季節の織り糸

春秋花壇

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初氷

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初氷

秋の終わり、村の人々が温かな衣を重ね、火を囲んで過ごす季節が訪れていた。空気は澄み渡り、風が冷たくなり始め、木々の葉は色づき、ひとしきりの賑やかさを終え、静けさを迎えていた。村の外れにある小川も、そろそろ冬の気配を感じ始めていた。

その日も冷たい風が吹き、私は家の前の小道を歩きながら、やがて訪れる寒さを感じていた。足元には、まだ残った枯葉が風に舞い散っている。昨夜の霜が、朝日を受けてキラキラと光っていた。

「初氷の季節だな。」私は一人ごちるように呟きながら、小川に向かって歩いた。小川は、秋が終わる頃になると、薄氷を張ることで知られている。今年もきっと、あの薄氷が朝の光を受けて輝いているだろうと思った。

小川に到着すると、予想通り、氷が薄く張っていた。細かく波打った表面には、ほんのりと白い霜が積もり、まるで静かな水面が寝静まったような感覚を与えていた。その氷は、村人たちにとっても特別な意味を持っていた。

「今年も無事に初氷が見られたか。」私はつぶやき、手を伸ばして氷を触れてみる。その感触は、まだ冷たさを感じさせるほどに薄くて脆いものだったが、それでもその冷たさは冬の訪れを予感させるには十分だった。

初氷は、村で古くから伝わる言い伝えを思い出させるものでもあった。それは、初氷を見た年に豊作が約束され、逆に初氷を見逃すと厳しい冬が待っているというものだった。だからこそ、村の人々は初氷を見ることを大切にしていたし、それが来ると、誰もが心の中でその年の幸運を祈った。

私の家でも、この時期には父がいつも決まって言っていた。「初氷を見た年は必ず良い年になる。だから、今年もまたみんなで頑張ろうな。」父はそう言って、私たち家族を励ましてくれた。

その言葉を思い出すと、心の中で自然と力が湧いてくるようだった。今年もまた、あの言葉が耳に響いてくるような気がした。

「おはよう、リナ。」

突然、後ろから声をかけられ、振り向くと、そこに友人の千夏が立っていた。千夏はいつも元気で、村で一番の活発な女の子だ。冬になると、千夏は必ず雪だるまを作ったり、雪合戦をしたりするのが好きで、私にとっては冬の楽しみを教えてくれた友人でもあった。

「おはよう、千夏。」私は微笑んで返す。

「初氷、見た?」千夏が目を輝かせて尋ねる。

「うん、見たよ。まだ薄くて、すぐ割れちゃいそうだけど。」私は小川のほうを指さして言う。

千夏もその氷を見て、「ああ、やっぱり。寒さが本格的になった証拠だね。私、今日は川のそばで遊びたかったんだ。」と言って、足を進める。

「ちょっと待って。今朝は氷を割るようなことはしない方がいいよ。」私は急いで止めた。子供の頃、千夏と一緒に氷を割ったりして遊んでいたが、今ではそんな遊びは慎むべきだと思うようになっていた。

「わかった。」千夏は少し不満そうに言ったが、それでも素直に立ち止まる。「でも、これからの季節、楽しみだな。雪が降ると、また遊べるから。」

「うん。」私は頷きながら、小川の流れを見つめた。春には川の水が雪解けで勢いよく流れ、夏はその水を使って村の畑に水を引くことができる。そして冬は、氷と霜が支配する季節。しかし、どんな季節でも変わらないのは、この小川が村を支えてくれているということだった。

その日は、千夏と一緒に川のほとりで少しだけ静かに過ごした。私たちは、どこか懐かしい感じがする風景を見ながら、寒さが深まる中で心を温かく保つ方法を探していた。

夕方になると、空はますます冷たく、星がきらきらと輝き始めていた。家に帰ると、母が温かな鍋を用意してくれていた。湯気が立ち上り、その匂いは心までほっとさせてくれる。

「おかえり、リナ。今日はどうだった?」母が尋ねる。

「初氷、見たよ。」私はニコリと笑って言った。「今年もまた、良い年になる気がする。」

母は優しく微笑み、私の肩を軽く叩いて言った。「それなら、きっと大丈夫よ。私たちはいつも頑張っているんだから。」

その夜、私は初氷を見たことで、少しだけ未来が明るく感じられた気がした。寒さが厳しくなればなるほど、その後に来る温かさを信じて過ごしていけるような気がしたのだ。






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