季節の織り糸

春秋花壇

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雪解けの足音 1月24日

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雪解けの足音

北風が容赦なく吹き付ける一月下旬。暦は大寒を過ぎ、まさに水沢腹堅の頃。それでも、陽の光は少しずつ力強さを増し、日脚も確かに伸びてきていた。今日は珍しい冬日和。空は澄み渡り、遠くには雪を抱いた富士山がくっきりと聳え立っている。

小さな家の縁側では、老猫のミーが日向ぼっこをしていた。炬燵から出てきたばかりのミーの体はまだ温かい。目を細め、喉をゴロゴロと鳴らす姿は、平和そのものだ。

庭の片隅では、数輪の水仙が寒さに負けじと白い花を咲かせている。その凛とした姿は、冬の寒さの中で一際目を引く。水仙の傍には、臘梅の黄色い花も咲き始め、甘い香りを漂わせていた。

この家に一人で暮らす老人は、庭を眺めながら、ゆっくりと茶を啜っていた。老人の名は源蔵。かつて俳句を嗜んでいた彼は、この時期になると必ず庭に出て、一句詠むのが日課だった。

「水仙の 白きに映ゆる 富士の雪」

源蔵はそう呟いた。遠くに見える富士山の雪が、水仙の白さを際立たせている。それは、冬の厳しさと、春の兆しが同居する、この時期ならではの風景だった。

源蔵は、庭の隅にある小さな畑を見つめた。霜で覆われた土はまだ凍っている。けれど、よく見ると、土の中から小さな緑の芽が顔を出しているのが見える。それは、春の訪れを告げる、力強い生命の息吹だった。

その時、源蔵はふと、昔のことを思い出した。若い頃、友人と連れ立ってこの近くの山に登ったことがある。冬の山は厳しく、風は冷たく、雪は深かった。それでも、山頂から見下ろす景色は素晴らしく、遠くには雪を抱いた富士山が雄大に聳えていた。

山を下りる途中、源蔵たちは小さな沢を見つけた。沢の水は凍りつき、厚い氷に覆われていた。友人はその氷の上を歩き回り、楽しそうに笑っていた。

その時、友人がふと呟いた。「この氷、なんだか男の睾丸みたいだな。」

源蔵は思わず吹き出してしまった。友人の言葉は、俳句でいうところの「ふぐり落し」だった。冬の季語であり、男らしさや生命力を象徴する言葉だ。

その時のことを思い出し、源蔵は小さく笑った。友人はもういない。けれど、その時の記憶は、今も源蔵の心の中に鮮明に残っている。

源蔵は再び庭を見渡した。水仙、臘梅、富士山、そして小さな緑の芽。それらは全て、冬の終わりと春の訪れを告げる使者だった。

「春は、もうすぐそこまで来ているのかもしれないな…」

源蔵はそう呟いた。その声は、穏やかで、どこか希望に満ちていた。

その日の午後、源蔵の家に、孫娘の美咲が訪ねてきた。美咲は、源蔵に温かいお餅を持ってきてくれた。

「おじいちゃん、これ、お正月のお餅の残り。温めて食べてね。」

美咲はそう言って、源蔵に微笑みかけた。

「ああ、ありがとう。ちょうどお茶請けにいいな。」

源蔵はそう言って、お餅を受け取った。

美咲は、庭に咲いている水仙と臘梅を見つけた。

「おじいちゃん、お庭のお花、綺麗ね。」

美咲はそう言って、花に顔を近づけた。

「ああ、水仙と臘梅じゃ。冬の寒さの中で、こうして花を咲かせるんじゃから、大したもんじゃ。」

源蔵はそう言って、美咲に微笑みかけた。

その日の夕食後、源蔵は炬燵に入り、ミーを膝に乗せていた。ミーは気持ちよさそうに目を閉じている。

源蔵は、今日一日を振り返っていた。冬の景色、孫娘の訪問、そして昔の記憶。それらは全て、源蔵の心に、温かい光を灯してくれた。

源蔵は、窓の外を見た。空には、満月が輝いている。その光は、雪を抱いた富士山を優しく照らしている。

源蔵は、静かに目を閉じた。心の中で、一句詠んだ。

「月光に 浮かぶ富士嶺 春近し」

この小説が、提示された季語を通して、冬の情景と、春を待つ人々の心の機微を描き出す一助となれば幸いです。


1月24日

水 仙

寒 雀

雪 見

鴨(群)

冬の浜

大 寒

冬木の芽

冬 芽



冬 日

日脚伸ぶ

冬日和

雪見舞

炬燵猫

女正月

臘 梅

富士山(冬)

ふぐり落し
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