季節の織り糸

春秋花壇

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雪籠

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雪籠

冬の初め、町を包み込む雪は、まるで静かな秘密のようにひっそりと降り積もっていった。夜が訪れると、家々の灯りが雪に反射し、まるで夢のような幻想的な風景が広がった。そんな夜、村の外れにある古い家で一人暮らしをしている女性、千尋(ちひろ)は、窓からその景色をじっと見つめていた。

家は古びており、木の床は軋み、屋根はすっかり苔むしていたが、それでも千尋にとっては安らぎの場所であり、長年一人で過ごしてきた自分にとっては、外の世界と隔絶された静かな場所だった。だが、冬の寒さだけは、どうしても身に染みる。

「今年もまた、雪籠の季節か。」千尋はそう呟きながら、薪をくべて暖を取る。

「雪籠」という言葉は、この地方で使われる特有の表現だった。それは、雪が深く積もり、外の世界が完全に閉ざされてしまう季節に、家の中で過ごすことを意味していた。外に出られなくなるほどの雪が降ると、村人たちは家の中に籠もり、食料を切り詰めながら静かに過ごすのだ。

千尋は昔から、その雪籠の季節が好きだった。外の雪景色を見ながら、家の中で静かに過ごす時間は、彼女にとって一番の贅沢であり、心の平安を感じる瞬間だった。しかし、今年は何かが違うような気がしてならなかった。

その晩、千尋は小さな懐中電灯を持ち、古い屋敷の中を歩き回った。外から見れば、ぼろぼろに見えるその家も、彼女にとっては多くの思い出が詰まった場所だった。母親と過ごした幼少期の記憶、そして父との約束が、この家の隅々に残っているような気がした。

「そろそろ、あの部屋も整理しないとね。」千尋は自分に言い聞かせるように、屋敷の奥へと足を進めた。

その部屋は、家の一番奥にあり、千尋が子供のころから立ち入らなかった場所だった。母親が急に亡くなってから、父も病気で寝込むことが多くなり、次第に家の管理が疎かになっていった。その部屋には、母親が使っていたものや、何かの記録が残されているはずだった。

千尋は、部屋の扉を開けると、そこには古びた家具や埃をかぶった本が散乱していた。どこか懐かしい匂いが漂い、思わず立ち止まってしまう。その中で目を引いたのは、大きな木製の箱だった。それは母が愛用していたもので、昔、千尋が小さい頃に一緒に触れた記憶が鮮明に蘇った。

箱を開けると、そこには古い手紙や写真、そして一本の小さな雪の結晶の形をしたガラス細工が入っていた。そのガラス細工は、千尋が小さいころ、母親が手作りしたもので、雪の季節が来るたびに毎年飾られていたものだった。

「母さん、元気でいてくれるかな。」千尋はそのガラス細工を手に取り、しばらく見つめていた。突然、耳を澄ませると、外から微かな音が聞こえた。何かが家の外を歩いているような音だった。

「誰かいるの?」千尋は思わず息を飲んで窓の外を見た。雪が強く降り続け、視界が白く霞んでいた。だが、確かに誰かの足音が響く。

千尋は少し戸惑いながらも、外に出ることに決めた。雪が深く積もった庭を歩き、音のする方へと進んでいくと、そこには一人の男性が立っていた。彼は顔を隠すようにマフラーを巻き、雪に覆われた屋敷の前に佇んでいた。

「あなたは…?」千尋が声をかけると、男性は静かに振り向き、少し驚いた表情を浮かべた。

「すみません、迷ってしまって。こんな雪の中、道に迷ってしまいました。」男性は言った。

「こんな雪の中、迷うなんて。」千尋は驚きながらも、男性を家の中に招き入れた。暖かい火の前で、男性は雪の冷たさを感じたことだろう。千尋は何気ない会話をしながら、温かい飲み物を手渡した。

「実は、私はこの町に昔から住んでいて、あなたの家を知っていたんです。」男性は少し戸惑いながら言った。「子供のころ、あなたのお母さんが大変お世話になったんです。」

その言葉に千尋は驚き、しばらく沈黙が流れた。彼は母の古い友人だったのだろうか。それとも、何か別のつながりがあるのだろうか。

「あなたのお母さんが作ったガラス細工、ずっと大切にしているんです。」男性は静かに続けた。

千尋はその言葉に心を動かされ、思わず目を潤ませた。母親が残したものが、こうして誰かに大切にされているとは、思いもしなかった。

その後、二人は暖かい室内で、静かにお互いの思い出を語り合った。雪籠の中で過ごすその夜、千尋は一人ではないことを感じ、温かな心を胸に、また新しい季節が始まることを実感した。

外の雪はますます強く降り続けていたが、家の中では温かな光と温もりが包んでいた。






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