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直葉(すぐは)は静かな部屋の中で、ふと自分の心に目を向ける瞬間があった。壁に掛けられた時計の針が静かに時を刻む音だけが響き渡り、窓から差し込む淡い光が彼の影を伸ばしていた。彼は深呼吸をし、ゆっくりと目を閉じる。見たくない、見つめたくない自分の内側へと、思い切って目を向けてみる。

子供の頃から、直葉は常に心の中に多くの感情を抱えていた。幻覚や幻聴、妄想が襲い、摂食障害に苦しんできた。彼の心はまるで嵐のようだった。感情の渦が止むことはなく、その中で漂流するしかない日々が続いていた。それでも、彼は生きていた。自分が壊れないように、心のどこかで必死に支えていた。

彼の中には、弱さがあった。誰よりも繊細で、傷つきやすい心。ちょっとした言葉や出来事が彼を深く傷つけ、時には立ち直れないほどの痛みを感じさせた。人の目が怖かった。他人に見透かされることが恐ろしくて、つい自分を守ろうとする。しかしその守り方が、時には粗暴さとなって表に出てしまうこともあった。衝動的に相手を傷つけたり、自分を傷つけたりしてしまうのだ。

直葉はその感情がどこから来るのか、何度も自問自答してきた。なぜ自分はこんなにも弱くて、粗暴で、薄弱なのか。どうして、こんなにも心が乱れるのか。そう問いかけるたびに、彼は自分が誰であるのかを見失っていった。孤独の中で、自分の居場所を探し続けるのは、どれほどつらいことだろう。

さらに、直葉の心には高慢さも潜んでいた。誰かに負けたくない、自分の方が優れていると思いたい。そんな思いが時折顔を出すのだ。それが自分自身へのプレッシャーとなり、また一方で他者との関係を難しくしてしまう。助けを求めることができず、自分だけで抱え込んでしまうことが多かった。

そして、もっと深いところには、残酷さがあった。自分自身にも、他人にも優しくできない瞬間が訪れることがあった。人の悲しみや苦しみに鈍感になり、無意識に冷たい態度を取ってしまうことがあった。誰もが抱えているような、小さな残酷さ。しかし、それが彼の心をどんどん重くしていった。

直葉はそんな自分の弱さや醜さを見つめることが、何よりも怖かった。自分を知ることが恐ろしくて、見ないふりをしていた。けれど、今日、彼は違った。自分の中にあるすべての感情を、ありのままに感じてみようと思ったのだ。それがどれだけ辛くても、どれだけ自分を傷つけるものでも。

深い呼吸をしながら、彼はゆっくりとその感情に触れていく。心の中の波が、少しずつ形を成していくのを感じた。そこにあったのは、確かに弱さであり、粗暴さであり、薄弱さであり、高慢さであり、残酷さだった。けれど、それだけではなかった。そこには、優しさも、温かさも、そして強さもあったのだ。

「感じてごらん?」という心の声が聞こえた。それは、自分自身に向けた問いかけであり、励ましだった。感じることを恐れないで。自分のすべてを受け入れてみるんだ。そうしたら、何かが変わるかもしれない。

直葉は、自分の心を見つめることができるようになった。自分のすべてを認めることができたとき、彼は少しだけ、自分を許すことができた気がした。弱さも、粗暴さも、薄弱さも、高慢さも、残酷さも、それも全部含めて自分なんだ。そんな自分を、少しずつでも好きになれるように、彼は今日も生きていくのだ。

そしてその日、直葉はふと、もう少し質を高められたらと願った。彼は好きな小説が書けることを奇跡だと思っていた。病気や障害に苦しみながらも、こうして自分の思いを言葉にできることが、彼の心の支えになっていた。そして、いつか誰かの心に残る作品が書けたなら、それだけでいいと微笑んだ。

自分の心の弱さや醜さを見つめるのは簡単ではない。けれど、それを感じることができるからこそ、直葉は前に進めるのだ。少しずつでも、自分を愛することができるように、彼は今日も心を見つめ続ける。










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