へたれゲーマーだということを証明します

逃げ道

逃げ道

「やらせろー！」

みるくは部屋の中で叫んだ。声は無力に反響して、すぐに静寂に吸い込まれた。彼女はその声に自分の意志の弱さを感じ、顔をしかめた。禁断症状に似た、じわじわとした焦燥感が胸を締めつけていた。どうしてこんなにゲームがしたいのだろう？いや、違う。ただゲームができない現実から逃げたいだけだ。小説を書くのも好きだったはずなのに、なぜか筆が進まない。

彼女は目の前のモニターに映るオンラインゲームのログイン画面をじっと見つめた。セキュリティトークンの期限が切れてしまったせいで、冒険者広場にもログインできず、ゲームも再開できない状態だった。何度も何度もトークンを更新しようと試みたが、すべてが徒労に終わった。サポートセンターに問い合わせる気力さえも、今はもうなかった。

「やらせろー」また心の中で叫びたい衝動に駆られる。だが、声には出さなかった。ただ静かに、そして無力感に包まれたまま、彼女は椅子に深く沈み込んだ。

探索と失望
どうにかしてこのもどかしさを埋めたいと、みるくは他の無料のオンラインゲームを漁り始めた。しかし、以前に遊んだことのあるゲームは、ことごとくサービスを終了していたり、新規のキャラクター作成が制限されていたりしていた。ログインボーナスやイベント報酬がすでに配布済みで手遅れだったことも多い。彼女は次々とゲームをクリックしては、その度に落胆した。

「何でこうなるんだろう…」ため息をつきながら、みるくは自分が何に怒っているのかすら分からなくなってきた。結局、彼女はまた同じ画面を見つめている自分に気づき、情けなさで顔を覆った。結局、目の前にあるのは、繰り返し拒まれる現実と、打ち込むべきゲームの代わりに広がる虚無感だった。

「何か他に、何か…」彼女はそうつぶやきながら、無意識にスマホを手に取った。アプリのアイコンをひとつひとつ確認していくが、どれも今の気分を変えてくれるようなものは見つからない。インスタグラム、ツイッター、TikTok、どれも一瞬で見飽きてしまう。

「小説書けばいいじゃない…」ふと、頭の片隅で声がした。しかし、その声に対しても、みるくは無気力に首を振る。「今は違う…何か、もっとすぐに満たされるものが欲しいんだ…」

迷走
みるくは、長らく放置していたノートパソコンを開いた。昔、趣味で書いていた小説のファイルが並んでいる。それらをクリックして読み返してみるが、どうしても気分が乗らない。文字が目に入ってくるたびに、心が萎えていくようだった。

「私は今、小説じゃなくて…ただ、逃げたいだけなんだ」そう自覚するたびに、彼女は自分が無力に感じられた。ゲームをしているときの没頭感、他のことを考えずに没頭できる瞬間。それが今、どうしても手に入らないことが、みるくをますます苛立たせていた。

時間は無情にも流れ、彼女は自分がどこに向かっているのかすら分からなくなっていた。ノートパソコンの画面を閉じて、今度はテレビのリモコンに手を伸ばす。だが、どのチャンネルも彼女の興味を引かない。映画、バラエティ、ニュース、どれもが彼女の心の隙間を埋めるには足りなかった。

「どうして私はこんなにも、何かに依存してしまうんだろう？」みるくは自分に問いかける。依存先が一つ失われると、次の何かを必死に探し求めてしまう。その空虚な行動に、彼女はどこか自己嫌悪を覚えていた。

微かな光
そのとき、スマホが再び振動した。画面には、ゲーム仲間からのメッセージが届いていた。「みるく、今どうしてる？ログインできないって聞いたけど、またみんなで遊ぼうね。」たったそれだけの短いメッセージだったが、みるくの心に一筋の光が差し込んだ。

「やっぱり、戻りたいんだな…」みるくは思った。仲間たちと一緒に過ごす時間、それが何よりの楽しみであり、彼女の心の支えでもあったのだ。ゲームの世界だけが、彼女を現実から救い出してくれる唯一の避難所だった。

みるくは再びトークン更新の手続きを試みることにした。今度は何かが変わるかもしれないという、根拠のない希望が湧いてきた。どれほど手間がかかろうと、もう一度仲間たちと冒険に出たい。その気持ちだけが、彼女の前に広がる霧を少しずつ晴らしていった。

「絶対にまた戻るから…」彼女はそうつぶやき、画面を睨んだ。たとえ小説に逃げられなくても、ゲームの世界が彼女を待っている。そこに戻るための一歩を、みるくはゆっくりと踏み出した。

そして、ほんの少しずつだが、みるくの心の中の迷宮が開かれていく気がした。まだ出口は見えないが、その先に待つのはきっと、もう一度取り戻したいと願う冒険の始まりなのだろう。