へたれゲーマーだということを証明します

ポリコレ戦術

「ポリコレ戦術」

みるくは久しぶりにログインできたものの、かつてのような情熱は失われていた。長い間、ゲームから遠ざかっていたせいで、仲間たちとの距離が広がっているように感じていたのだ。かつては一日中レベル上げに没頭していたが、今はそんな気力もなかった。彼女は盗賊のキャラクターで、レベル130から131に1レベルだけ上げると、ログアウトするかどうか迷い始めた。

「まあ、金策くらいならできるかな」

そう呟きながら、みるくは盗賊のスキルを駆使して、低レベルのモンスターを狩り始めた。簡単に倒せる敵を相手にするのは、気分転換にはちょうど良い。だが、それでもなんだか虚しさが拭えない。かつての仲間たちとの熱い日々が懐かしく思い出される。

そんな時、みるくのフレンドリストがピコッと光った。表示されたのは、ギルドのチャットルームでの雑談の通知だ。

「今度のイベントで敵国をどうやって攻略するか、みんなで話してるんだ」

興味を引かれたみるくは、チャットルームを開いた。すると、画面には懐かしい面々のアバターたちが集まり、賑やかに作戦会議をしていた。今はログインしていないはずの彼女の名前がチャットに流れていく。

「みるく、久しぶりだね！やっと戻ってきたのか」

「次のイベント、みるくの助けが必要だよ！」

みんなの温かい歓迎に、みるくは少しだけ心が和らいだ。懐かしい仲間たちとのやり取りが、彼女の心に小さな火を灯した。

「最近ログインできてなかったけど、ちょっと見に来ただけだよ」

みるくがそう返すと、仲間たちは一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに笑顔のエモートで返してきた。

「みるくがいなくても大丈夫さ！でも、今ちょうど面白い話してたんだ」

そう言って、チャットのリーダー格であるアルトが話を振ってきた。彼はギルドの戦略を練るのが得意で、いつも仲間たちの先頭に立っていた。

「どんな話？」

みるくが尋ねると、アルトは楽しそうに説明を始めた。

「今度のイベントでは、敵国を弱体化させるために、いわゆる『ポリコレ』を使ってみようって話さ」

「ポリコレ？」

みるくは首をかしげた。ゲームの中での「ポリコレ」が何を意味するのか、すぐには理解できなかったからだ。

「そう、例えば敵国の中で差別や不平等が存在するように見せかけるんだ。そうすると、向こうは士気が下がったり、内部で争いが起きたりするんだよ」

アルトの説明に、みるくは目を見開いた。リアルでも議論を呼ぶポリティカル・コレクトネスを、ゲーム内で戦略として活用するとは。みるくの頭の中には、壮大な作戦が描かれていく。

「それ、面白いね」

みるくがそう言うと、他のメンバーたちもチャットで賛同の声を上げた。

「そうだろう？例えば、向こうの主要キャラが人種や性別で争うように仕向けるんだ。すると、あっちの指揮系統が乱れる」

アルトはさらに続けた。みるくはその作戦が、単なるゲームの範疇を超えて、何かもっと大きなものに感じられた。敵国の士気を下げるために、その国の文化や価値観にまで手を出すのは、まるで現実の政治戦略のようだった。

「こういうのって、実際に使えそうな気がするよね」

みるくはふと、そんな考えを口にした。ゲームの世界にいるはずが、現実との境界が曖昧になる瞬間だった。

「そうだね。でも、ゲームだからこそ楽しめるんだよ」

アルトが答えた。みるくはその言葉に少しホッとした。現実の問題は複雑だが、ゲームの中ならば、遊びとして楽しむことができる。みるくはそう自分に言い聞かせた。

雑談はさらに続き、みんなのアイデアが飛び交った。みるくもいつの間にか話に夢中になり、自分のアイデアを出し始めていた。久しぶりに仲間たちと過ごす時間が心地よく、彼女は再びゲームの世界に引き込まれていくのを感じた。

「じゃあ、今度のイベントで試してみようか！」

アルトの言葉に、みるくも頷いた。新しい戦術、仲間たちとの挑戦。みるくの中に、もう一度ゲームを楽しむ気持ちが芽生え始めていた。

「またみんなで楽しもうね」

その言葉がみるくの口から自然とこぼれた時、彼女は久しぶりに心からの笑顔を浮かべていた。仲間との時間が、彼女を再びゲームの世界に戻してくれたのだ。

みるくは、ログアウトボタンには手を伸ばさず、そのまま仲間たちとの冒険に再び踏み出した。新しい家で迎える至福のひとときのように、彼女は今、自分の居場所を取り戻していた。