へたれゲーマーだということを証明します

途方に暮れるみるく

途方に暮れるみるく

みるくはいつも通り、オンラインゲームのログイン画面を開いた。しかし、目の前に広がる文字の羅列に、いつものように息を詰めてしまう。彼女にとって、ゲームの世界は逃避の場でありながらも、しばしば越えられない壁となって立ちはだかるのだった。なぜなら、みるくは読字障害、いわゆるディスレクシアを抱えていたからだ。

画面にはクエストの説明がびっしりと書かれているが、その文字の並びはみるくにとって、まるで混乱したパズルのピースのようだった。簡単な漢字さえも、時には全く違う形に見えてしまうことがある。単語を一つずつ拾っても、全体の意味を繋げることができず、ゲームの進行も滞ってしまうのだ。

「今日は何をしようかな…」
みるくはキャラクターを操作しながら、次の行動を考えるが、クエスト内容が頭に入らないせいで足が止まってしまう。簡単なミッションならなんとかクリアできるが、少しでも複雑になると、途端に手が止まってしまうのだ。文字を読み解けないというストレスは、みるくの楽しみを少しずつ奪っていった。

友人たちとのパーティープレイも、みるくにとっては一苦労だ。チャット欄に次々と流れる指示や会話を理解するのに時間がかかりすぎて、気がつけばみんなが先に進んでいることも多い。みるくはそのたびに、置いていかれるような孤独感に苛まれた。パーティーの中での自分の存在が、ただのお荷物になってしまっているのではないかという不安が心を締めつける。

「ねえ、みるく、大丈夫？」
ゲーム内で声をかけてくれるのは、同じギルドに所属しているユウキだ。彼はみるくの読字障害のことを理解してくれている数少ない友人だった。

「うん、ちょっと待ってね…読んでるから…」
みるくは画面を見つめながら、なんとかチャットの内容を理解しようと努める。しかし、頭の中で言葉がバラバラに分解され、まとまりを持たないままになってしまう。そんな自分に対して、情けない気持ちが湧き上がる。

「焦らなくていいよ。必要なら手伝うからさ」
ユウキの言葉に、みるくは少しだけホッとする。それでも、自分でちゃんと読みこなせない悔しさが、心の中に居座り続けているのは変わらなかった。彼女はゲームを通じて、自分の無力さを痛感する日々が続いていた。

ディスレクシアという名前の見えない敵は、みるくの日常のあらゆるところに潜んでいた。学校の授業での読解問題、アルバイト先でのマニュアルの確認、そしてゲームの中でさえも。その敵は、みるくが目を向ける先々で、彼女の前に立ちはだかり、進む道を塞いでしまう。

「どうして、みんなみたいに読めないんだろう…」
みるくは、画面を見つめながら自分自身に問いかける。ディスレクシアであるという事実を受け入れることはできても、それをどう克服していけばいいのか、その方法がわからなかった。

ある日、みるくはゲーム内で新しいギルドメンバーと出会った。彼の名前はカズトといい、彼もまた、ディスレクシアを抱えていることがわかった。カズトは、みるくと同じく文字を読むのが苦手で、クエストの説明文を解読するのに苦労していた。

「俺も読めないんだよね、こういうの。でも、なんとか楽しみたいと思ってさ」
カズトは明るく笑いながら話してくれた。その姿に、みるくは少しだけ勇気をもらったような気がした。カズトはゲームを続けるために、独自の工夫をしていた。例えば、画面の文字を音声読み上げソフトで聞き取ったり、重要な部分だけをメモに書き出したりしていたのだ。

「自分に合った方法で、少しずつやっていけばいいんだよ」
カズトの言葉に、みるくは新たな視点を得た気がした。ディスレクシアだからといって、全てを諦める必要はない。むしろ、自分のペースで、自分のやり方で楽しむことができるのだと知った。

みるくは、その日から少しずつ、自分なりの方法を模索し始めた。ゲームの説明文をスクリーンショットにして、後でじっくり読んだり、友人に助けを求めることも恥ずかしがらずにできるようになった。時には、ユウキやカズトと一緒に、クエストの内容を音声チャットで話し合いながら進めていくこともあった。

「やっぱり、ゲームは楽しいね」
みるくは久しぶりに心からそう思えた。ディスレクシアを抱えているということは、確かに困難なことが多い。だが、仲間がいて、自分なりの工夫ができれば、ゲームの世界でも輝くことができるのだと、みるくは少しずつ実感していった。

ディスレクシアである自分を受け入れ、その中で何ができるかを考えること。みるくはその大切さを学びながら、今日もまたゲームの世界へと飛び込んでいく。壁は依然として高いが、その先にある楽しみを目指して、彼女はゆっくりと歩みを進めるのだった。