季節の織り糸

雪深き山里の冬

雪深き山里の冬

しんしんと降り続く雪は、夜が明けても止むことはなかった。老女は、寒さに身を縮こませながら、暖かな蒲団の中でゆっくりと目を開けた。白い霧が窓ガラスを覆い、外の景色は厚い雪のベールに包まれている。冷たい空気が頬を撫でるのを感じながら、ゆっくりと蒲団から這い出すと、足元からじんわりと冷たさが伝わってきた。冬深し（ふゆふかし）。暦の上では大寒を過ぎたとはいえ、山里の冬はまだまだ厳しい。

「今日もまた、雪か…」と、老女は小さく呟きながら、窓の外を見つめた。雪の中に埋もれた庭の片隅で、水仙（すいせん）が凛と咲いているのが目に入った。雪の白さに映えるように、白い花弁が寒空の下で清らかに咲き誇っている。春の足音をかすかに感じさせるその姿に、老女は目を細めた。

足元の冷たさを感じながら、厚着をして外に出た。庭をゆっくりと歩くと、雪の中に埋もれるように、冬薔薇（ふゆそうび）が一輪、健気に花開いているのを見つけた。他の花々はすっかり枯れ果て、寂しい冬景色の中で、その一輪だけが力強く、そしてどこか哀愁を帯びて咲いている。老女はその姿に心を打たれ、そっと手を合わせて祈った。

庭を後にし、近くの川辺へと向かう。雪で白く染まった川面には、鴨（水尾）（かも（みずお））たちが集まり、水尾を作りながら優雅に泳いでいる。水面を滑るように進む姿を見ていると、老女の心も穏やかになっていく。川のせせらぎ、木々を揺らす風の音、そして時折聞こえる鴨の鳴き声。寒さを感じさせる冷たい風が顔を撫でるたびに、老女は自分が確かに生きていることを、深く実感していた。

「この静かな時間が、いつまでも続けばいいのに…」と、老女は心の中で呟きながら、川の流れを見つめていた。すると、近所に住む若い夫婦が、小さな子どもを連れてやってきた。「おばあさん、こんな寒い中、お散歩ですか？」と、にこやかに話しかけてきた。老女は優しく微笑みながら、「寒さもまた、冬の楽しみの一つだよ」と答えた。

その若い夫婦から、手作りの千枚漬（せんまいづけ）を分けてもらった。老女はその温かい心遣いに深く感謝しながら、冷たい手で包まれた千枚漬をそっと口に運んだ。パリパリとした心地よい食感と、上品な甘みが口の中に広がり、じんわりと温かさが身体の奥深くまで染み渡っていくのを感じた。

夕方になり、日が傾き始めると、老女は家に戻り、火鉢に火を灯して暖を取った。静かな夜が訪れ、窓の外には満天の星空が広がっている。老女はゆっくりと過去を思い出す。若い頃、家族と囲炉裏を囲んで過ごした温かい冬の日々。皆で鍋を囲み、他愛のない話で笑い合った日々。そんなかけがえのない日々が、今では遠い記憶となってしまった。骨正月（こつしょうがつ）も過ぎ、日常が戻ってきた。

「時が経つのは本当に早いものだね…」と、老女はしみじみと感じた。しかし、今は今で、この静かな山里で、大自然と共に生きていることに、深い喜びと感謝を感じている。寒波（かんぱ）は厳しいが、日脚伸ぶ（ひあしのぶ）を感じる日も増えてきた。

ふと、窓の外に垂れ下がる大きな氷柱を見上げると、その凛とした美しさに改めて心を奪われた。冬の厳しい寒さの中で育まれる自然の力強さ。その力強さを胸に抱きながら、老女は静かに心の中で誓った。この自然の恵みを、これからも大切に慈しみ、心の中で育んでいこうと。マスク（ますく）の下で、かすかな微笑みを浮かべた。雪（ゆき）はしんしんと降り積もる。

寝床に戻り、温かい蒲団（ふとん）に身体を沈めると、眠りにつく前に、再び懐かしい記憶が鮮やかに蘇ってきた。冬の夜、囲炉裏を囲んで家族と過ごした温かな時間。その温もりを感じながら、老女は静かに眠りについた。厳しい寒さの中に、春を待つ静かな力強さと、確かな温かさを感じながら。茶の花（ちゃのはな）はまだ蕾を固く閉ざしている。鷹（たか）は遠い空を舞っているだろうか。寒泳（かんえい）をする人の姿は、この山里では見られない。寒薔薇（かんそうび）は、まだ雪の下で春を待っている。


1月22日

水　仙

蒲　団

冬深し

鴨（水尾）

大　寒

スキー

日脚伸ぶ

冬薔薇

鷹

マスク

茶の花

寒　泳

寒薔薇

寒　波

骨正月

マスク

雪

千枚漬