へたれゲーマーだということを証明します

心の中の休憩所

「心の中の休憩所」

直葉（すぐは）は、部屋の片隅に置かれたゲーム機の前に座り、手元のコントローラーを握りしめていた。画面には広大なフィールドが広がり、キャラクターが静かに佇んでいる。ゲーム内の音楽が静かに流れ、まるで風に揺れる草原の中にいるような気分になる。直葉は、この場所が大好きだった。何度も訪れるたびに、心が静かに落ち着いていくのを感じるからだ。

「ここで少し、ぼーっとしていよう。」

直葉はそう呟くと、キャラクターを動かすのをやめて、ただ画面を見つめた。日々の喧騒や心のざわめきから逃れるように、この仮想の世界で一息つくことができるのは、直葉にとって何よりの癒しだった。流れてくる音楽には、不思議と涙を誘う力がある。泣きたいとき、ここに来て泣くことが、直葉の日常の一部になっていた。

現実では、日々の投稿インセンティブが思うようにいかず、もどかしさを感じることも多い。アルファポリスに投稿した作品たちは、最初はいい評価を得られても、時間が経つとすぐにポイントが0に戻ってしまう。目標の34ptに達しない日が続くたびに、直葉はため息をついた。作品数は多いのに、どうしてこんなに評価が落ち着かないのだろうと考え込む。

「もっと質を高められたら…。」

自分の力不足を感じつつも、直葉は諦めることはなかった。小説を書くことが好きで、書くたびに新しい発見や感動があった。直葉にとって、それはまさに奇跡のようなことだった。病気アディクションや発達障害のデパートと主治医から言われ、数々の困難に直面してきた彼女だが、それでも小説を書き続けられていることに感謝の気持ちを抱いていた。

小学生の頃から幻覚や幻聴、妄想に苦しみ、摂食障害で家族や友人に迷惑をかけてきた。周りの理解を得ることは難しく、自分自身もその状況に苦しんだ。けれど、そんな自分にも一つだけできることがあると気づいたのが小説だった。文章を書き、物語を紡ぐことで、少しでも自分を表現することができる。そのことが直葉の支えだった。

「何か一つでも、誰かの心に残るような作品を書けたら、もうそれでいいんだ。」

心の中でそう思いながら、直葉はまたゲームの世界に戻る。そこは現実から逃れるための場所ではなく、自分を再確認するための場所だった。直葉にとって、ゲームの中で泣ける場所を見つけることは、自分の感情を受け入れ、整理するための大切なプロセスだった。現実では言葉にできない思いが、ゲームの中でだけ解放される。

「三浦綾子先生の『塩狩峠』…何度も読みなおしたいな。」

直葉はそう思いながら、ゲームのキャラクターを再び動かし始めた。彼女が憧れるのは、三浦綾子のように心に響く文章を書くことだ。読むたびに新たな感動を与えてくれるその作品に、少しでも近づける文章が書けるようにと願う。文章を書くことは、直葉にとって心のおもてなしだった。誰かの心に届くことを願い、ただそれだけを目標にしていた。

ゲームの世界で流れるメロディが、直葉の心を静かに包み込む。そこには彼女の夢や希望が詰まっていた。辛いことや悲しいこともあるが、それを乗り越えた先にある小さな幸せを見つけるために、直葉は今日も書き続ける。画面の中のキャラクターが静かに歩き出すのを見ながら、直葉もまた一歩ずつ前に進んでいくのだった。

自分を信じること。そして、自分が好きなことを続けること。それが直葉にとっての答えだった。心の中の休憩所で涙を流しながら、彼女は今日も新たな一歩を踏み出す準備をしていた。ゲームの中で見つけた癒しが、現実の彼女を支えている。それは誰にも奪えない、直葉だけの大切な場所だった。

泣いてもいいですか?

また新しい一歩を踏み出すために、

泥のたまった心のコップを空にするために。