季節の織り糸

城北中公園の喫煙所

「城北中公園の喫煙所」

秋晴れの午後、城北中公園の広場は黄色い銀杏の葉で彩られていた。冷たい風が吹き、木々の隙間から青い空が見える。広いこの公園には、たった一か所だけ喫煙所がある。その存在は、どこか場違いなようでいて、この公園の風景の一部にもなっていた。

喫煙所に近づくと、二人のお年寄りがベンチに腰かけ、スマートフォンをいじりながらタバコをふかしているのが見えた。二人とも無口で、互いに言葉を交わす様子はない。ただ、タバコの煙がゆらゆらと空に溶け、落ち葉とともに漂う。

私はその様子を遠くから眺めていた。スマートフォンを持たない私は、彼らのように画面を通じて外の世界とつながることができない。だが、それが寂しいとも思わなかった。

ベンチに座る二人のうち、一人は白髪交じりの中肉の男性。もう一人は小柄な女性で、丸い眼鏡をかけていた。おそらく夫婦だろうと思ったが、少し離れて座るその距離感は、家族というよりも旧友に近いようにも見える。

私はベンチの近くに立ち止まり、そっと耳を傾けた。女性が小さく笑い、男性に話しかけている声が聞こえる。

「あなたも、スマホの使い方に慣れたじゃない。」

「まあな。孫に教わったんだが、正直まだ慣れないよ。」

「それでも、こうやって写真を撮れるんだから大したものよ。」

男性は苦笑いしながらタバコを灰皿に押し付け、スマートフォンの画面を女性に見せた。画面には、この公園で撮ったらしい銀杏の写真が表示されている。

「いい写真ね。」

「そうかい？でも、撮るだけで、どうすればいいか分からん。孫に送ろうと思っても、いつもやり方を忘れる。」

「じゃあ、今度また孫に聞いてみたら？」

女性の穏やかな声が心地よく響き、私は自然と微笑んだ。

ふと、私の足元に一枚の銀杏の葉が落ちてきた。拾い上げると、鮮やかな黄色が手のひらに広がった。その形は、どこか心の奥をくすぐるような懐かしさを感じさせる。

「いい季節だな。」

男性の声が私の耳に届く。思わず振り返ると、彼がこちらを見て微笑んでいた。

「そうですね。銀杏が舞うのを見るのは、なんだか贅沢な気分になります。」

私がそう答えると、彼は軽くうなずき、再びスマートフォンをいじり始めた。

「昔はこんなものなかったけどな。今じゃこれがないと生きていけないって言うんだから、不思議な時代だよ。」

「私はまだスマホを持っていないので、そういう感覚は分からないんですけど……便利そうですよね。」

「便利なもんさ。でもな、結局、人と人が顔を合わせて話すのが一番だと思うよ。」

その言葉に、女性が小さく笑いながらうなずいた。

「本当にそうね。でも、遠くにいる人とはこうしてつながれるから、悪いことばかりでもないわ。」

私はそのやり取りを聞きながら、少しだけ胸が温かくなった。

その後も、銀杏の葉は風に乗ってはらり、はらりと舞い続けた。

私はしばらくその場に立ち尽くし、二人の静かな会話と銀杏の葉の音に耳を傾けていた。そして、もう少しだけこの時代の風景を眺めていたいと思った。

「じゃあな、また来週。」

そう言って男性が立ち上がり、女性と別れの挨拶を交わすのを見届けた後、私もまた自分の時間に戻るため、公園を後にした。

スマートフォンがなくても、銀杏の葉が舞うこの場所には、時代を超えて変わらない何かがある。私はそう感じながら、遠ざかるベンチを振り返った。