。効率を重視して早く強くなりたい人には向かないかもしれないが、彼女にとってはこれが最高の楽しみ方だった。気ままに盗みを働き、手に入れたアイテムを売ることもせず、ただ自分の成長を楽しむ。それだけで十分だった。

「さて、次は何を盗もうかな…。」みるくは画面を見つめながら思案する。新しいエリアには、これまでとは違う強敵が待ち受けている。それでも、彼女の盗賊はきようさ1015という高ステータスを持ち、相手の裏をかいてアイテムを盗み取るスキルを備えているのだ。これからの冒険が、みるくにとってどれほどの刺激と楽しみをもたらすのか、彼女自身にもまだ分からない。

翌朝、みるくはそのまま眠りにつくこともなく、仕事へ向かった。目の下にクマを作り、ぼんやりとした表情で通勤電車に揺られる。周りの人々はそれぞれのスマートフォンに目を落とし、誰も彼女に興味を示さない。それでも、みるくの心は盗賊としての興奮に満ちていた。

オフィスに着くと、みるくはパソコンの電源を入れ、また淡々と仕事を始める。誰も彼女のゲームの世界を知らず、彼女もまたその話題を口にすることはない。ただ、一日の業務が終わる頃には、みるくはまたあの冒険の世界に戻れることを楽しみにしていた。

「現実もゲームも、どっちもそんなに変わらないかもな。」みるくはひとりごち、誰に聞かせるでもなく自分自身を励ますように呟いた。現実の世界では認められなくても、ゲームの中では彼女は英雄だった。レベル132の盗賊みるくは、今日も新しいアイテムを求めて、終わりのない夜の中へと歩みを進めていく。

そして、再びカフェに戻ってきた彼女は、スマートフォンを手に取り、また盗賊みるくの世界へと飛び込むのだ。いつ終わるとも知れないその冒険に、みるくは今日も全力で挑んでいた。画面の中の盗賊は、いつだって彼女にとって最高の友であり、現実を忘れさせてくれる唯一の存在だった。