時の囚われ人

暴かれたモノリス

「暴かれたモノリス」

193191の施設から送信されたデータは、複数の研究者やジャーナリストの手に届き、施設の存在と、その内部で行われている非人道的な実験の一端が明るみに出た。情報が届いた初期の段階では、多くの人々がこの施設を信じようとはしなかった。政府の公式見解では「事実無根の陰謀論」と一蹴され、データを公開した研究者たちは「過激な思想に影響された」と批判された。

だが、時間が経つにつれて、この告発に根拠があると感じる者たちが徐々に増えていった。SNSやインターネットのフォーラム上で「モノリス計画」に関する議論が広がり、多くの人々が真偽を求めて声を上げ始めた。施設の目的が「究極の知性を作り出し、戦争のために利用すること」だと知った人々の反応は、怒りと不安、そして恐怖に満ちていた。

そのころ、告発者の一人であるジャーナリスト、エリカ・ターナーが調査を開始した。エリカは政府の機密に詳しい情報源を頼りに調査を進め、遂に193191施設の一部の存在証拠を突き止めることに成功した。これにより、施設の存在に懐疑的だったメディアや一般人も無視できない状況に変わっていった。

ある日、エリカは国際的な記者会見を開き、施設に関する詳細な報告を発表した。彼女の手には、施設内部の画像データ、囚人たちの記憶の断片を示すファイルがあった。その会見の様子は、全世界のメディアに生中継され、世界中の人々が息を呑んでその真実を見守っていた。

「この施設では、意識と記憶を強制的に操作し、戦争のための“知性兵器”を生み出そうとしています。囚人たちの記憶が無惨に切り取られ、人格さえも捨て駒のように扱われています。これは、人間の尊厳を踏みにじる行為であり、世界中の人々が知るべき真実です！」

エリカの言葉は、世論に爆発的な影響を及ぼした。人々の間には怒りが広がり、デモや抗議運動が始まった。「人権を守れ」「記憶を弄ぶな」「モノリス計画を停止せよ」と書かれたプラカードを掲げた群衆が街を埋め尽くし、政府への批判が世界規模で高まっていった。

国家の反応と圧力

政府は初め、「国家防衛のための研究は秘密保持が重要である」と声明を発表し、事態の収束を図ろうとした。しかし、国内外の批判は日増しに激しくなり、他国の政府もまた圧力をかけ始めた。ある国連の人権専門家は「193191の施設は、人道に対する罪であり、国際的に許容されるべきではない」と非難し、国際調査団による監視を求めた。

国際世論が過熱する中、各国の指導者はモノリス計画の停止を条件に経済制裁や外交圧力をかける動きを見せ始めた。これにより、ついに政府も施設の全面的な監査を受け入れることを余儀なくされ、施設の事実上の閉鎖に同意することとなった。

囚人たちの解放とその後

施設の閉鎖が決まると、囚人たちは解放されることとなった。しかし、記憶を操作された多くの囚人たちは、自分がどこから来たのか、家族や友人が誰だったのか、まったく覚えていなかった。彼らは自由になっても、失われた記憶が戻ることはなく、精神的な空白に苛まれていた。

施設から解放された元囚人たちは、やがて「記憶を失った人々の会」という支援団体を立ち上げた。彼らは世界中のメディアに登場し、自らの体験を語ることで再び施設の実態を暴露した。また、彼らの支援者やエリカをはじめとするジャーナリストたちが協力し、記憶回復のための治療や心理サポートが提供されるようになった。彼らの苦しみと再生の物語は、やがて「モノリス事件」として歴史に刻まれることとなった。

技術倫理の新たな時代

モノリス計画が明るみに出たことにより、科学技術の倫理についての議論が世界的に活発化した。各国の科学者や技術者、倫理学者が集い、今後の研究開発において人権を尊重するガイドラインが制定されるきっかけとなった。

特に、記憶操作や人格変容に関する研究には厳しい規制が設けられ、国際的なモラトリアム（研究停止措置）が発動された。モノリス計画は、あまりにも人間の尊厳を無視し、道徳を逸脱していたとして、各国で「人類の歴史上もっとも非道な科学実験」として非難された。記憶を操ることで戦争の道具にしようとした行為は、多くの人々にとって許しがたいものであり、今後二度と同じ過ちを繰り返さないよう誓われた。

エリカと元囚人たちの未来

施設の閉鎖後、エリカは解放された囚人たちと共に、彼らが失った人生を取り戻すための活動を続けた。ある日、解放された元囚人の一人がエリカにこう語った。

「私たちは記憶を失いましたが、それでも私たちには新しい人生があるはずです。あの場所での過去が消えないとしても、私たちはその傷跡を抱えながらも、未来を生きる力を持っています」

エリカはその言葉に深く頷いた。彼女自身もまた、彼らの生き様に感銘を受け、モノリス事件の再発防止のために活動を続ける決意を固めた。そして、彼女が報じた記事は「モノリスの闇と記憶を失った人々の光」として、後世に語り継がれるものとなった。

モノリス計画が暴露されたことにより、世界は新たな倫理観をもって科学技術を見つめ直すこととなった。そして、記憶を失った人々の苦しみは、技術の進歩が人間性を失わせないための戒めとなったのである。