季節の織り糸

春秋花壇

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一月八日 – 小寒

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一月八日 – 小寒

小寒の冷気が、針のように肌を刺す。吐く息が白く染まり、街は深い静寂に包まれている。遠くでかすかに聞こえる羽根つきの音が、過ぎ去った年の名残を告げている。手に取った年賀状を一枚一枚、丁寧に開いていく。懐かしい筆跡、温かい言葉。友人たちの近況、恩師からの激励、故郷からの便り。それぞれの言葉が、過ぎ去った一年を鮮やかに蘇らせる。笑い合った日々、分かち合った悲しみ、そして、心の奥底に沈む後悔。過去は確かに、今の私を形作っている。

「今年は、一人で静かに時を過ごそう」と決めていた。賑やかな初詣の人波に身を任せるのではなく、近所の公園をゆっくりと歩くことにした。枯れ木に結ばれた注連飾りが、冷たい風に吹かれている。古びた藁縄が、過ぎ去った年とこれからの一年を、静かに結びつけている。それは、過去と未来を繋ぐ、細い糸のようにも見える。

公園の池の水面は、凍てつくように静かだ。白い鶴が一羽、片足で立ち、じっと水面を見つめている。その孤独な姿は、どこか毅然として、私自身の姿を映し出しているようだ。私も池のほとりに腰を下ろし、目を閉じる。風の音、水面の微かな揺らぎ、遠くから聞こえる鳥のさえずり。静寂の中に、過去の記憶が波のように押し寄せてくる。

その時、池のほとりに古びた黒い箱を抱えた男が現れた。風に吹かれた長い髪、深く刻まれた皺、その目は遠い過去を見つめているようだ。傀儡師だ。彼は無言で箱を開け、中から小さな人形を取り出した。糸を操るその指先は、まるで魔法使いのように繊細で、すべてを支配しているかのようだ。人形は命を吹き込まれたかのように動き出し、悲しげな旋律に合わせて踊り始める。その動きは、まるで風に舞う木の葉のようにはかなく、過去の記憶に囚われた魂の彷徨を映し出しているようだった。

人形の切ない表情、憂いを帯びた仕草が、私の胸に深く響いた。悲しみ、後悔、そして、叶わなかった夢。人形は、まるで過去の自分を映し出す鏡のようだ。だがその動きには、過去に囚われることなく、前へ進もうとする意志が感じられた。それはまるで、過ぎ去った時間の影を背負いながらも、新しい一歩を踏み出そうとする、私自身の姿のようだった。

傀儡師の指先から伸びる糸は、過去と未来を繋げる力を持っている。人形の動きは、過去の記憶を呼び覚ますと同時に、未来への希望を指し示しているようだ。過ぎ去った時間は二度と戻らない。だが、その記憶が今の私を形作り、未来を生きる力となる。それは、傀儡師が操る人形も、この私自身も、同じように糸に繋がれている、ということなのだろう。過去、現在、未来、そして人々。すべてが、見えない糸で繋がっている。

人形劇が終わると、傀儡師は静かに頭を下げ、箱を閉じた。その姿は、夕日に照らされ、どこか寂しげで、それでいて温かい光に包まれているように見えた。私も立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。池の水面には、先ほどまでとは違う景色が映っていた。鶴は翼を広げ、ゆっくりと飛び立ち、水面に波紋が広がった。その波紋は、過去と未来を分ける境界線のようにも、また、過去と未来を繋ぐ糸のようにも見えた。

家に帰ると、温かな湯気を立てるお茶を淹れる。湯呑みから立ち上る湯気を見つめながら、心が静かに落ち着いていく。再び年賀状を見返す。それぞれの言葉が、私を励まし、勇気づけてくれる。過去からのメッセージを受け取り、未来への一歩を踏み出す。

夜になり、湯船に浸かる。温かい湯が、身体を包み込み、心も優しく溶かしていく。目を閉じると、傀儡師の指先、踊る人形の切ない表情、飛び立つ鶴の力強い羽ばたきが、鮮やかに蘇る。過去を抱きしめ、未来を見つめる。あの人形も、傀儡師も、そしてこの私も、同じように糸に繋がれている。過去を力に変え、未来を切り開いていく。窓の外には、冷たい光を放つ星が輝いている。明日から、また新しい一日が始まる。私は、その糸をしっかりと握りしめ、未来へと歩き出す。


1月8日

小 寒



寒 柝



初 詣

去年今年

歌留多

柳葉魚

傀儡師

初 鳩

池普請

年賀状

迎 春

枯 桜

注連飾

初 旅

初 湯
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