季節の織り糸

初空の下で 1月3日

 「初空の下で」

1月3日、三日目の正月。町は、静かな冬の朝を迎えていた。空は澄み渡り、初空の美しい青が広がっている。空気は冷たいが、その中に新しい年の始まりを感じさせる清々しさがあった。

町の中心にある小さな神社では、年始の参拝者たちが七福神詣を行っている。由佳はその神社の参道を歩きながら、毎年訪れている習慣を守っていた。今年も、心の中で新しい年の祈りを込めて、各神様に一礼をした後、境内をゆっくりと散策していた。

「初鴉、か。」

由佳は思わず立ち止まった。初詣の後、聞こえてきたカラスの鳴き声。カラスは古来より不吉な鳥とされることもあるが、由佳にとっては、何かしらの意味を持っているような気がした。毎年、三日の朝に必ずカラスの鳴き声が響くのだ。

「お母さん、どうしたの？」

由佳の後ろから声がかかった。振り返ると、息子の健太（けんた）が、雪だるまを作っている最中に顔を覗かせた。健太はまだ小学校低学年だが、元気いっぱいで、由佳の心の支えとなっている。

「ううん、何でもないよ。健太も初詣、行ってきたの？」

健太は嬉しそうに頷き、「うん！ 今年も御慶の年でありますようにってお願いしてきたよ！」と元気に答えた。

由佳はその言葉を聞いて、心の中で思わず微笑んだ。子どもの純粋な祈りには、何か不思議な力があるような気がする。

その日、商店街のあちこちでは、年賀状の整理が行われている。由佳も自分の店に戻ると、まだ届いていない年賀状がいくつか積まれていることに気づいた。仕事が忙しくて、つい後回しにしていた。彼女はその中から、近所に住む長老からの年賀状を手に取った。

「今年もよろしくお願いします。」その一言が、由佳の心に響く。

長老はもう八十を超えており、毎年恒例の年賀状を欠かさず送ってくれる。由佳はその思い出深い手紙を胸にしまい、ふと、店の外に目を向けた。

外では、松飾りが町の人々によって新年を祝うかのように飾られていた。由佳は手を合わせ、心から新しい年の平穏を祈る。そして、そのまま店の奥にある小さな本棚に目を向けた。

「独楽…」

由佳は本棚の隅に並べられたおもちゃを見つけた。独楽（こま）という言葉に、幼いころの記憶が呼び覚まされる。お正月になると、家族みんなで独楽を回して遊んだことを、由佳は懐かしく思い出した。

「健太、独楽で遊ぼうか？」

健太はすでに外で雪遊びを楽しんでいたが、由佳の声に振り返り、うれしそうに戻ってきた。

「うん！ でも、どうやって回すの？」

由佳は少し考えてから、古い独楽を手に取り、健太にその使い方を教えた。回し方のコツをつかんだ健太は、しばらく無心で独楽を回し続けた。冬の冷たい空気の中で、ただ回転し続ける独楽の音が、何とも言えず心に響いた。

その日の夕方、町の人々が集まり、初茜の時を迎えていた。夕日が西の空に沈みかける頃、空が茜色に染まる。初茜の美しい景色を前に、由佳は静かにその瞬間を味わっていた。

「今年も、きっと良い年になる。」由佳は心の中でそう呟き、ふと健太を見つめる。健太は満面の笑みを浮かべ、まだ回り続ける独楽を見守っていた。

初明りが町を照らし、夜の帳が下りる頃、由佳は静かな気持ちで家に帰る準備をした。正月の静けさの中で、心の中に芽生えた希望とともに、今年もまた少しずつ前に進んでいこうと感じていた。

「これからも一緒に、頑張っていこう。」

由佳はそう自分に言い聞かせ、健太と一緒に帰路についた。冬の夜空に浮かぶ星々が、まるで彼女に微笑んでいるかのように輝いていた。

— 終わり —


1月3日

三　日

初　空

切山椒

独　楽

初　鴉

松　飾

七福神詣

正　月

年賀状

初　茜

初　鶏

御　慶

初明り

三　日

初明り

独　楽

礼　者