季節の織り糸

落ち葉のオノマトペ交響曲

落ち葉のオノマトペ交響曲

日曜日の昼下がり、公園の並木道は黄金色に輝いていた。風が吹くたびに銀杏の葉が舞い、地面にはふかふかの絨毯が広がる。その中を一人の女性が歩いていた。彼女の名前は佐野遥香。32歳、広告代理店で働く彼女は、ここ最近仕事に追われ、心の余裕を失っていた。

「はぁ……」

深いため息をつきながら、公園のベンチに腰を下ろす。ポケットからスマートフォンを取り出し、溜まった未読メールの数に目をやるが、開く気にはなれなかった。

ふと足元を見ると、銀杏の葉が吹き溜まりを作っているのが目に入った。黄色い葉が幾重にも重なり、ふわふわとした山のようになっている。遥香はぼんやりとその様子を眺めていたが、不意に心が揺さぶられた。

「……踏んだら、どうなるんだろう。」

そう思った瞬間、気づけば立ち上がり、吹き溜まりに向かって足を踏み入れていた。

「さくっ。」

軽やかな音が足元から響く。遥香は驚いた。銀杏の葉がこんなにも心地よい音を奏でるとは思わなかったのだ。

「かさかさ……さくさく。」

足を動かすたびに変化する音が面白くなり、遥香は吹き溜まりを歩き回った。

「さくっ！さくっ！」

両足でわざと力を入れて踏むと、乾いた葉が砕ける音が響く。子供のように夢中になり、次々と踏みしめていく。

「さくさく、かさかさ、しゃりっ……」

思いがけない音のバリエーションに、遥香の顔には自然と笑みが浮かんだ。

遥香はふと立ち止まり、自分の足跡を振り返った。銀杏の葉の絨毯には、歩いた跡がくっきりと残っている。その不規則な模様を見ていると、不思議な感覚が湧き上がった。

「なんだか、人生みたい……」

遥香の胸に、小学生の頃の記憶が蘇った。

幼い頃、彼女は母と一緒にこの公園を訪れていた。母はいつも忙しく、遊ぶ時間はほとんどなかったが、秋だけは特別だった。銀杏の葉が散り始めると、母は必ず遥香を連れてここに来た。そして一緒に落ち葉を踏みしめ、音を楽しんだ。

「さくさく、かさかさ……ねえ、遥香、この音、楽しいでしょ？」

「うん！楽しい！」

あの頃、母の笑顔は本当に輝いていた。だが、いつの間にかそんな時間もなくなり、遥香自身も忙しさの中で心の余裕を失っていった。

「お母さん、元気かな……」

遥香はスマートフォンを取り出し、久しく連絡を取っていなかった母の番号を探した。しかし、迷いが生じて指が止まる。

「いや、今さら何を話せばいいんだろう……」

そんな時だった。背後から、子供たちのはしゃぐ声が聞こえてきた。振り返ると、小さな兄妹が落ち葉の山に飛び込んでいた。

「しゃっ、ざくっ！」

「わーい、かさかさするー！」

その無邪気な笑顔に、遥香の胸がじんと温かくなった。子供たちの母親が少し離れたところから微笑ましそうに見守っている。その姿を見て、遥香は再びスマートフォンを握りしめた。

「やっぱり、かけてみよう。」

ボタンを押し、呼び出し音が鳴る。少しの間があって、母の声が聞こえた。

「もしもし、遥香？」

「お母さん、元気？今、公園にいるんだ。昔みたいに銀杏の葉、踏んで遊んでたら思い出しちゃって。」

母の声が驚きと嬉しさに混じっていた。

「懐かしいわね。銀杏の葉の音って、不思議と元気が出るのよね。」

「うん、そうだね。あの頃みたいに、また一緒に遊びたいな。」

母は少しの沈黙の後、笑顔が声に乗るような返事をした。

「いつでも誘ってちょうだい。私も久しぶりに、さくさくを楽しみたいわ。」

電話を切った遥香は、公園を後にしながらもう一度振り返った。風に舞う銀杏の葉が、まるで手を振っているように見えた。

「さくさく、かさかさ……また来よう。」

落ち葉の音が、遥香の心に新しい音色を奏でていた。