季節の織り糸

春秋花壇

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初山河 1月2日

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 「初山河」

初詣を終え、三が日も過ぎようとしていた。雪の舞う二日目の朝、町の商店街はまだひっそりとしており、正月の静けさが漂っていた。遠くの山々は白く輝き、初晴の空に照らされていた。明るい日差しに包まれた町では、松飾りが色鮮やかに立ち並び、しめ縄が風に揺れる光景が見られる。正月らしい風景だったが、心の中で何かがもやもやしている女性が一人いた。

その女性、加藤由佳(かとうゆか)は、町で小さな文房具店を営んでいる。店内には新年の飾り付けが施され、福引のくじ引きも準備万端だが、心から楽しめていない自分がいた。昨年の暮れに夫を亡くし、初めて迎える元旦がこんなにも寂しく感じるとは思わなかった。

由佳は店の隅に置かれた一つの木箱を見つめる。それは、亡き夫が毎年欠かさずに手に入れていた「宝舟」と呼ばれるお守り箱だった。今年も、それがあることで何かが変わる気がして、由佳はそっと手を伸ばす。

「お父さん…今年はどうか、私を助けてください。」

何気なく呟いたその言葉に、ほんの一瞬、心の中に温かさが戻ってきたように感じる。思い出の中に息づいている夫の面影は、どんなに時間が経っても色あせることなく、彼女を支えてくれていた。

その日、由佳は自分の店の外に置かれた「若水」と書かれた大きな桶を見つけた。新年の水で清めるという意味が込められており、ここで初めて手を合わせると、一年の無事を祈るという風習だ。彼女はひとしきりその桶に水を注ぎ、心を落ち着けてから手を合わせる。

その時、ふと耳にしたのは、どこからともなく聞こえる声。商店街の奥から、賑やかな笑い声が響いていた。

「由佳さん! 今年もよろしくね!」

声をかけてきたのは、商店街の顔とも言える太田さんだった。太田さんは、商店街にある居酒屋の主人で、毎年正月に「年酒」を振舞っていることで有名だった。彼は笑顔で由佳に近づくと、手に大きな酒瓶を持っていた。

「今年も一緒にどうだい? みんな集まってるよ。」

由佳は少し戸惑ったが、気づけば自然に頷いていた。商店街の人々と一緒に、新しい年を迎えることは、これからの一年に向けて心を新たにする良い機会だと感じたからだった。

商店街の居酒屋に入ると、賑やかな声と笑いが広がっていた。そこで出されたのは、まさに「年酒」と呼ばれる、正月にしか味わえない特別な酒だった。その酒には、太田さんの奥さんが手作りした「数の子」が添えられていて、どこか懐かしい味がした。

由佳はその酒を口に含むと、しばらくしてから涙がこぼれそうになった。しかし、それは悲しみの涙ではなく、むしろ、今まで忘れていた温かさを感じた瞬間だった。

「由佳さん、今年もみんなで力を合わせていこうな。」

太田さんの言葉に、由佳は思わず笑顔を見せる。そうだ、今年は一歩踏み出さなければならない。夫が遺したものを守り、前に進んでいかなければ。

その後、みんなで囲んだ餅をつき、福引きのくじを引いたりしながら、午後の陽が傾くころ、由佳は初山河を見上げていた。山の向こうに沈む太陽を見つめ、静かな気持ちでその日を締めくくった。

「また、来年もこうして迎えられたらいいな。」

由佳は心の中でつぶやき、ゆっくりと店に戻った。彼女の心には、少しずつではあるが、新しい年に対する希望が芽生えていた。

— 終わり —


1月2日

数の子

二 日

二 日

三が日

お降り

太 箸

門 松

初山河

一 月



福 引

旧 年

初 晴

元旦

宝 舟

若水・若井・初水

年 酒
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