季節の織り糸

初景色 1月4日

「初景色」

1月4日。新しい年の始まりが、まだどこか不確かな足取りで続いていた。町はすでに、三が日を過ぎて落ち着きを取り戻し、けれどもまだ正月の気配を色濃く残していた。静かな朝、由佳は薄く晴れた空を見上げた。これが初空だろうか。澄み渡った青空が、まるで新しい年の希望を象徴しているかのようだった。

昨年、由佳の人生にはいくつもの変化があった。その中でも最も大きなものは、夫の突然の死だった。しかし、息子の健太とともに、少しずつ前を向いて歩いていこうと決意した。今日も新しい一歩を踏み出すために、少しだけ外に出てみることにした。

「お母さん、今日も初詣行くの？」健太が問いかける。

「うん、行こうか。今年もきちんと神様にご挨拶をして、無事な一年を願おう。」由佳はそう答え、暖かなコートを羽織って外に出た。

初詣で参拝した後、町の古い神社の境内に足を運ぶ。そこには、毎年恒例の「初景色」を楽しむために集まる人々がいる。初景色とは、元旦から数日以内に、初めて目にした風景や出来事を記録することを意味している。由佳は、健太と一緒にその風景を楽しんでいた。

「今年も、この景色が見られて幸せだね。」由佳はふと、景色の中で目を閉じて深呼吸をした。遠くに見える山々の雪景色や、薄明かりに輝く神社の鳥居が、心に沁み渡る。

「福寿草が咲いているね。」健太が指をさすと、由佳もその方向を見た。小さな黄色い花が、雪を突き破るように顔を出していた。福寿草は、春の訪れを告げる花として知られているが、この時期に見つけると、特に縁起が良いとされている。

「本当に、今年もいいことがあるといいね。」由佳は心の中で願いながら、その花をじっと見つめた。

参拝を終えた後、由佳と健太は町を歩きながら、また家路を辿っていった。その途中で、年賀状を郵便ポストに投函しながら、由佳は何枚かの年賀状を手に取った。これらは、町の人々から届いたものだった。

「今年もよろしくお願いします。」その一言が、由佳にとってはどれほど温かいものだったことか。親しい人たちからのメッセージは、正月の中でも特に心を温めてくれるものだ。

家に帰り着くと、すでにテーブルの上には福茶が用意されていた。お年始に飲むお茶は、特別に縁起が良いとされているものだ。由佳は、お茶を一口飲みながら、思わず息を吐いた。

「今年も少しずつ、前を向いていけるといいな。」そうつぶやきながら、由佳は心の中で新たな決意を固めていた。

その日、由佳は「初夢」を見ることができた。それは、夢の中で亡き夫が微笑みながら自分を見守っているというもので、目を覚ましたときには、何だか心が落ち着いているのを感じた。夢の中で彼が言った言葉、「大丈夫、あなたならきっと大丈夫だよ。」 その言葉は、由佳にとっての新たな支えとなった。

その後、町では年始の「初句会」が開かれていた。由佳はこれまで俳句には興味があったものの、参加するのは初めてのことだった。健太と一緒に会場に向かい、町の人々と一緒に和やかな時間を過ごす中で、由佳は新たな繋がりを感じ始めた。初句会では、冬の風物詩や新年にちなんだ句が次々と詠まれ、その一つ一つに皆が感動し合う。

「今年も、みんなでこうして楽しく過ごせることが大事だな。」由佳は、心からその時間を楽しんでいた。

午後には、「初筑波」も行われた。初筑波とは、筑波山に登り、登山の安全を祈る行事だ。由佳は健太と共に町の人々と一緒に参列し、山のふもとから登山を始めた。山を登るとき、由佳は何か心の中で重荷を降ろすような気持ちになった。険しい道を登るごとに、少しずつ前に進んでいく自分を実感することができた。

山頂にたどり着くと、広がる景色に息を呑んだ。初日の出を迎えたばかりの山頂から見る景色は、心が洗われるようだった。

下山し、家に戻ると、夜も更けてきた。由佳はその日を振り返りながら、心の中で新たな決意を誓った。新しい年が始まったばかりだが、少しずつ進んでいけることを確信していた。

「今年も、きっと素晴らしい年になる。」由佳は、自分にそう言い聞かせて眠りについた。

— 終わり —


1月4日

福　笑

初　空

初景色

嫁が君

福寿草

初　詣

四　日

初　夢

初句会

年賀状

初筑波

福　茶

初景色

御　慶

年の朝

歯　固

投扇興