へたれゲーマーだということを証明します

時間の無駄

「時間の無駄」

パソコンの画面には、壮大なオンラインゲームの世界が広がっていた。直葉（すぐは）はキャラクターを操作しながら次々とクエストをクリアしていく。気づけば、朝から10時間以上もプレイしていた。画面の向こう側には仲間がいて、彼との会話がチャット欄に流れ続ける。どこか充実感を感じつつも、その一方で心の中にぽっかりと空いた穴が埋まらない。

「今日も順調だな…でも、まだ終わらないか」直葉は自分に言い聞かせるように独り言を呟く。クエストの報酬で手に入れた新しい装備に目を輝かせる一方で、どこか虚しさが残っていた。ゲームの世界では何かを成し遂げるたびにすぐに結果が出るが、現実の自分は何も変わらない。このままでいいのかと、漠然とした不安が頭をもたげる。

背後から母親の声が聞こえる。「すぐは、ご飯できてるよ。そろそろゲームをやめて、お風呂に入りなさいね」と優しく声をかけられる。直葉は一瞬顔を上げて、「わかった、もう少ししたら」と返事をするが、キーボードを叩く手は止まらない。画面の中のキャラクターは、休むことなく冒険を続けていた。

彼の部屋には、ゲームの周辺機器が散乱している。ゲーミングチェアに沈み、ヘッドセットから流れる音楽と効果音に包まれながら、直葉はひたすらキーボードとマウスを操作する。現実の音は次第に遠のき、目の前に広がるのはゲームの世界だけ。そこでの戦いが唯一の現実のように感じられた。

直葉は心のどこかで「このままでいいのか？」と問いかける声がする。それを振り払うように、彼は集中してゲームに没頭し続ける。「どうせ、予習をしてもしなくても変わらないんじゃないか？」と、自分に言い聞かせて、逃げ道を探すように。そんな自分が嫌でたまらないが、楽しい時間が続けばそれでいいとも思ってしまう。

「楽しいことだけしていればいいんだよ」という、心の声が繰り返す。直葉はその声を聞き入れることで、自分を守り続けてきた。しかし、ふとした瞬間に感じる虚しさが、直葉の心を突き刺す。楽しさの陰に隠れた空虚感が、どこか後ろめたさを伴って心に重くのしかかる。

「うるさい、うるさーい！」と、直葉は頭を抱えて叫ぶ。自分の心の声が耳を塞いでも響いてくる。現実と向き合うのが怖い。努力を避け、楽な道を選びたい。けれど、その選択が自分をどんどん孤立させていることもわかっている。

直葉は一瞬、画面から目を離してぼんやりと部屋を見渡す。時間だけが過ぎ、同じような毎日を繰り返している。頭の片隅にある罪悪感が、彼の心を静かに締めつける。それでも、直葉にはゲームをやめる決断ができない。画面の向こうには仲間がいる。そこに自分の居場所があるように思えた。

「もう、やめよう」直葉は小さな声で呟く。しかし、その声はかすかで自分の耳にも届かない。手は自然にキーボードに戻り、ゲームは再び動き出す。直葉は、やめたいという気持ちを持ちながらも、その誘惑から抜け出せないでいた。

それでも、次の瞬間、直葉は画面を閉じる決意をした。パソコンの電源を切り、しんと静まり返った部屋の中で、直葉は自分を見つめる。シャワーの音が響く中で、彼は少しずつ現実を受け入れ始める。ゲームの中ではなく、現実の中で一歩を踏み出すことができるように、直葉はその日一歩を踏み出した。現実と向き合うことの恐怖と、そこにある希望の間で、直葉は静かに立ち上がったのだった。