季節の織り糸

春遠からじ

「春遠からじ」

2月の初め、寒い冬の日、私の心は春の訪れを待ち望んでいた。寒い風が吹き、足元には凍った雪が残り、冷たい空気が頬を刺す。けれど、空の向こうにうっすらと見える明るい光に、春が近づいていることを感じることができた。それはまるで、冬の深い闇に隠れた希望の光のようだった。

家の窓から見える景色は、まだ冬の景色そのものだった。近くの山々は雪に覆われ、静かな白い世界が広がっている。その中で、ふと目を引いたのは、庭に植えた梅の木の蕾がほんの少し膨らみ始めていたことだった。それを見た瞬間、心の中で「春遠からじ」と呟いた。冬の厳しさの中にも、確かに春は近づいている。私にはその確信があった。

その日、私は散歩に出かけた。冬の冷たい空気が体を包み込み、歩くたびに白い息が立ち上る。しかし、その冷たさが逆に清々しく感じられた。私は長い間、この寒い季節を過ごしながら、春を待ち続けていたのだ。冬の厳しさの中で、少しずつでも春が近づくことを実感する瞬間が、何よりも力強く感じられた。

道端には、枯れた草や木々が立ち尽くしていたが、それでもどこかで新しい命が芽吹こうとしていることを感じ取ることができた。その冷えた大地の下には、春に向けてすべての命が静かに準備をしているのだと、心の中で思った。

歩きながら、私はふと小さな公園に立ち寄った。そこには、長い間誰も手入れをしていないと思われる古びたベンチがあり、草木が生い茂っていた。その中に、一輪の黄色い花が咲いているのを見つけた。それは、まるで寒さに耐えてきた証のように感じられた。春の兆しがこんなにも小さな場所に訪れていることに、胸が熱くなった。

その花の横に立って、私はしばらくその景色を見つめていた。冬の寒さが身にしみる中で、少しずつ春に向けて変化が起きていることが、心に深く刻まれた。どんなに厳しい季節でも、確実に春はやってくる。それが、私の中で何度も繰り返される確信だった。

その後、私は家に帰り、庭に出て梅の木を見上げた。蕾はまだ硬いままだが、ほんのりと膨らんでいる。春が遠くに見え隠れしているようで、少しだけ寂しくもあり、でも確かに希望の光が差していることを感じた。その瞬間、私は自分がどんなに辛い時期を過ごしても、春が必ずやって来ることを信じている自分に気づいた。

春が近づくと同時に、私は過去の自分を振り返ることが多くなった。これまでの人生で、寒さに耐えながらどれだけ春を待ち望んだことか。心の中で何度も「春遠からじ」と願い続けてきたが、春はそれほど遠くなかった。毎年毎年、寒さの中でも春を感じる瞬間が必ず訪れていた。

今年もまた、寒い冬が過ぎ去ると、暖かな春がやってくる。私はその日が来ることを信じ、もう少しだけ耐えていこうと思う。春が遠くに感じられても、実はその一歩手前に近づいていることを知っているから、どんなに厳しい冬でも乗り越えることができる。

そして、私は再び空を見上げた。冬の空はどこまでも高く、澄み渡っている。その青さが、まるで春の訪れを待っているようだった。冬の寒さが続く中でも、確かに春は遠くない。そう思えるだけで、私は少しだけ心が軽くなった。

「春遠からじ」と心の中で繰り返しながら、私は静かに歩き続けた。春がやってくるその日まで、少しずつでも希望を胸に進んでいこうと思った。そして、春の光が私の元に届いたとき、その暖かさをしっかりと感じながら、新しい一歩を踏み出す準備をしようと思う。

この小説では、寒い冬の中で春を待ちながらも、少しずつ変化を感じ取り、希望を持ち続ける姿を描きました。春が遠く感じられても、その一歩手前に確かにあることを信じる力が生きる力となるというメッセージを込めています。


あなたにとって、春とはどんな季節ですか？
厳しい冬を乗り越えて、春を迎えた時にどんなことを感じますか？