季節の織り糸

雪女の懐（ふところ） ～北国の小さな奇跡～ 1月15日

雪女の懐（ふところ） ～北国の小さな奇跡～

雪がしんしんと降り積もる、北国の小さな村。暦は正月十五日を過ぎ、日脚も幾分伸びてきたとはいえ、あたりはまだ深い冬の眠りの中にあった。厳しい寒さの中、空には寒禽の群れが小さく旋回している。

村の奥深く、冬木立に囲まれた古い家に、冴という名の女性が一人で暮らしていた。雪女と噂されるほど、透き通るような白い肌を持つ彼女は、冬の精霊のような雰囲気を纏っていた。

その日は、村の剣道場の初稽古の日だった。冴は、幼い頃から剣の道に打ち込んできた。凛とした佇まいで竹刀を構える姿は、まさに凛々しく、男たちも息を呑むほどだった。稽古が終わると、皆で紅葉鍋を囲んだ。凍える体にあたたかい鍋料理は格別で、皆の顔に笑顔が溢れた。

稽古の後、冴は一人、雪道を家へと帰っていた。懐手をして、冷たい風に吹かれながら歩く。空を見上げると、くっきりと富士山がその雄大な姿を現していた。雪を纏った富士は、神々しく、見る者の心を奪う。

その日の夜、冴は不思議な夢を見た。雪の中で迷子になっている幼い女の子を見つける夢だった。女の子は寒さに震え、泣いていた。冴は、その子を抱きしめ、自分の懐で温めた。夢の中で、冴は初めて温かい感情を知った。

目が覚めると、外はまだ暗かった。しかし、窓の外を見ると、雪が止み、月明かりが雪を照らしていた。冴は、夢で感じた温かさを思い出し、胸が熱くなった。

その日から、冴の心に変化が現れ始めた。これまで、孤独を愛し、他人と深く関わろうとしなかった彼女が、村の人々と積極的に交流するようになったのだ。子供たちに剣道を教えたり、村の行事に参加したりするようになった。

ある日、冴は村の子供たちと雪合戦をしていた。子供たちの無邪気な笑顔を見ていると、彼女の心にも温かいものが込み上げてきた。その時、彼女は初めて、自分が本当に「生きている」と感じた。

冬が終わり、春が近づいてきた。雪が解け、土の中から冬萌が顔を出し始めた。村には、春の訪れを告げる鳥たちのさえずりが響き渡るようになった。

冴は、春の陽射しを浴びながら、村の子供たちと野原を歩いていた。子供たちの楽しそうな声が、彼女の心を温かく包み込む。

その時、彼女はふと、冬の夜に見た夢を思い出した。寒さに震えていた幼い女の子。そして、その子を温めた自分の懐。

冴は、自分が夢の中で得た温かさを、現実の世界で分かち合っていることに気づいた。そして、その温かさは、彼女自身の心を満たし、彼女を本当に「人間」にしてくれたのだ。

空には、鷹が悠々と舞っている。春の風を受けて、力強く羽ばたく姿は、希望に満ち溢れていた。

冴は、空を見上げ、微笑んだ。彼女の心には、春の陽射しのような、温かい光が満ち溢れていた。


1月15日

雪　女

冴　ゆ

寒　禽

寒

日脚伸ぶ

初稽古 （稽古始）

鷹

懐　手

富士山（冬）

紅葉鍋

冬木立

正　月

冬　萌