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初春の風 1月5日

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「初春の風」

一月五日、冷たい空気に混じって、ほんのりと甘い、春の匂いが鼻をかすめた。街は新年を迎えたばかりで、まだどこか浮き足立っているようだった。初詣を終えた人々が、温かい甘酒を求めて神社の境内を行き交い、遠くには雪を頂いた富士山が、冬の澄んだ空気にくっきりと浮かび上がっていた。比叡山から下山してきたばかりの参拝客の姿も見え、新年の清々しい空気が満ちていた。

佐和子は、母から年末に送られてきた牛蒡注連(ごぼうしめ)の包みを手に、久しぶりに実家への帰路を歩いていた。冷たい風に頬をかすめられながらも、どこか心は温かい。実家の近く、いつも見慣れた掛け柳の前を通り過ぎると、幼い頃、この柳の下で友達と遊んだ記憶が鮮やかに蘇ってきた。

「初春の風だね」と、佐和子は小さくつぶやいた。吐く息が白く、空に溶けていく。商店街では、色鮮やかな羽子板や羽子が並んでいる店が目に入った。そういえば、昨年の年越しは近所の子供たちが初めて羽子板に挑戦して、あちこちで羽根が舞っていたっけ。その下手ながらも一生懸命な姿が、佐和子の胸を温かくした。

実家の玄関を開けると、温かい出汁の香りが鼻をくすぐった。母が笑顔で出迎えてくれた。「おかえり、佐和子。よく来たね。」

母は毎年、新年の書初めを欠かさない。今年もすでに筆と墨、半紙が用意されていた。「今年もまた、今年一年の抱負を綴ってみようか」と母が嬉しそうに言った。「そうだね、どんな言葉にしようかな。」佐和子も笑顔で答えた。ふと、視線を落とすと、床の間に飾られた花瓶に、鮮やかな黄色の福寿草が咲いているのが目に入った。厳しい冬を乗り越えて咲く福寿草は、新しい年の始まりを告げているようだった。

食卓には、去年の残り物を使った昆布巻きや数の子、そして今年初めて作るお雑煮が並んでいた。母は「去年今年だね」と笑いながら言った。佐和子は、去年の出来事をゆっくりと思い返しながら、温かいお雑煮を口に運んだ。去年の初詣では、母はいつも「家族みんなが健康でありますように」とお願いしていた。佐和子も、特に深く考えずに同じようなことを願っていた。しかし、今年は違った。昨年、佐和子自身に起こった出来事を通して、誰かに与えられるものではなく、自分の手で幸せを掴み取るのだと気づいたのだ。「初詣のとき、何をお願いした?」と母に尋ねた。「それはね、毎年決まって『家族みんなが健康でありますように』って。あなたが元気に過ごせるように、って。」母はいつものように優しく答えた。「私も、今年は少し違うお願いをしたんだ。」佐和子は少し照れながら言った。「自分の力で、幸せな毎日を送れるようにって、心から願ったよ。」

夕食後、佐和子は一人で近所を散歩することにした。初春の夕暮れは、昼間の暖かさが嘘のように冷え込んでいたが、その空気はどこか清々しく、佐和子の心を落ち着かせた。通り過ぎる家の玄関には、古くなった年縄がまだ飾られていたり、街角の小さな店先には、可愛らしい姫始の飾りがちょこんと置かれていたりして、新年の名残をとどめていた。佐和子は、この街で過ごした子供の頃のことを思い出しながら、ゆっくりと歩いた。

「今年も、色々なことに挑戦してみよう。」佐和子は心の中で静かに誓った。新しいことに挑戦し、自分の力で未来を切り開いていく。その決意は、春の訪れを心待ちにする蕾のように、佐和子の中で確かに膨らんでいた。

次の日、佐和子は母と一緒に書初めをした後、近くの神社へ初詣に出かけた。昨日までとは違った、確かな希望を胸に、佐和子は静かな街を歩いていた。新しい年が、自分にとって、そして大切な人たちにとって、素晴らしい一年になりますように。そう心の中で静かに祈りながら、彼女の足取りは軽やかだった。


1月5日

淑 気

牛蒡注連

羽子板・羽子

喰 積

福寿草

初 詣

去年今年

書 初

正 月

年賀状

初比叡

富士山(冬)

掛 柳

初 春

年 縄

姫 始
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